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絶鬼の底

 距離は近くも遠くもない絶好の位置取り……といっても、相手は影の中に潜んでいるわけだが。

 さて、どう切り出すか。

 失堕は完全に防御技、振幅クエイクを使っても効果はないでしょう。

 そうなると、どうやって影から引きずり出すかということになる。

 または、相手が攻撃してきた瞬間にカウンター。カウンターの方が勝率は高そうだ。

 バルガスさんに使った地面以外に受け流すあれを使えばなんとかなるだろうか。

 幸い、相手は僕が何を出来るかわかっていない。

「どうしたんですか?こないんですか?」

 挑発を仕掛ける。

「そんな安い挑発に乗るとでも?貴方は私が影から出ないと攻撃出来ない。ここにいれば私は安全なんですよ。悪いですが、ここに縛られていてもらいますよ」

「ははは、ここに縛られているのはあなたの方ですよ。あなたは知らないと思いますが、我々の陣営の中で一対一の戦いで負けた人は僕含め二人しかいないんですよ。だから、です。更に、この中で一番弱い僕で一番面倒なあなたを縛ることが出来ているのはものすごく僕にとって、僕たちにとって都合が良いことなんですよ」

「それなら私も言わせてもらうとしましょう。私はこの中で一番実力の劣ります。他の方々もっと強い、と」

「では、最弱同士の見応えのない戦闘を開始しますか」

 眼鏡を外し、『震淵』を取り出して目に装着する。

 空気を振動させ、調子を確認。悪くはない。

 さて、どう攻めるとしますか。

 そして、迅速に倒してしまわなければ。あんなことを言ったものの、彼らが今回負けないということにはならないのですから。



「おしゃべりとは具体的に何を話すのですか?」

「なんでもいいよ。聞きたいことがあれば私から話しかけるし、聞きたいことがあればどんどん聞いてよ」

 聞きたいこと……。

「計画とはなんですか?」

 計画。

 現在進行形で進んでいる、計画。

「ああ、それね……。この世界を掌握するってのがこの組織の目的らしいよ」

「そこまでは知っています。まさか、それだけではないでしょう?」

「あ、知ってた?それなら話は早いよ。ほら、世界を掌握するってもさ、具体性がないじゃん?その具体性ってのを話そうと思うわけよ」

 そう言うと、腕を組んで考え始めた。内容をまとめているのだろう。「うーん」と何回か唸ったのちにごろんと寝そべり、ゆっくりと、少しずつ内容を語り始めた。

「世界を掌握。つまり世界征服だね。男の子だったら一度は夢みるんだろうけどさ、私らにはわからないよね。あははー」

 感情のこもっていない乾いた笑いを聞かされるこちらと気にもなってほしい。どう相槌を打てばいいかわからない。とりあえずこちらもあははと笑っておくことにする。

「その征服なんだけどさぁ、世界を征服ってことはさぁ、全てを制圧するってことじゃん?一人でも反抗してやるーって反骨精神を持った奴がいたら征服じゃないじゃん?制圧できてないじゃん?ということで、人間の脳を完全にコントロールするってのが今回の計画となります」

「脳を……こんとろーる?」

 だめだ。こんとろーるがわからない。

「……まさかコントロールから説明しないと駄目?」

「お、お願いします」

「めんどくせぇ……。操るってことだよ。あ・や・つ・る。この世界にいる奴ら全員の脳を操っちゃおうってことだよ」

「そんなことしちゃ駄目じゃないですか!」

「だから秘密裏に動いてんだろーが……もしかしなくても馬鹿でしょ」

「ぐぐ……」

 気づきたくない現実に直面させられる。

 ええ、そうです。どうせ私はお馬鹿さんですよーだ。

 ……なんて、頭の中で捻くれてもなんの意味もない。

「はい、以上。他何話すよ」

 唐突に話を切られて慌てふためく。

「ちょっ……待ってくださいよ!その話が本当なら早く止めに行かないと……!」

「何言ってんの?おしゃべりするって言ったじゃん。あんたはここであのイケメガネ同様縛られる運命なんですよー」

「そんなこと……させません!あなたを倒してさっさと通ります!」

「えー?戦うの?嫌だなぁ……。でも、面倒だからって止めなきゃいけないことには変わりないし……。うん、さっさと殺して寝てしまおう」

 ユーラはふらふらと立ち上がり、めんどくさそうに拳銃を構える。

 こちらも刀を取り出し、狙いを定められて撃たれる前にすぐさま切りかかった。

「早いねー。でも届かなーい」

 なんということか、刀は真っ二つに折れ、切っ先を失っている。

「なっ……⁉︎」

「ほらほら、しっかり避けなよ?」

 銃を乱射、弾を躱し、跳ね返すが何発かは対処しきれずに頰や太腿を掠める。

 一度距離を取り、新たな刀を取り出す。

 まずいことに、自らの得意とする刀状の武器が底をつきかけている。薙刀や木刀はあるものの、何より絶鬼龍の真髄である抜刀術が使えない。大切に使わなければ。

「……絶鬼流抜刀術一の型……。始っ!」

「おっ?」

『始』を相手の眉間目掛けて放つ。

 惜しくもユーラが発砲した弾丸を弾いたのみでおわってしまったが、すぐさま次の『喰』の準備に入る。

「喰っ!」

 二連撃目。

 相手の顔面を横方向に二つに叩っ斬る技。

「ざーんねん」

 すぐさま対応され、数発発砲。

「くっ……!」

 弾丸を切り裂き、なんとか全弾直撃を免れ、一発のみ少し掠る。

「何故……何故私の剣が……」

「知りたい?おしゃべりの続きだねー。実は……えーっと、あなたの名前なんだっけ」

「……榊、榊雫です」

「あーそーそー。雫ちゃんねー。雫ちゃんの剣術……絶鬼流だっけ?雫ちゃんって馬鹿みたいに技名叫ぶじゃん?決まりか何かは知らないけどさー。それで君らの一群の中でいっちゃん危険なその剣術を頑張って解析したらしいんだよー。スローでみたらもう何してるか丸わかりよ」

「……なら、絶鬼流抜刀術七の型……っ!」

「あ、無駄無駄。その剣術って軸があるでしょ?どんな斬撃放ってきても大体避けれるから無駄だよ」

仙灯せんとう!」

「あらよっと」

 なんなく躱される。

 この技を避けられてしまえば、通常の抜刀術にはもう最終奥義の”あれ”しか残っていない……が、こんなところで使うわけにもいかない。

「さて……どうしましょうか……」


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