インターバル
桜の住む所を今更確保するのはとても難しい。
なので僕の部屋に無理矢理空きスペースを作って寝床を確保することに決めた。
「……なあ榊、やっぱり若い男女が一つ屋根の下で寝るのはちょっとあれだと思うんだ」
僕はこいつと寝るのが心底嫌だった。
寝てる間に何されたりしたらたまったもんじゃないからな。
「元々一人ですしいいと思います」
……どうやらこいつも榊と寝るのは嫌らしい。
「え〜‼︎一緒に寝ようよ榊ちゃーん‼︎」
わざとらしく、あざとい猫撫で声で榊を誘惑する桜。
「あ、あんなことを毎日されると思うとあなたとおちおち寝てなんていられません‼︎」
……あんなこと?
「榊ちゃんまだあのこと気にしてるの?」
「おい桜、お前榊に何したんだよ」
「え?ただ榊ちゃんの中途半端な大きさの胸の豊胸を手伝ってあげただけだよ?」
……だからあんな惚けた顔をしていたのか。
「あー‼︎楓くんがえっちこと考えてるー‼︎」
「お、おいやめろよそんなこと言うの‼︎」
誤解されるだろ!
「……」
「おーいそこ、僕を桜と同じ目で見ないように」
同類にされてしまった。
早めに誤解を解かないと。
「もういいです‼︎楓さんと桜さん二人とも変態同士仲良くしてて下さい!」
ドタドタと階段を駆け上がって自分の部屋に閉じこもってしまった。
あいつやっぱり夢中になると話聞かなくなるタイプだ。
「……ほっとくか」
「だね」
これ以上どうにかしようもないので放置しておくことにした。
大丈夫、時間がなんとかしてくれるさ。
大丈夫な……はず。
「そろそろ正式に便利屋始めた方がいいんじゃねえのか?」
アスタの声。
確かにここ最近バタバタしててすっかり忘れていた。
便利屋を始めると決めてからもう何日経っただろうか。
正直なところすっかり忘れていたが思い出してしまったからには仕方が無い。
「……それじゃあこの前作った看板出すか」
この看板はこの前持ってきて貰った冷蔵庫やその他の家具と同じようにティフ達に注文してもらったものだ。
既に届いてはいたが桜との一件やその後のドタバタでアスタ以外の全員から忘れ去られていたのだ。
「それじゃあアスタ、取りつけろ」
僕では届かないのでアスタに作業を押し付ける。
「……やっぱお前ら二人とも性格に難あるわ」
ここにいる二人とは、僕と、桜。
「楓くんと一緒にしないでよぉ。あたしより楓くんの方が性格悪いよ?」
「なにいってんだアスタ。僕なんか人畜無害もいいところだっつーの」
「人畜無害な人間は年上に取りつけろなんて命令口調で言わねーよ!」
口調云々で怒ってるのか。
「じゃあ頼むアスタ。やってくれ」
「……まあいいけどよ」
ただ文句を言いたかっただけなのだろう。
渋々と大きな看板を手に持って扉の上に
設置する。
その看板には無骨な文字でただ便利屋とだけ書かれていた。
「よし……と。これで正式に便利屋として売り出せるな」
アスタは手を腰にあてて「ふぅ」と息をついて上を見ている。
それを尻目に僕は家の中へと戻っていく。
追いかけるようにしてアスタも家へと戻ってくる。
僕は手下と書かれた机上札が乗った机の下に置かれて居る小さい木の椅子に座りこむ。
高さがあっていない。
榊の机を見ると奴隷と書かれた机上札、椅子はなかった。
アスタを見ると豪勢な机に大社長と書かれた机上札、椅子は社長椅子。
明らかに悪意が篭っていた。
こういうことするから僕たちの態度が悪くなるのがわからないのか?
アスタの顔を見るとどうだと言わんばかりに眉と口元を上げて自慢げにこちらをみている。
馬鹿らしくて文句を言う気も起こらない。
ただ、今日の夕飯は抜いてやろう。
今日の夕飯係は僕だからな。
いつもより楽で済む。
ただ、椅子が小さかったりすると不便だ。
今度ティフでも連れて街に買いに行くか。
「ふぁ……あ」
椅子に座ると急に睡魔が襲ってきた。
まぁ、いいか。
このまま寝てしまおう。
だんだんと心地よくなってき、暗黒感が僕を包み込む。
耳元でなんだかものすごいエロワードが聞こえてくる。
たぶん桜だ。
しかし意識を包む暗黒は止まらず、しばらくして完全に意識が途切れる。
「……ぐぅ」




