砂と化し
「何?また何かするつもりなの?」
「ええ、何かするつもり……と、貴女は能力を話したのに、私が話さないのはなんだか卑怯ですよね
」
「いや、知ってるからいいよ。早着替えだっけ?能力が付加された服やら装飾品やらがない世界だと最弱レベルの能力だね」
「そうですね。能力だけでいうと私たちの中……いえ、この世界全体で最弱レベルです。でもありがたいことに、便利な武器があるんですよ。あってしまうんですよ、この世界には」
ただの布切れだった服は筋力増強の効果を持った漆黒の衣へと変わり、手に持っていたただの刀は身の丈を遥かに超えた大きさを持つ巨大な物へと変わる。
「おー、すごいねー」
「心にもない事を……」
「私が心に思うことなんてほとんどないよ。あって暇と好奇心ぐらいかな」
そんな取り留めの無い会話の終結を皮切りに勢いよく斬馬刀を振り下ろす。
「喰らえぇぇぇぇぇぇ!」
「そんなでっかいの振り回したところで当たるかっての」
半歩横に移動し、刀の軌道から外れる。
地面に当たった刀は大きな音を立ててその場にめり込んだ。
「ほら、隙だらけ……って」
ユーラは私が身動きが取れないと勘違いして銃口を向けるが、当の自分は既に斬馬刀による攻撃の第二波に移っていた。
「そんな何も持ってない状態で何すんの?自慢のおっきな刀は地面にめり込んで……」
「馬鹿ですか?私の能力は早着替えですよ?地面にめり込んだ物を一瞬で閉まって、すぐさま再召喚すれば実質攻撃の隙はなくなったもんでしょうよ」
「あー……。やっちゃったよ……」
「安心してください。殺しはしません……からっ!」
刀の峰を思い切り叩きつける。
「かはっ……」
肺から空気を吐き出す音が聞こえ、壁まで吹き飛び、ぶち当たってその後起き上がらなくなる。命に別状はないはずだ。
「あなたは悪くはない人でしたよ」
ふぅ、と一息つき、膝から崩れ落ちる。
ふと自分の体を見ると、滅鬼黒衣は砂となり消えかけていた。
絶鬼と名が近しいものがあり、惹かれて衝動買いしたものだったが、ここで力を使い果たしたか。そりゃそうだ。その時は気づかなかったが、いつのまにか今までの倍以上の力を引き出そうとしていたのだから。
「あは、は。お疲れ様でした」
黒衣に労いの言葉をかけた後、斬馬刀の柄を撫で、能力を発動して元あった場所に戻す。
滅鬼黒衣が無くなった以上、もう使うことはないだろう。
そして、城山さんのいる方向を見ると、アードルフが苦し悶えていた。どうやら、あちらも決着がついたようだ。
「あ、榊さん。そちらも終わりましたか……。あの、服を着てください」
「へ?……あぁぁぁぁあ……………!」
ほどなくして落ち着きを取り戻し、楓さんの鞄に残っていた応急処置の道具で傷の手当をしてから、どうにか下の階へとショートカット出来ないかを画策する。
「……ダメですね。床をぶち抜こうにも、高さがありすぎて下の階へ到着した瞬間、僕は大丈夫でも榊さんが死んでしまいます」
「あぁ……。あの階段を降りるしかないんですね」
「急ぎましょう。……それで、先ほど使った刀から光を発するあの技ですが……」
「……しぃー、でお願いします」




