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告げる想い

「降りてこいクソガキ!」

「誰が降りるかばか!」

 どれだけ不利な状況になっても煽ることだけは忘れない。煽れているかどうかはさておき。

 しばらくそんなやりとりが続き、何度か無様にぴょんぴょんと跳ねて私を引き摺り下ろそうとするが、3メートルの高度に届くはずもなく。

 少し余裕が出てき、鬼龍院のジャンプに合わせて頭上に硬質光を設置し、頭を勢い良くぶつけさせるまでになる。

「いっ……てえなゴラァ!」

 腕を水平に大きく振り、大げさに痛がる。そこで不意に何かにヒビが入る音が聞こえた。微かながらだが。

「……む?」

「む?じゃねえよ!降りて来いってんだ!さっきまでの威勢はどうした?あぁ⁉︎」

「子供に暴力振るう人間に近づくなってパパとママから言われてますからー!残念でした不細工!」

「てっめぇ……!」

 馬鹿の一つ覚えのように何度も何度もぴょんぴょんと跳ねるので、何度も何度も光を硬質化して頭を打ち続ける。

 馬鹿か本当に。

「……そろそろか」

 口元を嫌に歪ませ、先ほどよりも大きく腕をしならせ、振るう。

「何をしてっ……⁉︎」

 足元の光が大きな音を立てて崩れ始める。

「うわああああああ‼︎」

 尻餅をつく。

 そこまで高くないとはいえ、3メートルから落ちたのだ。さすがに痛い。

 しかし、その後すぐにそれを超える痛みを味わうことになる。

「ハロぉぉぉぉぉぉ…………。クソガキちゃんよおおおおお!」

 顔面を思い切り蹴り飛ばされる。少し飛ばされ、地面を這いつつもなんとか体制を整える。

「もっと喚けや!」

 懐からおもむろに銃を取り出す。なぜ今まで使わなかったのだろうか。

「忘れてたがよぉ……。俺にはこぉんないいモノがあるんだぜぇ……」

 忘れてたそうだ。やっぱりばかだこいつ。

「蜂の巣にしてやる!」

 マシンガンなどの弾を連射できるタイプの銃でいうならまだしも、リボルバータイプでぱんぱんとご丁寧に一発ずつ撃ちながらいうセリフではない。

 的外れな方向へ飛んでいきながらも、それは最初の一発のみで後は私の体を貫かんと私めがけて飛んでくる。勿論防御する。

 最後の一発が発射されるという真際に硬質光で銃口を塞ぐ。

「これで……!」

「うおっ⁉︎」

 目論見通り銃が暴発、これで……。

「てめぇ、さっきので学習しなかったのかぁ?」

 一筋の閃光が走り、火花が自らを散らしつつこちらめがけて飛んでくる。

「そういえば……っ!」

 目の前で爆発が生じる。防御はしたが、完全に防ぐことは出来ずに服の一部が燃える。

「あつっ……」

「熱がってる場合かってんだよ!」

 再装填したのだろう。弾がフルに入ったリボルバーの銃口が向けられる。

 そして、乾いた六発の発砲音。そのうちの一発が私の肩を貫く。

 空に放たれる鮮血。痛みで目の前が真っ暗に、頭は真っ白になる。

「あぐぅ……。いたい……。いたいよぉ……」

「ちっ、全部は当たらなかったか」

 銃をその辺に投げ捨て、此方に一歩、また一歩といった調子でゆっくり近づいてくる。

「どうだ?痛ぇだろ。痛ぇよなぁ⁉︎」

 被弾した肩をジロジロと見つめ、その後踵で傷口を踏みにじる。

「ぎぃ…………っ!」

「はははは!ついでにさっきてめぇに貰った分も付け加えといてやるよ!」

 小さく腕を振るうと傷が拡大し、痛みも増す。

 おかしい。

 こいつは炎系統の能力者じゃなかったの……?

 いや、それは私が勝手に決め付けていただけだ。本質を理解できてないなかっただけだ。

「さーて、そろそろ殺すか。先に行った二人もブチ殺さねーといけないんだからなぁ……。どっかの誰かさんが先に行かせちまったもんでなぁ!」

 そう言ってなにやら歩きだし、教会に飾ってあったレイピアを手に取って再び私の元へと戻ってくる。

 あれで刺し殺すつもりなのだろうか。

 痛みで能力が発動出来ない。

 他のみんなはこんな痛みをいっぱい感じていたのか……。

 辛いよ。痛いよ。

 思わず涙が溢れる。この涙は自分が死ぬのが嫌で流した涙か、鬼龍院に恐怖して流した涙か。

 いや、どちらも同じことだ。私は死ぬ。それは変わらないことなのだから。

「ゆうと……。ゆうとぉ……!」

 今度は思わず悠人の名前が口をつく。

「よし、じゃあ死ね」

 そう言ったその時、何かが鬼龍院の体を貫いた。

「は?」

 脇腹から血が溢れ、膝から崩れ落ちる。

「はぁぁっ!」

 女の声と共にもう一度何かが飛んでくる。これは……薙刀?

 薙刀の勢いに押され、壁に鬼龍院の体ごと突き刺さる。

 先ほど飛んできた物は日本刀、それも一緒に突き刺さった。

「あの……。どう力を加えればあんな吹き飛び方をするんですか?振幅をプラスしたとはいえ……」

「ふっ。鍛え方が違うのですよ……。鍛え方がですね!」

 声のした方向を向く。すると、ボロボロになった服を着た榊と傷一つ負っていない状態の、悠人が立っていた。

「メアちゃん、大丈夫ですか⁉︎」

 榊は鬼龍院のいる方へ向かい、悠人はこちらへ駆け寄ってくる。

「……我のことはナイトメアと」

「はは、そうでしたね」

「むぅ……。だ、大丈夫であるぞ」

「無理をする必要はないですよ。傷の手当をしましょう」

「あ、あの……」

「なんですか?」

「あ、ありがと……。助けてくれて」

「いえ、そんなの気にしないで下さい。僕達は仲間なんですよ?」

「仲間……」

 仲間止まりでいいのか。いや、そんなことはない!勇気を振り絞れ私!

「悠人……」

「なんですか?」

「我……いや、私は悠人のことが……」

「僕のことが?」

「す、すすすすすすす…………す、好きです!」

「……え?」

「な、何度も言わせるなばか!」

「……とても嬉しいです。でも、その気持ちは将来、僕なんかよりもっと他の人へ向けてあげてください。僕も小さい頃に好きだった近所のお姉さんが居たのですが、その人にも同じことを言われました。そしてこうとも。それでもなお僕のことを好きでいてくれたなら、その時は僕と……。結婚でもなんでも致しましょう……と。言葉は完全に受売りですが僕はこの言葉をその人に会っていないくても言ったとおもいます。今は、これで」

「……うん。ありがと」

 今すぐ結論を出してもらえるとは思っていない。けど、今はこの言葉だけで十分だ。

 そして、私の意識は深い眠りについた。



「さぁて、向こうはなんかラブコメやってるみたいですけど、こちらは血生臭いドロッドロの戦闘を始めるとしますか……と言っても、もう決着はついていると思いますがね」

 壁に張り付いたままの状態の男をマジマジと眺める。

「貴方、名前は?」

「てめぇに名乗る名なんざねぇよ」

「物が刺さってんのに随分と元気ですねぇ。なんというか、最近心境に変化がありましてね、前までは悪人は全員ぶった斬るのが私だったのですが、今は殺す必要はないんじゃないかとそういう……ね」

「あめぇな」

「甘くて結構。それに、貴方には甘さなんて微塵も出しませんからねぇ!あぁ⁉︎たかしくんよぉ!よくもメアさんをあんな目にあわせたな!」

 腹部に今度は木刀をねじ込む。木刀も体を貫通し、系三本の武器がたかしくんの体に刺さっている。

「どうですか?」

「痛ぇだろうがよ!さっさと殺せ!」

「は?楽に死ねると思ってるんですか?とんだ甘ちゃんですね。貴方の能力のタネは実はもうわかってんですよ。自らの受けた痛みを相手へ反射する能力、ですよね。多分二倍か三倍かに増加されて。そして、今もその機会を虎視眈々と伺っている。ですよね?」

 腕を組み、見下げるようにたかしくんを眺める。私の怒りは重い。

「ははっ、そうだよ!死ねぇ!」

 たかしくんが指を振り、能力が発動するその瞬間に四刀・春陽を取り出し、今度は太腿に突き刺す。

 春陽の効果は、斬った相手に幻覚を見せる能力。彼は今、私の幻影に向けて能力を発動しているはずだ。

 そのまま無駄に能力を発動し続け、苦しんで死ね。

「では、さようなら。本当は貴方をバラバラにして殺したかったんですがね、あの二人の前では今はそんなことできませんしね」

 城山さんにメアさんと合流し、急いで先に行った二人を追いかける。

 そして教会を出て、しばらくしたその時、無様な男の咆哮が聞こえた気がした。


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