ヒートアップ
依頼主との待ち合わせ場所である、オシャレの中心地となっているらしい街に向かう。
ちなみに、僕たちの家の近くにある街は戦闘狂が集まる、無法地帯中の無法地帯……まあ、お互いがお互いを牽制しあってるので、大きな戦いは殆ど起こらないが。
ついでに言うと、この間いった都市は科学の街と呼ばれているようだ。
この世界の人間は、国とかそういう概念ではなく、趣味や性格でいる街を決める傾向にある。
と、そんなことはさておき。
僕が先頭、二人が後からついてくる形で歩みを進める。
「おいおい、あんまり焦るなよ。
小走りになってるじゃねえか。俺たちの歩幅と合わないのに、無理して先に歩こうとしてんじゃねえよ」
「は?何言ってんだ?小走りなんてなってないし。元からこれが僕の歩くスピードだし」
「無理すんなって。今のお前は幼女なんだから……よっと!」
僕の腰からナイフを抜き取り、腕を上にあげ、ほら、どうしたと言わんばかりにナイフを振る。
「あ、おい、返せよ!」
背が届かず、ぴょんぴょんと跳ねて少しでも近づこうとする……が、 もちろん届くわけもなく。
周りから見れば、父親と遊ぶ娘を見守る姉、みたいな構図になっていると思う。
「その辺でやめておきましょうね」
榊がアスタからナイフを奪い取る。
そして少ししゃがみこみ、僕にナイフを渡す。
「おお……。今の僕にはお前が天使に見える」
「……よしよし」
僕の頭をなでなでと優しく撫でる。
「てめえまで子供扱いしてんじゃねーよ‼︎」
榊の頭に激しい蹴りをツッコミと共にぶち込む。
「あいた!」
依頼主がいるというカフェについた。
後ろの二人はしょんぽりと肩を並べ、静かにしている。
「えっと……依頼主はっと……」
依頼書には、赤い服を着ていると書いてあったけど……。
店の中をキョロキョロと見回すと、確かに赤い服を着た、僕より少し年上くらいの少年がいた。多分彼だろう。
「あの、便利屋ですけど……山田充さんですか?」
本人ではなかった場合、なんだか気まずいので、引き気味に聞く。
「あ、はい。私が山田ですよ。たかなすうぇっ!!ごほっ!ごほっ!」
「その辺でやめとけよ」
冷静に諭す。
数分経ち、山田が冷静さを取り戻す。
「ど、どうも……。僕がや、山田です……」
「おい。さっきまでのテンションはどうした」
「そ、その辺は怒られそうなんでちょっと……」
うん。大体わかってた。
多分そうなると思ってた。
「んで?あの依頼はどういうことだ。『は、はわわ⁉︎(以下略)』を狙ってんのか?エロ同人みたいに!」
「それもういいですよ」
うるせえ。
「ぼ、僕は……昔からこういうことが苦手で……。童貞を卒業できれば……な、何かが変わるかな……と、思いまして……」
「話が肥大しすぎだよ馬鹿!まず最初は、恋人を作って〜とかだろ!なんでいきなり性行為なんだよ!」
「あ、あなたには関係ないじゃないですか……」
「大いに関係あるわ!僕が貴様が依頼してきた佐倉楓だよ!」
「……冗談はやめてくださいよ」
またこれか。いちいち説明するの面倒くさいんだよなぁ。
……閃いた。
「アスタ、エルヴレイン出せ」
「あ?急になんだよ。……まあいいけど。エルヴレイン!」
エルヴレインを顕現させる。しっかりフルアーマーだな。
「いくぞ」
エルヴレインを装着したアスタを思い切り蹴飛ばす。蹴飛ばされたアスタは空高く舞い、真っ白な鎧があたかも天使のように見えた。
「ぐえっ!」
そして、数秒後に堕天使になった。
「これで分かったか?僕が佐倉楓だ」
「いえ、全然」
……アスタ、お前のことは忘れないよ。
「楓ぇ‼︎何しやがんだ‼︎」
はは、ごめんごめん。と、心の中で謝っておこう。
「……まあ、今はこんな姿だけどよ、僕はれっきとした佐倉楓なんだ。そこんとこ理解してくれ」
もう、こうとしか言いようがない。
これ以上、僕にどう説明しろというのか。
「……じ、事情はわかりませんが、わかりました……。で、でも……」
「でも、なんだ」
「僕……幼女ではちょっと……」
こいつ、まだこんなこと思ってやがったのか。
「いいか、僕たちがここに来たのは、てめぇの童貞を卒業させるためじゃない。……粛清しに来たんだよこの変態が‼︎」
座っている山田に飛びつき、飛び蹴りをかます。
もちろん手加減はしているが。
「な、何を……」
「だぁーらっしゃい!その根性、叩き直してやる!」
「お前も結構根性曲がってるけどな」
「本当になんでそんなにテンション高いんですか?」
「さあな。なんか変なもんでも食ったんだろ」
「外野うるさい!」
上がりきったテンションはとどまることを知らず、さらにヒートアップしていく。
「僕がお前を超モテ男にしてやる!」
「自分も未体験なのにか?」
「だから外野うるせええええええええええええええええ!」




