お久しぶり
「榊さん達というわけではありませんが、少しお話をしませんか?」
「……ふむ、いいでしょう。丁度私もこの膠着状態に飽き飽きしていたのですよ」
「あなたは何故世界を支配しようとしているのですか?」
「決まっているでしょう。したいからですよ。私は、全てが欲しい」
悪びれる様子もなく淡々と答える。
「しかし、その後はどうするのですか?榊さん達の話を少し耳にしましたが、どうやら人々の意思を取り上げるそうですね。それで、意思が無くなった人々に対して馬鹿みたいに権力を振るってどうしたいんです?」
挑発に挑発を重ねる。どうやら榊さんの方も戦闘を始めたようで、あまり悠長に構えていられない。
まずは相手の主張を崩す。
「そんなことは支配が完了してから考えます。それに、あなたに何が分かるんですか?」
「わかりますよ。僕だって以前この組織にいたのですから。まぁ、あなた方の目的とは違う目的でいたわけですが。所属していた時から思っていましたよ。ああ、なんて具体性の無くて間抜けな組織だ、と。世界の支配?くだらない。何度失敗しても姫を攫うことを諦めない亀の化け物の方がよっぽど素敵ですよ」
「貴ッ様ぁぁ……!貴様ごときが我々を語るなぁぁぁぁぁぁ‼︎」
激昂し、影から飛び出す。
狙い通りだ。
「愚かですね」
震淵の効果により、振幅を発動。
黒い刃を腕に纏って斬りかかってくる。体の周りには、多くの影を纏わせて次の攻撃にも備えている。
激昂しながらも冷静な部分はまだあるようだ。
「愚直にどうも」
影の切っ先に棒を当て、失堕を発動。勢いそのままアードルフにぶつけ、カウンター。更に振幅の震動を加えて威力を底上げする。
「あああああああぁぁぁぁ!」
自らの体を斬り刻まれ、内臓をかき混ぜられたのだ。叫ぶのも仕方がない。
「久々にやりましたが、悪くはないですね。これで能力未発動の佐倉さん程度の実力には並べましたかね」
……とか、言ってみたり。
「絶鬼流……抜刀術……」
鉛の弾をそこらかしこに受け、まともに技を出せないまでの満身創痍になる。
「……いやいや、素直にすごいと思うよ。無駄だとわかっていながら一途に同じ剣術を使い続けるその根性」
呼吸が荒く、膝も笑い、立っていられない程に疲れが押し寄せる。
「あぅう……」
「あ、今の声かわいい」
「ば、ばか!ばーかばーか!」
反論も満足に出来ない。
……それはいつものことだけど。
しかし、どうするか……。
絶鬼流は封じられ、私は満身創痍、……けど、”あれ”は使いたくない。
いや、自分が使うのを許さない。
勢いで使ってしまったこともあるが、もう二度と繰り返さない。
と、そんなことは今はいい。
問題はどうやって攻撃を通すかだ。
残念ながら、私の剣は絶鬼流を基礎に染み付いてしまっているので、絶鬼流を使わない普通の剣術でさえ絶鬼流が滲み出てしまい、使えない。
私は絶鬼に囚われてしまった愚かな剣士だ。
「あははー。もしかしてもう終わり?悲しいねー、残念だねー。自分の最大の武器が使えなくなるってどんな気持ち?しかも相手の能力は全くもってわからないなんてさー」
「能力……?あなたは能力を使っているのですか」
「あ、やっべ。まぁいいか。バラしちゃえ。私の能力はねー、その辺の空気を変換して鉛の弾丸を作る能力なのさー。作れるのは弾丸だけだけどさ、結構便利なんだよねこれが」
なるほど、だから弾を多数持ち歩いているようには見えないのに、馬鹿みたいに乱射しても弾が尽きることがなかったのか。弾切れを狙う作戦はこれでなくなった。
「ね、もう諦めなよ。今からでも全然おしゃべり路線に戻っても大丈夫なんだしさ」
「……いいえ、男にだって女にだってやらなければいけない時はある。今が……そのやるべき時なんですよ!」
一つの案が思い浮かぶ。
……私の馬鹿。本当に馬鹿。何故これが真っ先に思い浮かばなかったのだろう。
絶鬼流に、あれを含めた剣術に盲信して、この世界おける最も重要なものを忘れていた。
「……黒衣、阿修羅、おいで」
久々の出番ですよ。




