目覚め
「さて、そろそろ偉大なる俺様の出番かな」
やたらと誇大したアスタが戦いの名乗りを上げる。
そういえばこいつがまともに戦っているところを見たことがないな。
ゆうちゃんの時も結局戦わなかったし、盗賊の時はほぼ遠目からだし、家の時も終盤だったし、案外楽しみだったりする。
「最初からクライマックスって奴だ!来やがれエルヴレイン‼︎」
エルヴレインをフル装備で顕現させる。本当に本気っぽいな。
相手の如何にも強そうな男は、つかつかと近づいて来て、全員が戦闘態勢に入る。
アスタは手持ちのランスを振り回し、自分を鼓舞。
相手も武器を構える。戦闘開始秒読みだ。
「一応聞いておくが……俺たちを見逃すって選択肢はないか?」
無理に決まってんだろ。
「そんな選択肢はない。お前たちにあるのは、死のみだよ」
当たり前だが、話を聞く気はないようだ。そりゃそうか。
「そうかよ。ま、俺は何も考えずにぶちのめすだけだ!」
右膝に格納されてある針を飛ばす。そんなギミックあるのかよ。何気に高性能だなエルヴレイン。
「こんなもの!」
男が腕に装備した、銀色のガントレットで針を弾く。
「うぉらっ‼︎」
その隙に、思いっきり突きを放つ。しかし、間一髪のところで躱される。
「まだまだぁ‼︎」
今度は、どこからともなく二本の剣を出し、ランスを背中に背負って怒涛の攻めを見せる。
「調子に……乗るな‼︎」
相手も負けてはおらず、受け止めては反撃を繰り返す。フルアーマーのアスタにはダメージを与えることができないが、多分、体力の限界が近づくと外れることを悟ったのだろう。攻撃を続ける。
剣を一本、真上に放り投げ、少し距離をとる。
やがてその剣の先が床にぶつかり、その上からアスタが無理やり硬い床に押し込む。
そして、柄を握りしめ、大きな声で叫ぶ。
「エルカラミティ‼︎」
体力の消耗を恐れてか、ランス以外の装備全てを外す。
残されたランスが黒々とした色へと変わっていく。
「喰らええええええ‼︎」
禍々しい色に変貌したランスを男へと投擲する。
「当たると思うか?」
余裕と言わんばかりに軽々と身をいなす……が、男の腹から血が溢れ出る。
「な……」
「当たると思ったから投げたんだよ。これでてめぇの負けだ」
剣を取り出し、斬撃を放つ。斬撃は男の体を切り裂き、やがて消滅する。
「ふぅ……。クソ雑魚だったな。おれの勝ちだ」
全武装を解除し、勝利宣言。
「お疲れ様です。バルガスさん」
「負ければよかったものを……!」
素直に勝利を祝ってやれ。
「言ってろ。それより、このロボットどうしようか」
「どうしようと言われましてもね……僕ではどうにもなりませんが、バルガスさんと榊さんの二人でなら破壊できるんじゃないでしょうか?」
確かに、絶鬼流とカラミティなら出来るかもしれない。
なにより、ここで破壊しておかないと、奴らの戦力を削ることが出来ない。
依頼内容は組織の壊滅だ。この巨大兵器の破壊無しにして、組織の壊滅はありえない。
「……仕方ねぇな。協力してやんよ」
「こちらとしても誠に不本意なんですがね」
そうは言いつつ、息ぴったりに二人同時に装備を出し、構え、叫ぶ。
「絶鬼流抜刀術弐ノ太刀……影楼‼︎」
「カラミティ‼︎オラァああああああああ‼︎」
特大の衝撃波と最大の力で放ち、光がフロア全体を覆う。
「眩し……」
どうだ……?
どうだ……?とか言うのはどうもなってないフラグというが、例に漏れず、ロボットはどうもなっていなかった。
「ぐっ……はぁ。クソ……駄目か……」
疲労困憊といった様子で、床に座り込む。
「はぁ……はぁ……。そ、そんな……」
アスタはわかりきっていたが、二人とも大技を出したらしく、もう動けそうにないくらい疲れている。
城山一人では流石にどうすることも出来ないだろう。
「……‼︎」
……なんだ?
地面が揺れ始める。
「おいおい……!まさか……‼︎」
おいおい……!じゃねーよ!そんな暇あるならさっさと僕を担いで逃げてくれ!ほら……ロボットの目が光って……‼︎
「に、逃げましょう!」
城山の言う通りだ。さっさと逃げろ!
「……榊、城山、先に行け。できる限り食い止める」
「な、何を……!」
「行ってくれ。それで意地でも聴きだすんだ。こいつを止める方法をな。城山、他のアジトとか多分あるだろ?」
「は、はい。ここ以外のアジトは全て網羅してあります」
「頼むぞ。俺もできる限りやるけど、長くは持たん」
ランスを片手にロボットへと向き直る。でも、これは流石に……。
「……わかりました。気をつけてください」
「おう。お前らも頼むぞ」
「〜〜〜‼︎アスタさん!死んだら殺しますよ⁉︎」
「はっ。いくらでも殺されてやるよ」
その言葉を皮切りに、アスタに別れを告げて、榊と城山は別のアジトへと向かう。
「さて、できる限りやってやるとするか!エルカラミティ!」
カラミティを顕現、放出はせずにランスに纏わせたままにして、攻撃を開始する。
早く、早く僕も復活しないと……でも……。
「くはははは!深淵から復活してやったぞ愚民共‼︎」
白い髪のいたいけなクソガキが複数のペンライトを持って現れる。
「メア……これたのか」
「だから追いつくと言ったであろう?このペンライトで光を固めて壁に突き刺しながら登ってきたのだ。……超しんどかった……」
馬鹿だこいつ。しかし、ここで戦力が増えてくれるのはありがたい。
「早速で悪いが、お前にも戦ってもらうぞ」
「勿論だ。貴様一人に美味しいところをとらせんよ」
指の間に何本もペンライトを挟み、某六刀流の剣士のように構える。アスタも黒々としたオーラを放つランスを握りしめる。
「……きた」
ロボットが動き始めた。座っていたロボットは立ち上がり、ビルの天井を今にも突き破りそうな勢いだ。
「止まれええええええええ‼︎」
二人が同時に攻撃を開始する。だが、やはり動きは止まらない。
「ちっ、やっぱ駄目か。食い止めながら避難を優先するぞ!」
「う、うむ!」
ビルから飛び出し、逃走を図る。
「な、なんだあれ……」
「うわあああ!逃げろー‼︎」
街の人々もロボットに気づいたようだ。ってあれ?僕はどうすんの?置いていかれちまったじゃねーか‼︎




