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悪夢の再来

 一々家へと戻るのも億劫なので、その辺の宿を借りることにした。

 宿にはあまりいい思い出は無い。

 ゆうちゃんとかゆうちゃんとかゆうちゃんとか。

 葛藤はしたものの、結局は面倒の方が打ち勝ってしまいみんなと同じく宿に泊まることになる。

「きったねー部屋……」

 薄汚いマットレスにボロボロのベッド、穴の空いた壁。

 そして窓の隙間から風が吹いている。

 まず壁に穴がある時点で隙間風を気にすることを間違っている。

「仕方ねーだろ。金なんか持ってきて無かったんだからよぉ」

 もやしを大量に買って帰ろうと思っていたいたのでそれなりの金は持ってきていたのだが、もやしは所詮もやしということだ。

「明日の朝じゃんけんするから負けた奴が金を取りに帰るぞ」

 提案。

「いいっすね、返り討ちにしてやりますよ」

 そして乗ってくる馬鹿共。

 間抜け共めが。

 僕はじゃんけんに負けたことが無いんだ。

 弱そうなアスタ辺りに行かせてやろう……。

 笑いが止まらない。

「くくく……あーっははははは‼︎」

「ど、どうしたんだ楓……。変なもんでも食ったのか……?」

 アスタにドン引きされているが笑いは引かない。

「あははははははは‼︎」

「そ、それじゃあ僕たちは寝るからねー」

 そそくさと各自部屋へと戻っていく。

 高らかに笑っているせいかは知らないが僕は一人部屋に当てられてしまった。

「……寝よう」

 明かりを消す。

 精々悪夢を見ないように気をつけるとしよう。



「あっつ……」

 寝ようとしているが暑くて眠れない。

 なぜこんな日に限って熱帯夜なのだ。

 普通なら涼しいであろう穴から吹く風も隙間から吹く風も如何せん生温く、はっきり言って安眠を阻害するだけだった。

「水……」

 喉が渇く。

 汗もだいぶかいており、水分が飛んでいるのだろう。

 申し訳程度に備え付けられた蛇口に手を伸ばす。

 眠たくて仕方の無い身体に謎金属入りの靴はとても重く、足取りはフラフラと頼りない。

 そして蛇口をしっかりと掴み。

 捻り。

 コップに水を注ぎ。

 口元へとコップを持っていったその瞬間だった。

 窓ガラスが割れ、けたたましい音が鳴る。

「は⁉︎」

 慌てて振り返る。

 そして銀の刃が僕を襲う。

「くっ……‼︎」

 すぐさま蹴りを放って対処する。

「今のを躱すとはな……少しは成長したみたいじゃねえか」

 月が雲で覆われており、暗くて何も見えない。

 やがて雲は晴れ、月の光が部屋を照らす。

 顔が次第に見えてくる。

 するとそこには……。

「くくく……久しぶりじゃねーかよ」

 ゆうちゃんがいた。

「お前死んだんじゃ……」

「てめぇみてーなふざけた能力持った奴もいるんだ、物を再生させる能力者なんてゴロゴロ転がってんだよ」

「お前自分が物扱いでいいのかよ……」

「うるせぇ」

 と、その言葉と同時にゆうちゃんが指を鳴らす。

「……?」

 何も起こらない。

「死ねえええええ‼︎」

 ゆうちゃんが飛びかかってくる。

 馬鹿めが。

 そんな無策に……って。

「靴が……」

 靴がただ重いだけで蹴りに発展しない。

 あの指パッチンはまさか……。

「てめえには一回聞かせてるからなぁ。すぐに発動できたぜ」

 ゆうちゃんの能力、能力を消す能力。

 能力を消されたことにより、僕の能力は発動しなくなる。

 つまり鈍器の靴はただの重りになるし、必殺のナイフは護身用のナイフと変わらなくなった。

 だが一分。

 一分耐えればその瞬間ゆうちゃんを仕留めることが出来る。

「時間が無いから迅速に死ね!」

 腰から銃を取り出し、僕に銃口を向ける。

 部屋が狭く、避けることが出来ない。

 勿論弾き返すなんてもってのほかだ。

「じゃあな」

 引き金に指をかける。

 ドン、と銃特有の大きな音が部屋内に鳴り響く。

「がぁっ……!」

 なんとか急所だけは外したが、肩に掠ってしまった。

「ちっ、外したか」

 ドアを思いっきり強く開き、外に逃げる。

 頼む、誰か起きていてくれ。

 しかし誰も起きている様子はない。

 今の音で起きないってどれだけ安らかに寝てんだよ。

 血を滴らせながら宿の外へと出る。

 もうすぐ一分の筈だ。

 足の重りが次第に武器の感覚へと戻っていく。

 だが……。

「丸腰で何が出来るってんだよ。さっさと死ねや」

 尚も銃を乱射してくる。

 流石にサイレンサーを付けたらしく、音がしない。

 だが、まずい。

 非常にまずい。

 ナイフや銃は部屋に置いてきてしまった。

 今あるのは鈍器靴のみ。

 というか……。

「なんでお前は武器を持てるんだよ……‼︎」

 先程から頭がじんじんと痛む。

 純粋な武器では無い分、刀やランスを持つよりはマシなのだろうが。

「そーいえばなんかの参加者は大会期間中は戦う為に武器を持てねーらしいなぁ。残念だったな、俺は参加してねーんだわ」

 最悪だ……。

 ハンデが大きすぎる。

 相手の手には銃、此方は鈍器靴のみ。

 近接戦闘においての銃とナイフではナイフは構える、当てるの2モーション、銃は構える、狙う、撃つの3モーションでナイフの方が強いと言われているが、いざ戦ってみるとそんな訳にはいかない。

 第一に僕の今の装備の中にナイフは無い。

 蹴りのモーションをシュミレートしてみるが、構える、近づく、蹴るの3モーション、相手も同じ3モーションだが勿論飛び道具と近接攻撃だと訳が違う。

 どうしたものか……。

「もっと踊れよ!」

 わざと足元を狙い、僕を跳ねさせようとする。

 いつもなら弾き返して即座に始末する所だがそうはいかない。

 避けたり守ったりするので精一杯だ。

「くっ……」

 掠る。

 腕に、肩に、脚に。

 たまらず膝をつく。

「くうぅ……」

「はは、チェックメイトだクソガキ!」

 銃口を僕の額へと当てる。

「アホか」

 咄嗟に銃を跳ね除け、ゆうちゃんの顔面に蹴りを放つ。

「ぐぁ……‼︎」

「こんなにゆったりとしてくれるとは思ってなかったよ、ありがとな」

 腹部に何発も蹴りを放つ。

 頭痛が次第に増していくが、気にしている暇は無い。

「てめっ……演技だったのかよ……‼︎」

「痛いのは演技じゃねーよ馬鹿。ただ、前にら能力使った時のお前の様子を見る限りでは相手を殺す前に油断する性格だったみたいだからな、利用させてもらった」

「卑怯者……が」

「窓から入っておいて卑怯もクソもあるかよ……ってああ、お前この間僕に殺された時にあのおっさんがどうのこうの言ってたよな。まさかおっさんに会うことが出来たら元の世界へ戻れるってデマに踊らされたのか?そんな馬鹿だから僕に負けるんだよ」

 煽りが効いたようだ。

 眼を見開き、腹這いで僕へと向かってくる。

 やがて立ち上がり、拳を握り、僕に殴りかかる。

 人類の進化を見ているようだ。

「殺すううううああああああ‼︎」

「何言ってるかわかんねーよ‼︎」

 足を高く上げ、ゆうちゃんの脳天に踵落としを決める。

 やがてゆうちゃんはゆっくりと倒れていき、動かなくなる。

 流石鈍器靴。

 しかし……。

「なんでこんな奴を復活させたんだ?」

 何故だ。

 謎だ。

 物を再生させる能力者。

「変な伏線張ってくれやがって……」



 結局あまり眠ることが出来なかった。

 いつもは大体夜の九時に寝る超優良児だが、今回寝たのは二時。

 普段夜更かしに慣れていないのでとても眠い。

「よーーーっし‼︎じゃんけんタイムだ‼︎」

 響き渡るアスタの声。

 うるせぇ。

「じゃんけん‼︎」

 寝不足と貧血で頭がぼーっとする。

「ぽん‼︎」

 ……出し遅れた。

「おやおやぁ?楓先輩は後だしですかぁ?」

 にやにやしながら近づいてくるアスタ。

 めんどくせぇ。

「負けた以上行ってもらうっす」

「早く行ってくださいよ朝ごはん食べたいです」

「楓くん、一緒に行こっか♪」

 ……ゆうちゃんめ、もし次会う時があれば殺さずに拷問してやる。

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