メア参戦、そして……
「……入りづらい」
ベランダからコソコソ覗いているが全員お通夜モードだ。
みんな俯いている。
榊に至っては涙を流している。
何があったんだ?
って言わずもがな僕の事か。
ん……?
よく見るとアスタがいない。
何をしているんだろうか。
「みんな……待たせたな……」
大層低いテンションで呼びかける。
手に何か……四角のものを持っているようだ。
って僕の顔写真じゃねーか‼︎
どこで手に入れたんだそんなもん‼︎
しかも白黒‼︎
お通夜じゃくて葬式っぽくなってる!
「楓さん……なんで死んでしまったんですか?」
え?僕死んだことになってんの?
「楓君の馬鹿野郎‼︎」
おい、僕の写真を殴るな。
額縁のガラスにヒビがはいっているぞ。
「かえでー……。さみしいぞー」
さみしいといいつつ顔は嬉しそうだな、エロガキ。
そしてなんでお前が僕の隠していたエロ本を持っているんだ。
「楓‼︎これが俺のお前に対する花向けだ‼︎」
そういってビールの瓶を遺影?突き立てる。
つかお前も未成年だろうが。
というか勢いあまって貫通してるぞてめぇ。
「さらば楓」
「どわっ‼︎」
手からビームを発する。
発したビームがガラスを突き破ってこちらに飛んでくる。
そして遺影を消しとばしてしまった。
「楓ぇ〜。そこに隠れてんのは分かってんだよボケ‼︎」
「おかえりなさい、楓さん‼︎」
くそ……騙された。
「楓君のバーカ」
「イライラするからやめろ‼︎」
なぜそこまでこき下ろされなゃいけないんだ。
「おら、今の気分はどうだー?」
秘蔵のエロ本で頬を往復ビンタしてくる。
いびり方が完全にヤのつく仕事の人のそれだ。
「感想を言うからまずそれを渡せ」
それはお前が持ってちゃダメな物だ。
エロ本に手を伸ばすが払いのけられる。
「おいおい、物を返して欲しけりゃ何か言うことがあるんじゃねーのか?」
「態度は大事だからな」
マタドーラまで。
さてはこいつらグルか。
タチの悪いことをしてくれやがって。
「くそ……。どうもすみませんでした。どうか私わたくしの本を返しやがれこのクソガキっ‼︎」
途中まで普通に謝る。
だが、普通に謝り切る気などさらさら無い。
能力発動状態のままエロガキを殴りにかかる。
床を突き抜けるくらい強く殴ってやる。
しかし、その野望は叶えられなかった。
「……なんだこれ」
目の前にガラスのような物が現れて僕の拳を止めてしまった。
「バァァァァァァカ‼︎そんなクソパンチ当たるかってーの‼︎」
マジでなんだこれは。
エルヴレインの隠された能力か何かか?
だが。
「んなもんぶっ壊してやるよバァァァァァァカ‼︎」
意趣返しに同じ言葉で相手を罵る。
小学生の喧嘩のようになってしまっているのは誠に遺憾だが。
渾身の蹴りをガラス状の何かに向かって放つ。
気分的には「アンリミテッドバァァァァスト‼︎いっけええええ‼︎」的なことを言ってみたいものだ。
しかしそのガラス状の物は砕け散り、その夢も儚く砕け散った。
「……我が『暗黒の鏡面を破るとは大した物だ」
突如部屋の奥から白い髪をした馬鹿みたいな喋り方をする少女が現れた。
こいつは榊がフルボッコにした中二少女じゃないか。
「お前の能力は光を硬質感する能力だろう。暗黒とは正反対だ」
マタドーラの厳しいツッコミ。
こいつには中二病の気持ちがわからんのだろうな……。
「貴様には物の本質が見えていないのであろう。貴様の真眼で我を見るがよい」
イビルアイってなんだ。
ネーミングセンスが冗談を言う時の高坂にそっくりだ。
「で、なんでこんなところにいるんだ?」
「あのね、パパとママのいるところに帰ろ……んん‼︎ここにいる者たちは前世の因果で結ばれた信託者だからな。我がここにいるのは当然至極」
大体分かった。
元の世界に帰ろうと大会に参加したはいいが、結局誰も倒せず途方に暮れていたところにこいつらに拾われたとかそんなところだろう。
「うん……。そっか」
なんというか返事をするのが面倒くさい。
何故こんな無駄な事をするのだろうか。
「地獄に”堕”ちるか?」
「そだね」
とりあえず返事をすれば会話が成立する作戦をとろう。
やってられねー。
「は、話ちゃんと聞いてよぉ……」
急に素を出すな気持ち悪い。
「……こいつずっとここに置くつもりか?」
「え、ええ勿論です」
声がうわずってるぞ。
「禁断の魔女榊もそう言っている。よって我の居場所はここだ」
うん、そうだね。
心を殺せばなんとかなる筈だ。
「これからよろしく頼むぞ、我が下僕よ」
いちいちカンに触る奴だな。
「よろしくな。クソガキ」
エロガキに続くガキシリーズの第二弾。
「……というか名前教えろよ、名前」
名前も知らないのによろしくできるか。
「ふむ……名前か。ま、ナイトメア=ブラックホワイトとでも名乗っておこうか
」
「この子はメア=クロムロードちゃんっす」
「ああん!教えないでよばか!」
ギャップがすごいな。
一ミリも萌えんが。
「ちっ……よろしくな、メア」
「ふ、ふふん。こちらこそよろしくしてやろう」
諦めろ、今からの軌道修正は無理だ。
……まぁ、そのよろしくも明日には無駄になってるんだけどな。
「楓さん?」
「ん、なんだ?」
「……いえ、なんでもないです」
あれか?
ラブコメ漫画でよくあるあれか?
「○○くん♪」
「なんだ?」
「ふふふ、なんでもない♡」
って奴か?
そんな頭がお花畑な奴ではなかったような……。
ま、いいか。
「つーかお前服ボロッボロだなぁ。どうすんだよ。それ制服じゃねーのか?」
新しい服を買ってはいるが、制服は変えが効かない。
「楓さん、私がある程度なら直せますが。それともちゃんとした所に修復を依頼しますか?」
「うーん……できるなら榊が直してくれ」
もしかするとここに帰ってこれないかもしれないからな。
もしかするとというより十中八九帰ってこれないだろう。
だから出来たら持っていてほしい。
形見って訳じゃないけどな。
「我はどうなっても知らぬぞ……」
何故弱々しく。
「何を言うんですか!私これでも腕には自信があるんですよ!」
何がある程度だ。
自信満々じゃねーか。
「この女に出来るのか?ゴキブリの足みたいな手してるのによ」
手が足かどっちなんだ?
普通に細腕って言ってやれよ。
「はい?ゴリラの見た目を1000倍くらい悪くしたような外見してる人に言われたくないですねぇ」
おいおい。ゴリラに失礼だろう。
「貴様らは虚しくならないのか?この世の常とは残酷だな……」
お前は何を言ってるんだ?
会話に混ざれてない事に気づけよ。
そして言葉も支離滅裂だ。
みんな目を逸らしちまってるじゃねーか。
アスタと榊は依然睨み合ってるし、三兄弟は下を向いている。
これからの事を考えているだろうか。
「……はは」
とりあえず空気を読めていないメアの肩に手を置く。
空気を読むことは出来てないが空気を察する事は出来たようだ。
物凄く微妙な顔で僕に微笑んでる。
「と、とにかく楓君おかえりっす!今日はパーティにしましょうぜ!」
ありがとうティフ。
お前にはいつも助けられているよ。
「おう!肉だ肉!肉を用意しろ!」
亭主関白で命令するアスタ。
こういう時は様になるな。
「肉!肉!」
やっぱり子供だな。
我を忘れて走り回っている。
「やるぞー」
マタドーラのビームと共に肉を焼き始める。
汎用性の高い能力で羨ましい。
「刻みます」
食材を細かくしていく。
秘伝の剣技をそんなことに使っていいのか?
しかし利害が一致した時のこいつらは凄いな。
もうすでに準備が終わって食事を始めている。
……これが最後の晩餐になるかもしれないんだな。
しっかり噛み締めて楽しく、な。
午前十二時丁度まであと十分。
分かる。
十二時ピッタリに僕は元の世界へ戻ることになる。
ボロボロの制服を脱ぎ、先ほど買った服に着替える。
制服とデザインはあまり変わらないカッターシャツに赤のネクタイ、ブレザーの代わりに黒の前が開いてるタイプのロングコート、桜が好きなような気がしたから買った。
断じて僕の趣味ではない。
断じてだ。
もし能力が解除された時の為に拳銃とナイフの装備を忘れない。
そして唯一と言っていいだろう、桜の持っていたキューブをポケットに入れる。
桜、僕に力を貸してくれ。
と言っても桜の体と能力を借りパクしてる僕が言える口ではないが。
「……行くか」
僕の見た目は漫画でよくある闇落ちした奴の様な格好だ。
……ま、やってることは完全にそれだが。
誰にも気付かれないようにそうっと扉を開け、外に出る。
星がとても綺麗だ。
空気は澄んでいる。
これから命を取り合いをしに行くというのにとても気分がいい。
「……あと1分か」
後ろを振り返る。
アスタ、榊、ティフ、カルテット、マタドーラ、メア。
帰ってくることができたら、また会おう。
「どこへいくんですか」
榊の声。
「いや、ただ散歩に」
「そんな格好で?戦闘準備万端じゃないですか」
「……お前は欺けないな」
「当たり前です。恐らくアスタさんも気づいている筈です。……あの人の性格だから貴方の意見を尊重したんでしょうけどね」
「お前はどうするつもりだ?」
「私も止めませんよ。ただ、挨拶ぐらいはしていけと言いたいんです」
……最初止めるつもりだった癖に。
「榊、向こうの世界に帰れば僕は多分帰ってこれない。参戦するって決めた時、僕は心の奥底では帰りたかったのかもしれないな。でと、こんな僕でも、できたら忘れないでいてくれ」
「……はい、しかと」
「それじゃあな!」
「お元気で‼︎」
空から降る白い光が僕を包み、意識が遠くなってくる。
「楓‼︎絶対帰ってくるんだぞ‼︎」
アスタの大声が聞こえてくる。
もはや返事をすることも出来ないが、なんとかグッジョブを送る。
そして、意識がブラックアウトする。
……桜の時と似てるな。
「…………ん」
空気が随分濁っている。
澄んだ空気の元でいた時は気付かなかったが、元の世界はこんなだったのか。
目を開ける。
高いビルが立ち並び、たくさんの人が行き交う都会。
戻ってきたんだな。
僕の元いた世界に。




