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始めましょう

 大方予想はついていたが、奴らのいる場所はあの大きなロボットがあった場所にいるらしい。

 今はもう、すぐ近くにいる。

 新しくウエストポーチを買い、少しでも動きやすいようにと装備を整える。

「榊、このデカイの持っててくれないか?」

「あ、いいですよ」

 そんな会話を交わし、鞄を榊に渡して、空間に仕舞う。

 本当に便利な能力だ。どこかの青狸のように道具を使わずに出来るのだから。

 まあ、服とか装飾品に限るわけだけれども。

 ナイフを取り出し、戦闘準備に入る。もう廃ビルは目の前だ。

 目を閉じ、高坂が言っていたことを思い出す。

『と、こんなものだよ。場所を伝えたところで私は行くとするよ。……と、後一つ伝えておこう。実はだね、最近各地で暴れている馬鹿な神器使いがいるのだよ。まったく、あの塔の中でぬくぬくと過ごしておけばいいものを。今回は君を焚き付けて戦地に赴かせようとしているが、もしそいつと出会ってしまった場合は即刻逃げたまえ。君に、君たちに敵う相手ではない』

 今、暴れている奴には手を出すなと言っていた。しかし、今回手を出してよいと言われたということは、この戦いは勝てないということはないということだ。

 いける。

 目を開き、廃ビルの中へと今もう一度入る。

 僕を殺した罠はない。

「上は……なにもねぇよな。ぶっ壊れてんだし」

「それじゃあ地下か?でも地下へ行く階段なんかあったっけか」

「ふん、愚か者共めが。階段はなくとも、エレベーターがあろう」

 何故お前が知っている。お前はあの時一人残っただろうに。

「いや、普通にあったであろう。何故貴様らが乗らんのか不思議であったわ」

「気づいていたなら言ってくださいよ!刀と服を無駄にしちゃったじゃないですか!」

「実を言うと僕も気づいていましたが、バルガスさんや榊さんがあまりにもどんどん進むので、何か考えがあるのかと……」

 これで派閥を二分できたな。馬鹿組のアスタ、榊コンビと聡明組のメア、城山コンビ。

「まあいいじゃねーか。ほら、乗るぞ」

「むぅ……。わかりました」

 頬を膨らませながらも頷き、エレベーターへと乗り込む。それに続き、自分たちも乗り込み、階数の書かれたボタンを確認する。

「……あった!」

 そこにあるのは、B1と書いてあるボタン。

「なあ、前までんなもんあったか?」

「でもあるってことはあったんでしょう。多分」

 いや、なかった。このボタンは、あの後作られたものだ。

 何故なら、ボタンが他のものと比べて新しい。

 エレベーターに気づいた者と、気付けなかった者がいるのも、なんらかの理由があるのだろう。

 そう、まさしく何故か僕たちの存在に気づけたあの性犯罪者と、目の前まで接近するまで気付けなかった霊装・神隠しのような。

 気になる点もあるが、考えてばかりもいられないのでB1と書かれたボタンを押す。すると、エレベーターは地下へと降り始めた。どうやら、正常に作動しているみたいだ。というか、作動してくれないと困る。

 全員無言で目的の階まで到着するのを待つ。何故エレベーターの中って、しゃべってはいけないようなそんな空気が流れるのだろうか。

 気まずい時間を過ごしたのち、扉が開かれた。地下一階に到着だ。

「……お前ら、武器構えろ」

 アスタが突然真面目なトーンで言い放つ。

「え?」

「来るぞ!」

 アスタが副武装である剣を取り出し、アスタの勘付いた何かの攻撃を受け止める。

 そうわかった瞬間には、もう既に正体不明の何かの姿はなかった。

 僕もハンドガンを取り出し、スライド引いていつでも撃てる状態にする。榊は抜刀の構え、メアは懐中電灯の電源をオンに、城山は棒を振り楓回し、アスタに一歩遅れながらも全員が戦闘準備に入る。

「ちっ、もういねえ。気をつけろよ。今の普通じゃねえぞ」

「普通じゃないって……」

 少なくとも、この中に普通な奴は城山ぐらいしかいない。

「全員固りましょう。敵に背中を見せないでください」

 冷静に状況を分析し、城山が背中を預けるよう指示する。

 全員が即座に反応、お互いに背中を預け、預けられる立場になった。

「い、今のは……」

「無理すんじゃねえぞメア。今のお前は無能オブ無能だからな」

「なっ……!そんなことないし!」

「二人とも、馬鹿やってないで集中してください!」

 珍しく、榊が人をたしなめる立場に立つ。普段の姿とは大違いだ。それ程までに警戒しているということでもあるが。

「ようこそいらっしゃいました。私どもは、あなた方を歓迎致しません」

 どこからともなくそんな声が聞こえてくる。部屋は広く、僕たちを歓迎しない声は反響している。

「歓迎しないってんならさっさと僕たちを殺しに姿を現したらどうなんだよ」

「我々はどこまでいっても日陰者ですので」

 あくまで姿を隠したまま僕たちを五人の相手をするってことか。どうやら、長期戦になりそうだ。

 しかし、暗い。

 懐中電灯の力を持ってしても、ほとんど何も見えないくらいに暗い。逆にこちらの居場所を知らせるようなものじゃないのか?

「メア、灯りを消せ」

「……うむ。守ってもらうぞ?」

「それは僕たちに任せてください」

 メアも感じていたのだろう、すんなりと受け入れる。

 さあ、これで完全な闇が辺りを包みこむ。ささいな物音にも注意をしないと。

「懸命な判断ですね」

 すぐ後ろから謎の声。

「ッ‼︎」

「おお、怖い怖い」

 と、そんな声が聞こえる頃にはもういない。

 不可解なのは僕たちは今、全員が背中を向け360°入り込む隙がないというに、その輪の中から現れたということだ。

 その結果、誰もいない空間に向かって味方に対して武器を向けるということになってしまっている。

「……テレポートですかもしかして⁉︎」

「あるいは透明人間でしょう」

「いや、透明人間はねぇだろ。透明人間だからって俺達を透過できるわけじゃねえ」

「そういや、テレポートできる奴と戦ったことあったな。うん。透明人間ってより、こっちの方がしっくりくる」

「喋るなら手を動かしながらに……しろ!」

 考えている合間にも攻撃が止むことはない。どこからともなく現れ、どこからともなく攻撃が飛んできて、僕たちの知らぬうちに消えていく。

「ああ、埒があかねぇ!誰か明かりになるものねえか⁉︎この部屋全体を照らせるような奴!」

「んなもん……っ!あればとっくに出してるっつーの!おらっ!」

「……仕方ないですね。みなさん、少し目を瞑っていてください。その間に私がなんとかします」

「な、なんとかなるのか?」

「なんとかしてみせます。さぁ、行きますよ!」

 日本刀をもう一本取り出して鞘から抜き、片方を頭上へと投げる。

「奔れ私の剣!」

「うお……っ!」

 刀と刀をぶつけたところから光が溢れた。光はこの暗くて広い部屋をどんどんと明るくしていく。

 咄嗟に目を瞑り、光を直視することを防ぐ。あんな光をまともに見たら、失明してもおかしくない。

「そんな……」

 閃光弾のようなものなのだろう、辺りを包んでいた光は跡形もなく消え去り、元の暗闇で部屋は覆われていた。

 そこで榊は何かを見たのだろう。

「どうした?」

「誰も……誰もいませんでした」

「なんだと?どういうことだ」

「誰もいなかったんですよ!テレポートをしたわけでも、透明人間でもなく、何にもなかったんです!」

 僕とアスタが顔を見合わせる。

「なるほど。わかりましたよあの男の正体が」

 城山がゆっくりと話し始める。

「正体?」

「はい。最初の声から考え直してわかったのですが、声の反響具合から考えて彼は僕たちと同じ高さにいるとは思えません。しかし、この部屋には何もない。つまり、天井やそこらにいるということです。次に、僕たちの中心に突然現れたということですが、瞬間移動でもありませんねこれは。いくら瞬間移動といえども、音を立てずに現れるなんて芸当はできません」

「確かに現れたというより湧き出たって感じだな」

「そうです。彼は湧き出ているのです。それも、この部屋中にある影の中から」

「影だぁ?」

「影。榊さんが光を発している間、目を閉じて無防備な僕たちに攻撃しなかった理由も、僕たちから出来た影から出てしまえばたちまち榊さんに斬られてしまうからでしょう。ですよね?」

 何もない空間に対して確認をする。しかし、返事はすぐに返ってこない。十秒くらい経っただろうか、やっと返答をする。

「ご名答。それでは、名乗らせて頂きましょう。私は影の能力者、アードルフ=ゾエ。文字通り日陰者です」

「最初のあれにも意味があったとは……勉強になる」

 おーいそこ、あんな変な奴からそんなの学ばなくていいからな?

 これ以上中二病をアクセラレーションしないでくれ。

「しかし、私の能力がわかったところでどうするんですか?あなた方は影の中に潜る術を持ってはいない」

 笑いながら話す。嫌味な奴だ。

 そこで一つの案が僕の中に浮かんだ。

「……なあ、聞いていいか?」

「なんです?どうぞ」

「お前を倒した後ってさ、僕たちはまた下にいけばいいのか?」

「もう私を倒したつもりなのですか?笑ってしまいますね。まあいいでしょう。ええ、その通りです。この真下に次の相手が待っていますよ。私ほどではありませんが、強いですよ?」

「へえ。じゃ、これが最後だ。お前らって個人個人が戦いやすいような部屋にいるのか?」

「もちろん。私はこの暗い部屋、他の部屋はしっかり明かりがありますよ」

 それを聞いて、顔がほころぶ。馬鹿め、貴様は僕たちにとんでもないヒントを与えてしまった。

「よし」

 ナイフを取り出し、首元に添える。

 一気にナイフを引き、血が首筋から溢れた。

 そして、能力発動。慣れた動作だ。

「あーあー。よし、快調」

「何やってんだ?お前のそれでもあいつに攻撃は届かねぇぞ」

「いや、これでいい。なあ、今あいつ何を言ったと思う?下の階には明かりがあるんだとよ」

「……だからどうしたってんだよ」

「つまり、こうするんだよおおおおおおおおお‼︎」

 床を思いっきり殴り、穴を開ける。予想通り明るい部屋が見えた。

「そういうことか!」

 全員穴の中に飛び込み、地下一階から地下二階へと向かう。異例のショートカットだ。

「はっ、ここまで来てみろよ根暗野郎が!」

「ぐ……し、仕方あるまい!」

 僕たちに続いてアードルフも付いてくる。計算通りだ。そして、それぞれがそれぞれの方法で着地し、次の部屋へと到達する。

「おいおい、天井に穴なんか開けないでよ。結構困るんだよね」

 すました顔でそういう女。

「いやあ、申し訳ありませんユーラさん」

 ユーラと呼ばれた若い女はずっとどこか見当違いの方向を見ながら眉ひとつ動かさずにいい放つ。

 ……もう電波な女は沢山だからな。

「私は戦わないといけないのかな。正直なんでもいいんだけど」

 このやる気のなさ、どこかで見たことある気がするのは気のせいか。

「お願いしますよ。計画は進んでいます。ここで組織を壊滅させられるわけにはいきません」

「うん。それはわかってるけどさ。やる気でないよね」

「……あなたはなんでこの組織に入ったんですか?」

「さあ」

「さあって!この組織ができたのはつい最近のことですよ⁉︎」

「いい加減うるせーよ。私に話しかけんじゃねー」

 ……仲間割れか?それなら楽でいいんだけどな。

「おいあんた」

「……なに?」

「お前は俺たちと戦う気があるか?ないならそこを通せ」

「……そうだね、ぶっちゃけ面倒だから通っていいよ」

「ユーラさん!」

「その代わり、誰か一人私の暇つぶしに付き合ってよ。そしたら通してあげる」

 暇つぶし?

 一体何を考えているんだこいつは。意図が読めない。

「その暇つぶしって何すんだよ。その内容によって残す奴を変えないといけねーからな」

「ただおしゃべりしてくれるだけでいいよ。動くのが面倒でここを出ない私は、外の話を聞くのが楽しみなんだ」

 話をするだけなら、誰でもいいだろう。なんとなくで選んでしまっていい。

「……あなた方、少し調子に乗りすぎではありませんか?」

 アードルフが影を使って何かを飛ばしてくる。さっきからこうやって攻撃していたのか。

 攻撃は一瞬で僕たちの近くまで接近している。

「させません!」

 城山が攻撃を受け止め、威力を地面へと受け流す。

「というわけで、僕はここに残ります。あと、榊さんが残って頂くと安心ですね」

「私ですか?」

「はい。僕は防御特化の人間ですが、もし攻撃がそちらにいってしまった場合喋りながら攻撃を止めれるのはあなたかバルガスさんぐらいでしょう。しかし、バルガスさんと女の子を一緒にするのは危険です」

「おいてめえ」

 うん、よく分かってる。

「そういう理由ですか。わかりました。ユーラさん、おしゃべりをしましょうか」

「あ、決まった?」

 ユーラがゆっくりとこちらに向かってくる。そして、アードルフは城山に攻撃を続ける。依然影の中からは出てこない。

「さぁ、急いでください佐倉さん。彼の口ぶりからすると、現在進行形でなんらかの計画は進んでいると推測されています」

 こいつそこまで……。

「……ああ、任せろ」

 地上一階から地下一階、地下二階へと繋ぐエレベーターはあるものの、そこから下は階段しかないらしく、それを使い降りていく。

 が、下が見えない。

「……っ。味な真似してくれるじゃねーかよ」



「……行きましたね」

「はい。行っちゃいましたね」

 自分たちを除いた三人が行ってしまった後の階段を眺める。

「それじゃ、一頑張りするとしますか」

「気をつけてくださいね?もしヤバいなら私に代わってくれてもいいんですからね」

「はは、問題ないです。それに、僕にレディーの相手は少し手厳しい」

 城山は私に微笑みかけた。問題なさそうでなによりだ。

「さて、私たちも行きますよ!」

「いってしまいましょう!」


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