第9話 「目的」
「まったく、なんだかんだ言って14歳だな。かわいらしいもんだな」
そう呟く夏輝の横には美月が眠っていた。
監禁されてた事から、今自分が恨まれている事……
今まで相談する人もなく、全て自分だけで抱えていた悩み、その全てを夏輝にぶち明けた事によって
疲れて眠ってしまったのだろう。夏輝は軽く笑いながら美月の頭をなでてやった。
「じゃあ美月、俺そろそろ行くわ。昨日木春の奴からメールが来てよ、
戦争の事でしなければならない事があるんだ……」
寝ている美月の横で続けて呟いた。おそらくこの独り言は美月には届いていない、そう思い、告げたのだろう。
そのまま夏輝は軽く笑いながら立ち上がった。そうして歩く。1歩……また1歩と……
まるで足が鉄になったかのように重い足取りで……
その重い足取りはここから離れたくないと言う事を告げていた。
その事に夏輝は疑問を感じていた。
なぜだ? なぜ俺は今から仕事に行く事を拒んでいる?
以前の俺ならランクが上がると思えば喜んで行ってたじゃないか?
心の中でそう思い、今一度、美月を見つめる。
この感情は……いやっ! ない!! 俺に限ってこんな事……
夏輝はこのこみ上げてくる認めたくない感情を必死に打ち消そうとする。
だがその必死の抵抗は逆にその感情を強くする。
「やれやれ、困ったな……俺はこれからどうしたらいいんだろう……
これからこいつと、どう接したらいいんだろう……」
そう呟いた時、何が? と言われ冷や汗を流す夏輝。
美月が目を覚ましてしまったようだ。
やばっ!? とっさにそう考える夏輝、だが逆にやばいという考え以外浮かばないのだ。
「いやっ、何もないよ美月、あはははは」
「??」
どうやら美月はよく独り言を聞いてなかったようだ。
ただ夏輝の声が聞こえる、それだけで目を覚ましたようだ。
いつもの美月なら夏輝の声が聞こえるだけなんかじゃ目を覚まさない。
美月は、ぼ~としていたが急に『ハッ!』と我に返ったような顔して夏輝に問いただす。
「ひょっとして寝てた?」
うん……と夏輝は一言告げ黙りこんだ
「寝顔見られた?」
正気に返り、顔を赤くしながら問う
うん……とまたもや一言告げ黙りこむ夏輝
その時、絶対殴られると確信していたが、不思議な事にも顔を赤くしたままそっぽを向いてるので
一晩中泣きながら悩みを語っていたから風邪を引いたと思ったようだ。
「大丈夫か? 美月? 風邪引いてないか?」
「な、引いてなんかないわよ!」
美月は強く主張する。
「じゃあ、俺そろそろ行くわ」
そう言って部屋を出ようとする夏輝。
「どこに!?」
ひどくうろたえながら美月は行き先を聞く
その時、夏輝は内心ホッとしていた。あの秘密の独り言を聞いていたのではないかと焦っていたから。
そのまま夏輝は機関の仕事だよと言い部屋を出ようとする。
どうやら夏輝は美月と離れたいようだ。
「待って! 一人にしないで! ここにいるのが無理って言うのなら私も行く!」
美月の様子がおかしい……夏輝はそう思い始めた。確かに美月から離れたいのは事実。
だがそれは今のひどくうろたえている自分の気持ちを整理したいからだ。
本当は一秒たりとも美月と一緒にいたいはずだ。なぜかは解らないが。
なので本心は嬉しい申し出である。
しかし、夏輝はそれを仕事という言葉を盾にそれを拒んだ。
だが美月も諦められないらしく、今も歩いてる夏輝に着いて歩いた。
外にいたら機関の奴に狙われるかもしれないのに、夏輝と一緒に居たいと言う気持ちだけでついてきた。
家が安全と言うわけではないが……なにしろ美月と夏輝が住んでいるマンションは機関から提供されたもの
つまりどこに住んでいるか、なんてものは機関のデーターを見ればわかるだろう。
やがて機関の本部的な所に着いた。だがそれは本部ではなかった。
しかしそれは初めてみる美月には本部にも見えるだろう。
そう、初めて見る美月を本部と勘違いさせるほどの圧倒的なスケール
一言で言ったらでかい。しかしこの建物の印象はそれだけであってそれ以外の特徴はない。
都会の街などでよく見られる高層ビル、ただそれが大きくなっただけだろう。
ただそれだけの事が見る者を圧倒する。そんな所にすたすたと夏輝は入っていく。
ただでかいだけなど慣れたと言わんばかりに堂々と入っていく。
中には意外と普通の部屋があった。普通と言われても想像しにくいだろう。
例えば自分の部屋とか。これは神剣使いの部屋だ。
次に職員室。これは職員室同じような役割を果たしている。
最後にデパートみたいなのを思い浮かべてほしい。ただし売っている物は神剣使いの為の物だと思った方がいい。
こんなところだ、ただ恐らく部屋の量はそこらへんのビルとは桁違いだろう。
この色とりどりの部屋はこの数だから故に出来る事。
だがそこで美月は疑問に思った。こんな大きな組織、そしてビルがあったら一般人にも情報がもれるのではないかと、
いや、それ以前にこんな大きな建物があるのに中でやっている事は不明なんて事は国際的にも法律的にも許されるはずがない。
こんな大きな建物があったらそれこそ一般人でもどんな会社だろうと疑問に思い調べたりするだろう。それが不明なんて言われたら……
そんな疑問を夏輝に問いただした。するととても簡単な言葉で片づけられた。
結界が張ってる。
それだけで一般人は近寄れないようだ。何と便利な力だ、これも恐らく神剣の力だろう。
そしてしばらく歩き、木春のいる部屋までたどり着いた。
完全に和室だ。畳にふすま、障子、そしてちゃぶ台的な物もあった。いや、あれはまちがいなくちゃぶ台だろう。
やはり、木春とかいう者はユニークである。
しかしここでまたもや美月は疑問を抱いた。この広い建物の中を優々と歩き誰一人も機関のメンバーに会わなかったのだ。
木春はその疑問を能力で読み取り、答えてくれた。
「私にはもう一つ能力があるのだよ。」
木春はそこから少し間を開け説明を続けた。
「ロンリネス(正体不明の者)、私はテイクメモリーよりこっちの方が長けていてね。
どういう能力かと言ったら、そう君が今疑問に思った事が出来ると言う事だ。
つまり誰からも発見されない。
だからこの建物も誰からも発見されてないんだよ。しかし一年中寝不足でこんなにも目にクマが……
あと、君たちは何も言わなくていい。わかるから、私の話を一方的に聞きたまえ。美月がここに居る理由ももうわかったから」
美月と夏輝は自分たちがどんな気持ちでここまで来たのかがばれたかと思うと、
もうこれからはこの人には逆らえないなと思った。
木春は『ふっ』と笑い説明を続けた。
「私がなぜ、君たちを呼んだかと言うと、今まで姿も現わさなかったあのお方達の一人だと言う奴が昨日のこのこと全メンバーの前で戦争の説明を始めやがったんだ。私はその時あの方達の目的と戦争の原因が解ると思い。楽しみにしてたんだよ。あぁ、私の力は直接目で見ないと意味ないからな。」
そんなのはいいから続きを早くと心の中で2人は思った。
「まぁ、慌てるな。そこでだ私が見たものはあいつはあのお方達ではなかったのだ。そのまま心を探っていくと
とんでもないことが分かった。あいつはあのお方達を追放し、この機関を乗っ取ったのだ。
私は信じられなかったさ、だがこの能力に嘘はない。嘘さえもわかるのだから。」
これは2人にとって衝撃的だった。いや、美月より機関に尽くしてきた夏輝の方が衝撃的だっただろう。
2人はこのまま木春の言う事を聞いた。偽のボスの名前は守夜この機関を作ったとされる3人をまとめて
戦い、勝った……。そんな守夜の能力はオールディスペル(ありとあらゆるものを無効化する者)
「それって奇跡さえも無効化するって事!?」
夏輝は思はず叫んだ。
「わからない。それは戦ってみないと……と言っても今や奇跡を起こせる者なんていないがな……」
「何でそれを私たちに?」
美月も思わずしゃべってしまった。
「こんな事、機関の誰が信じるって言うのだよ。私だってなぜ戦争を止めなかったって責められたんだぞ。
ただ副理事長ってだけでな。だがお前たちなら信じるかもって思ったんだ。一応生徒だから。
戦争がいつ起きるかも聞かされた……1週間後だ……」
1週間後……
それまでに何ができるだろうか……
おそらく何もできないだろう……
こうしているうちにも時間が過ぎる……
「1000年前になこんな規模じゃ済まない神剣使いの戦争があったんだ。その時は今ある機関などなく、
神剣使いの勢力は2つに分かれていた。その戦争でたくさんの神剣使いが消滅した。
それがどうしたって?戦争の火種はたった一つの神剣。以前レベル11と言っても過言ではないほどの力をもった神剣使いがいた。
そいつが死んだあと、奇跡的にも神剣が残ったのだ。その剣を使い研究を進めたら、とてつもない力が得られると思ったのが原因だ
そしてその剣、今どこにあると思う? ……解るはずもないよな、今あの剣は壱拾参機関が保有している。守夜の目的はそれだ」
今考えれば、美月ちゃん、キャラ崩壊しすぎですね。はい。
守夜さん……誰だ?




