6話
猫兄妹がこっちを見てくる。
「俺一人じゃコイツのお守りはキツそうだし、コイツも気に入ってるみたいだし……それにお前らも行くとこ無いだろ?」
「「……………………。」」
二人は何度か目線で会話をし、
「えと……い、いの……?」
あまり喋らなかったシェナが聞いてくる。アウルとは違い少し弱々しい感じの声だが、目に宿る光は強い。
「まぁ、スリに走るくらい切迫しているのはわかったし、コイツが気に入ってるから野垂れ死なれても困るし?」
「…………条件は。」
「こっちからは飯と大体の安全? ある程度なら追い払える。お前らの仕事はコイツのお守り。どうよ?」
「「……………………。」」
また二人はジッと見つめ合っている。
「…………お前らが寝てる間に金を盗んで逃げるかも知れないぞ?」
「出来るものなら、と言いたいところだけど。アウル、お前は多分抱き枕にされるから逃げれると思わない方がいいぞ?」
「はぁ!?」
「コイツ、なにかに抱き付いて寝る癖があるらしい。」
!?!?!?!?
「ちょ、は、え、何で知ってるの!?」
「昨日の晩、俺の腕抱えて離さなかったから。」
「……もしかして朝のあの体勢は……」
「見張りしようにも体勢がキツかったからな。膝に乗せたら丁度良かったんだ。」
…………やってしまった。家だと枕か人形があるのだが、昨日は何に抱きついたのか覚えていない。
「……ごめんなさい。」
「別に良いって。」
レオンが笑うと息が耳にかかってくすぐったい。
「ま、精々頑張れよおにいちゃん?」
楽しそうなレオンに、凄く複雑そうな顔でアウルがこちらを見ていたのは言うまでもなかった。
*
所変わって僕らは商店街に来ていた。
「取り敢えず服だな。その格好は目立つ。」
レオンに言われて自分の服を見る。まぁ、違うよねユニ○ロなんてこっちには無いだろうし。
「さてどうするか……。なんか欲しいものはあるか?」
「えっと……お金は……?」
「ん? あぁ、それくらい俺が出すって。」
「いや、それは悪いですよ。」
「んなこと言っても金持ってないから仕方ないだろ? そのうち返してくれたらいいさ。」
そう言っていつの間に買ったのか服を渡される。この黒と緑の布は……ローブかなぁ?
「寝にくそうだったからそれにした。柔らかい素材だけど通気性もあるから多分大丈夫だと思う。」
「え、あ、うん。」
確かに手に取った素材は柔らかいし、このまま寝るのも良いかもしれない。とはいえ。
「あの……これ、高いんじゃ……?」
「? いや、銀貨1枚だからそこまで高いわけでもないぞ?」
「えと……取り敢えず通貨を教えてください。後物価も知りたいです。」
銀貨って高い気がするんだけど気のせいかな……。
「まず貨幣の種類だが、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五種類で価値はさっき言った順番であがる。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨二十枚で金貨一枚、金貨十枚で泊金貨一枚と交換できる。一応白金貨の上に緋金貨というものもあるが、それは貴重な鉱石を使っているから、殆どが王室に集まっているな。その為、緋金貨を承るのは最上級の栄誉だとされている。それから食料なんかの値段だけど、彼処の串焼きが二本で銅貨三枚だ。宿は場所によるけど俺達が止まるところは一人銅貨三十枚だな。」
銅貨一枚が百円くらい……?
「え、と……高いですよね?」
「高くない。少なくともこれくらいなら直ぐに稼げる。」
「そ、そうなんだ……。」
通貨の基準がよくわからない。
「というわけだ、着ろ。」
と試着室らしき場所に押し込められた。着ろと言われても……。
「ねぇ、レオン。」
「どうした?」
「着方がわからない。」
「……………………。」
*
「うん、似合ってるぞ。」
結局レオンに着替えを手伝ってもらい、自分の格好を見る。
顎下ギリギリから脛の辺りまでを包むロングコートに近い感じのローブだ。袖も普通に手を下ろすと指先が出るか出ないかギリギリの長さで、袖に向かって布が広がっていく形をしている。全体的にふわふわしているが、各所に付けられた紐を結ぶことで動きやすいようにもできる。
色はビリジアンより少し明るい緑色に、黒のラインが入った落ち着いた色合いをしているから森の中でも目立ちにくい。
それなりに気温が高いのを心配していたのだが、暑くもないし寒くもないという何とも快適な着心地だった。
「どうだ?」
「うん、とっても着心地いいよ。ありがとうレオン。」
笑いかけると頭を撫でられる。くすぐったくて目を細めると、アウルとシェナがそわそわしながら余所見をした。
*
夜。暗くなった室内は、隣にいるレオンの息遣いだけが聞こえる。
…………眠れない。
何故か今日もレオンを抱き枕としてはいるのだけど、変な胸騒ぎがする。
もう片方のベッドではアウルとシェナが丸まって仲良く寝ている。でも、そっちじゃない。もっと他の……
「…………レオン。」
肩を掴み、少し揺らす。アウル達を起こさないように出来るだけ小さな声で。
「……どうした?」
「嫌な予感がする……。段々近付いてきてる。」
そう伝えるとレオンがそっと目を開く。
「っ!」
その目が今まで見たどんな目よりも冷たくて、思わず僕は息を飲んだ。
「ここにいろよ。寝れなくてもいいから、外に出んじゃねーぞ。」
頭を撫で外に出ていくレオンを見て、僕の中の何かがついていけと叫ぶ。
「…………どうしよう……。」
正直、今の自分は足手まといだ。ここまで来るのにもレオンの手助けを沢山必要とした。それにレオンは剣を持っていったということは戦うってことだろうし、戦いなんてしたことがない僕に何かが出来るとも思えない。
「……でも。」
多分警告を発しているのは【魔王】の力。だとしたら、行かないとレオンが危険なんだと思う。
「……ごめん。後で何でもするから。」
ポツリと呟き、そっとレオンの後を追いかけることを決め部屋をでた。
嫌な感覚は、もうすぐそこまで来ていた。