5話
しばらく歩いて大きな建物の前に着いた。
「おばちゃん、来たよー!」
「おや、レオンかい。思ったよりも遅かったじゃないか。ん? 後ろの子達は?」
恰幅の良い気の良さそうな女性がこちらを見ながらレオンと話している。
「ちょいと訳ありでな、で、厨房借りていい?」
「? 別に構わないけどアンタが料理何て珍しいね。」
「いや、料理すんのは俺じゃなくてコイツ。」
「わっ!」
背中を押されて、頭に手を乗せられる。おばさんはジロジロとこっちを見ながら、
「ん……この子はこの辺りの子じゃないね。それに服装も珍しいけど、厄介事じゃないだろうね?」
はい、魔王です。
「いや、単に拾った。多分迷い子だから、一緒に王都に行けばなんかわかるだろうと思って。」
「ふーん? ま、問題起こさないなら何でもいいさね。んじゃお嬢ちゃんついておいで、材料は沢山あるから。」
「え、あ、ありがとうございます。」
お嬢ちゃんじゃないんだけど……。という内心の叫びは届くはずもなくパワフルなおばちゃんに手を引かれて連れていかれた。
*
「調味料はこっち、肉はあっちの棚で、野菜はここにあるから好きに使いな。」
「……ありがとうございます。」
おばさんにお礼を伝え、材料を見てみる。
「何作ろうかな。」
忙しい親の代わりに晩御飯をよく作っていたから、料理はお手の物だ。
調味料を見て少しずつ味見をする。地球の調味料と同じようなものが多いのは少し嬉しい。
*
「出来ましたよー!」
大きめのお盆に料理を乗せる。一応見えないように全部蓋をしておいたが、臭いだけで限界なのかレオンも兄妹も目を輝かせている。あ、涎……。
「遅いぞー! 腹へって死にそう……。」
完全にへばってる。ちょっと時間を掛けすぎたかな。
「ごめんごめん、つい楽しくて沢山作っちゃった。」
そう言って蓋を開けると
「「「……………………。(ごくり)」」」
作ったのはポテトサラダとオニオンスープ、それから肉の調理はいまいちわからなかったのでぶつ切りにして、香草と塩胡椒で焼いてみた。
「「「いただきます!」」」
「はい、召し上がれ。」
物凄い勢いで料理を平らげていく三人に笑みが溢れる。
「焦らなくてもちゃんとお代わりはあるから安心してね。」
無言でこくこくと頷き食事を再開する兄妹。レオンと同じくらいいい食べっぷりだ。やっぱりお腹が空いてたんだね。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「おそまつさまでした。」
結局20分もしない内に料理は全部無くなった。
「さて、それじゃまずは名前を教えてくれるかな?」
食後のお茶を飲んだ所で本題を切り出す。というか、名前は早く聞いた方が良かった。
「僕は藤代颯天、ソーマって呼んでね。こっちはレオン。」
「…………俺はアウル。こっちは妹のシェナだ。」
少しだけビクビクしながら男の子―――――アウルはそう言った。猫耳がピクピクと動いて警戒しているのがわかるんだけど、わかるんだけど……
「……………………可愛い。」
「「っ!」」
ポツリと漏れた言葉にビクッと凝視してくる二人。
「あ、ごめんごめん。えと、アウルとシェナは猫族なのかな?」
「……一応、そうだけど。」
「……………………耳、触っていい?」
「…………は?」
「あ、いや、無理なら別にいいんだ。ただ、その、柔らかそうだなって……。」
「いや、お前さっき触ってただろ。」
レオンからの突っ込みが入るが無視してアウルをジッと見る。
「…………ダメ?」
「……シェナはダメだけど、俺でいいなら触ればいい。」
数秒悩み、仕方なさそうにアウルが答える。
「やった! それじゃあ早速……って、え?」
急にアウルから煙があがり、その姿を隠す。煙が晴れるとそこには
「…………これでいいのか?」
大きな銀色の猫が居た。というか喋った。
「え、は、あ、アウル……君?」
「? どうした?」
展開についていけない僕に、レオンが助け船を出してくれる。
「あぁ、ソーマは初めて獣族を見るんだったな。獣族は自由に人と獣、両方の姿に代われるんだよ。」
「へ、へぇ、そうなん、だ。」
巨大な猫。そう、見た目はとても愛くるしい。すぐにでももふりたいのだが、それを躊躇うのは人間時を見てるからだろう。
取り敢えずそっと頭を撫でる。思った以上に柔らかい触感にテンションがあがる。
「―――――ルルル。」
目を細めて喉を鳴らす様は、本当に猫そっくりで愛らしい。
「は、ちょ、うわぁっ!?」
頬を寄せるととても暖かく、回した腕だけでなく布越しでも、触れた部分全てを優しく包み込むような最高の手触り。
「……抱き枕に欲しいな……。」
はふぅ、と満足しながら頬擦りをする。
「はーなーせー!」
「あ、え、その。」
「あー……ありゃ全く聞こえちゃいねえな……。」
「もふもふ……。」
「いでででで! ちょ、力強いから! ギブ! ギブだって!」
「はふぅ…………。」
「ぎゃあああああ!?」
「……獣族って子供でもかなり力が強い筈なんだけどな……あの細い腕のどこにあんな力が……。」
アウルが叫び、シェナがおろおろし、レオンが呆れたようにこちらを見ているのも気付かずに僕はもふもふを堪能し続けた。
*
「ごめんなさい。」
土下座である。
「思った以上にもふもふで我慢できなくなりました。本当にごめんなさい。」
「いや、その……。」
「出来ればまた触らせてください。」
「ちょっと待て。」
本音が出てしまった。
「あ、あはははは。」
ジト目で見つめてくるアウルに乾いた笑いを返す。
「……はぁ。シェナに手ぇ出さないなら、たまにはしてもいい。」
「!!」
「ちょ、待て、近付くな! たまにはだからな、たまには!」
「うん!」
と答えると肩に重みを感じた。
「レオン? どしたの?」
「…………何でもねーよ。」
「そう? 疲れたなら寝た方がいいよ?」
僕の肩に顎を乗せてだらけているレオンの髪を撫でる。少し癖があるけど、サラサラで指通しがいい。
「んー……もう少しだけ、ソーマの買い物しに行かねーといけねーし。」
「僕の?」
「そ。流石にその格好じゃ旅は出来ねーからな。てか、お前らも来るか?」
「「え?」」