唐突な転換
「よし……」
依頼書に同封されていた地図に書いてある廃ビルに到着し、入り口に立つ。
「何があるかわからん。みんな気をつけろよ」
「おう」
「はい」
「把握した」
「了解です」
それぞれ多種多様な返事をし、それぞれの武器を構える。
負担が大きいのかランスだけを出すアスタ、結局いつもの服に戻っている榊……お、メアはちゃんと手に硬質光を纏って戦闘態勢か。城山も棒を構えている。偉いぞ。
僕も何が来ても大丈夫なように、身構える。
「いけえええええええ!」
僕を先頭に一斉に廃ビル内へと突入する。そして、廃ビル内に何もないかを確認。
……床に何かたくさん転がってるな。あれは……。
「死体、ですね」
榊の発言に耳を疑い、よく目を凝らす。
……死体だな。
「なんでこんなところで…………危ない‼︎」
廃ビルの奥から無数の弾丸が飛んでくる。さっきの死体はこれが原因か!
「え、えい!」
メアが咄嗟に壁を出し、激しい音が鳴り響きながら壁が弾丸を受け止める。
「助かったぜ」
「ふん、我に感謝するがよい」
こんな時くらい子どもらしく喜べよな。アスタが不憫だ。
「というか……いきなりこれかよ。そりゃこんだけ死ぬっつーかなんつーか……」
多分こいつらは用心棒や他の、実力がある便利屋なのだろう。よく考えれば、これだけ大きな組織を潰そうとしているんだ、僕たち以外に依頼をしない訳がない。
しかしこの数……50人は下らないぞ。
一人ずつの顔を覗き込み、一応生存者がいないかを確認していく。
こいつは駄目、こいつも駄目。
あっちも駄目、こっちも駄目。
確認していくが、生存者は一向に見つかる気配がない。
「おい、そっちはどうだ?」
「駄目だ。全員死んじまってる」
「やっぱりか……」
一人でも生存者がいることを祈りつつ、確認を繰り返す。
……これで最後の一人か……。
どうせ生きていないんだろうな。
伏している顔を返し、御尊顔を拝見する。
…………。
「起きろ馬鹿」
寝そべっているティフを叩き起こす。
頭蓋骨が割れる音がした。
「あおん♡」
「あおん♡じゃねーよ!なんでお前がこんなとこにいるんだ!気持ち悪いな‼︎」
「あぁ〜快感っす」
そういえば超がつくほどのドMだったなこいつ……。ここに入った時の銃弾の雨もこいつのにとっては快感でしかなかったようだ。しかし、ちょっと度が過ぎてやしないか?
「はぁ……まあいい。お前も依頼で来たのか?」
「御察しの通りで。ま、楓君達の初仕事なんで受けるだけ受けて後は適当に流しとこってことであっし一人だけで偵察に来たんでさぁ」
それは仕事を請け負う側の人間としてどうなんだ?まあ、依頼主も依頼した誰かが成功すればいいとでもかんがえているのだろう。ありがたくそれに甘んじよう。
「ん?そっちのお兄さんは誰ですかい?」
城山へと興味を向けるティフ。ま、普通は気になるだろうな。
「申し遅れました。僕は城山、城山悠人と申します」
「こ、こいつ……!」
「……どうした、ティフ」
「雫ちゃんと楓君のキャラと被ってるっす!これはまずい、まずいっすよ〜!」
……こいつもアホだったなそういや。建築が出来る分、頭脳的な意味では頭が良いのかもしれないが、発想的に言うと、ゴリラやサルと変わらない。
ゴリラとサルに失礼か?
「申し訳ありません。何卒ご勘弁を……」
「……悠人君、雫ちゃんよりもこのキャラにあってないっすか?」
「……うん、僕もそう思う」
「な、なに言ってんですか!口調は自由の筈ですよ‼︎」
「口調が被ってるって理由で人にた一騎打ちを申し込んだのはどこのどいつだっけか?榊さんよぉ」
ここぞとばかりにアスタが榊に挑発する。こんなときいつもすんごい輝きだすなぁお前。
「あ?楓さんと口調が若干被ってる貴方に言われたくないですねぇ」
反論になってないぞ?そしてそれは僕をも敵に回したいという意思表示か?
「ま、まあまあ二人とも落ち着くっす。ここは敵地なんですぜ?」
榊がハッと顔をあげる。まさか忘れてたのか?
「……そうですね」
……これは忘れてたな。よくそんなに呑気でいられるもんだ。
僕も人のことは言えないけどな。
「先を急ぐぞ。むこうに階段がある」
「あ、それならあっしは帰らせていただくっす」
……。
「は?」
「いや、だってあっしがいても足手まといでしかないっすし。あと、これはそっちの仕事っす。ここであっしが入ったら、あっしの手柄が大きいと勘違いする人が多数出るはずです。自慢じゃないっすけど、そこそこ有名な便利屋なんすから」
……そこまで考えてなかったわ。こいつはこいつでしっかりと考えてくれてるんだな。
「一番の要因はめんどくさいからっすけどね」
「台無しじゃねーか!」
ティフを入り口付近まで殴り飛ばす。
そのまま帰れ!
「そ、それじゃあ達者で……ぐふっ♡」
最後までただの変態だったな。
「楓!」
アスタの叫び声。なにかあっ…………。
なるほど。
入り口をティフが通過したことにより、また仕掛けが作動したのか。
僕の額に弾丸がめり込む。
あ、やば……。
「楓えええええ‼︎」
朧げにみんなが叫ぶ声が聞こえてくる。が、起き上がることは出来ない。
ギャグシーンからいきなりのシリアスは対応できないからやめてくれ……。
ぷつりと意識が途切れる。




