7話
外は昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
「……レオンは何処だろう?」
ふと魔法のことを思いだした。
「えっと……『レオンの居場所を教えて!』」
口にした瞬間脳裏に地図が浮かび、レオンの場所を教えてくれる。
「……これは、なんだろう……?」
レオンの方向へと近づく不吉な点が見える。
「……急ごう。」
警告音が少しずつ強くなっていく。焦る気持ちを抑えて慎重に進んでいくと、鉄同士がぶつかる甲高い音が響いた。
そっと家の陰から覗くとレオンと誰かが戦っているのが見える。
「―――――! ―――――――!」
「――――――――! ―――――――!」
何かを言っているようだが、よくわからない。
―――――ジャリッ―――――
「ッ!」
身を乗り出した時に足元から少し大きな音がする。普段なら気にも止めないような音だろうが、戦っていた二人は一気に距離を取りこちらを見てきた。
「! 来るなと言っただろう!」
レオンが目を開き、怒ったように声をあげる。
「貰った!」
「ッ!」
レオンの気がこっちに向いた直後、相手はレオンに向けて剣を振り上げた。
「駄目!」
ガキンッ!
「何だと!?」
僕が叫んだ瞬間、半透明の壁がレオンを包み、剣からその身を守った。
「くっ……術師をもう連れていたか、ならば先にそちらから潰すのみ!」
男はそう言うと壁を強く蹴り、一足飛びに僕へ向かってくる。
「ッ! 来ないで!」
「ぐぅっ!」
両手を突き出して叫ぶと突風が吹き、相手の動きを阻む。
「テメーの相手は俺だクソヤロウ!」
レオンが再び切りかかり、一進一退の攻防が続くがレオンが押しているようにも見える。
「……これまでか……退かせてもらう!」
男を中心に強い風が吹き荒れ、一瞬だけ素顔が晒される。
「次は覚悟しろよ……勇者!」
額に赤い宝石が埋まった恐ろしく顔の整った男は、それだけを告げると溶けるように消えていった。
*
「…………説明してもらおうか。」
はい、現在説教されています。しかも逃げられないように捕まえられています。
「え、あ、その、レオン……?」
「なんだ?」
「なんだって、その、どうしてこの体勢……?」
「こうでもしないと逃げるだろ?」
「逃げないですよ。」
「いいから話せ。」
いや、何でそこで強く締めるんでしょうか、痛いです。
「えと、そんなこと言われても……ただなんか『嫌だな』って思ったら、できた。」
魔王です。とは言えないからとりあえずそれ以外の事実を伝える。
「出来たってお前……ステータスは見えるか?」
「ステータス……? あ、何か出てきた。」
白々しいとは思うけども話を合わせるしかない。
「技能には何て書いてある?」
「えっと……創造魔法……?」
効果も下げて伝えた方がいいかなぁ、と警告音から思ったので事実を歪ませない程度に偽証してみる。
「創造魔法…………。」
何故かレオンの腕に力が籠った気がする。籠ったというか、強ばった?
「レオン……?」
「……ソーマ、具体的にどんなことが出来るかわかるか……?」
「さ、さぁ? 試したことはないけど……多分しっかりイメージできたらある程度何でも出来る気がするよ……?」
「ソーマ。」
「な、なに……?」
肩を掴まれて強制的に顔を会わせられる。青い瞳が冷たく輝き、目を逸らさせない。
「その魔法のことは、誰にも言うな。普段はさっきみたいな結界で防御してほしい。誰かに聞かれたら『聖域魔法』だと答えておけ、いいな。」
「え、なん「いいな。」……はい。」
僕が答えるとレオンがあからさまに安心した顔をする。
「……そんなにまずいの……?」
「……ソーマは知らないだろうけど、創造魔法はもう何十年も使い手が表れていない稀少な魔法なんだ。だからソーマが使えることがわかれば、確実に狙われる。」
狙われるって……
「……誘拐されたり……?」
「それだけで済むとは思えないな。洗脳か、薬か、奴隷紋か、強制的に使役させられて魔法を使うようにさせられるぞ。」
「え…………。」
思わずレオンにしがみついてしまうと、背中に腕が回される。
「大丈夫。俺が何とかしてやるから。なんたって俺は、勇者だからな!」
「うん。」
頬を寄せるとほんの少しの汗の香りと、とても居心地がいい温もりに包まれる。
「…………なんか、凄く安心する……。」
「そっか。でもここに居ると冷えるから部屋に戻ろう。」
「うん……。」
レオンが立ち上がったのでそのまましがみつくと、レオンは苦笑しながらも抱き抱えてくれた。
「どうしたよ?」
「……怖かった。」
地面を歩いていく振動を感じながら、レオンにそう答える。
「……剣と初めて見たし……いきなり攻撃されたし………………レオンが切られそうになったとき、本当に怖かった……。」
あの男がレオンに斬りかかったとき、息が止まるかと思った。
あの時叫んで無かったらと思うと、今でもヒヤリとする。
「無事で良かった……。」
「ソーマのお陰だな。あの結界がなかったら危なかった。」
「……役に立った?」
「あぁ。これからもよろしくな?」
「うん!」
良かった……。勝手なことしたから嫌われるかと思った。
「でも」
「?」
「次からはちゃんと言うこと。勝手なことしたら首輪つけてやるからな?」
無言でブンブンと首を縦に振る。
…………あれはマジな目だった。
「いい子だ。」
頭を撫でられると何故か落ち着く。昔からこうされるのが好きだったからだけど。
「ん……レオン……。」
「大丈夫。ソーマは俺が守るから。」
少しずつ眠くなってくる。暖かいだけじゃなくて、凄く安心する。僕は魔王で、レオンは勇者なんだけど、どうしてだろう。
「眠いなら寝てもいいぞ?」
「……レオン……。」
「どうした?」
「…………レオン……は……僕が守……るから……。」
眠い。眠い。どうしてこんなに眠いんだろう。
レオンからの答えを聞く前に僕は眠りについた。
ストックがつきました。
第8話は8月26日更新予定ですm(._.)m