成功
「腰を伸ばせ!顔を伏せるな!」
猛特訓が始まった。人の事はあまり言えないが、挙動不審で根暗な性格を治すためにまずは立ち振る舞いから、ということに。
アスタと榊は僕のテンションについてこれずに、ゆったりとお茶をしている。ツッコミを放棄するとは何事か。
「……まあいい。ほら、次いくぞ次」
「さ、佐倉さん……」
「なんだ?」
「もういいですからとっとと一発……」
「お前、鎧をつけた大の大人があそこまで吹き飛ぶ姿を見て、良くそんなこと言えるよな」
そういうところはもはや賞賛に値する。僕なら絶対にそんなこと言わない。
「僕も経験は乏しいけどさ、頑張ってみろよ」
どうすればいいのかわからないので、とりあえずエール?を送っておくことにする。
………………なんだこれ。
今更ながら、テンションの異常な上がりように深く反省する。
やるといった以上、やるしかないが、なんだか……面倒くさい。
数時間が経ち、そろそろ帰りたくなったのか、アスタと榊が声を掛けてくる。
「なあ、あいつはどうなったんだ?」
「あ、ああ……。うまくいったことはいったんだけどな……」
言葉を濁す。
「はっきりしねぇな。直接見てやる」
二人を引き連れ、山田がいる大通りへと向かう。
不安だ……。
しばらく歩き、山田の姿を確認する。
「あれだ……」
「わかった。山田!」
山田の元へと駆け寄り、会話を始めた。
どうなっても知らんぞ……。
しばらく会話を続けた後、アスタが帰ってくる。
「……成功っちゃ成功だな」
「……だろ?」
とても微妙な顔をしながら、僕と話す。するとそれを見て、山田が近づいてきた。
「何を話しているんだい?ははっ。苦笑いの君もまた素敵だね。榊ちゃん。その美貌に、乾杯」
「……帰りましょう」
「……そうだな」
依頼料だけを受け取り、付いて来られないように全員、出来る限りのスピードでその場を去る。
僕は走り幅跳びの要領で空を駆け、アスタはエルヴレインの力を利用して走る。
榊はあの青くて際どい忍者の様な、スピードアップ作用の服を着て、瞬時にその場を去った。
僕が気づいた頃には、屋根の上を必死の形相で走って逃げていた。
……こういう依頼が来ても、二度と粛清とか考えずに、そのまま捨てよう。




