第15話「千年」
こつ……こつ
美月の足音が無音の闇へ響き渡る。
美月はひたすら歩き、やがて光が見えてくる。
美月は光の先は、またあの真白の空間だと予想していた。
しかし、その先にはそんな物などなかった。
そこで美月が目にした物は薄暗い荒れた大地が待っていた。
まるで地震が起きたかのように地割れしていて、地面が盛り上がっている。
優々とそびえ立ち、荒れ狂う大地
轟々と音をたてる風
深々とそれ以外語らない景色
そんな寂しい世界にポツンと取り残されたかのように立つ老人。
手を後ろで組んでいて腰を少し曲げている。
そして服は金と銀の装飾品のついた、白と黒の服を着ている。
その足元には龍門機関を統べる者が跪いてる。
それはまるでこの2人に戦いが起き、その勝負に負けた様だった
美月は信じられなかった、1000の力を使い、残像が残るほど早く動けて、
人を50mも飛ばすような力を持った人間が負けるはずないと。
しかしあの様子はどうみても負けたようにも見える。
その時、老人は美月に気付いた。鋭い眼光が向けられる。
たったそれだけで、そこに跪いてる男以上の恐怖が感じられた。
そして老人は宣言する。
「わしの後継者が現れたようだ……」
何の変哲もないただのその言葉。
別に美月を攻撃すると言ったわけでもない。
世界をひっくり返すと言ったわけでもない。
そんなただの言葉は美月を底無き恐怖と緊張に襲わさせた。
「少女よ……この男に成り替わり、わしの意思を引き継ぎ、そしてわしの過ちを正してくれ……」
「そ……んなの無理よ……何言ってるの? いきなり。」
「わしの名はイシュタル……現在から1000年前の心剣使いだ。
わしを忘れたとは言わせんぞ。わしは以前少ない時間だったがお前の心と共にあったはずだ。
その時わしは感じた。お前から感じるわしと似た何かと理解不能な物を……理解不能な物なだけあって、言葉に表す事はできないが
わしは確かに感じた。そしてその時思った。わしを正せるのはお前だけじゃと……」
「私……と共にあった? 理解不能な物を感じた? ……だ、大体1000年も生きれるはずないじゃん……」
「この剣に見覚えはないか?」
老人はそう言って手に終焉の祖を握った。よく見れば前と少しデザインが変わっていて
剣の中心に太陽みたいなものが浮き出ていた。
「終焉の祖……」
「そうじゃ……そして少女よ。よく聞きたまえ。私は今から参度目の戦争おこす。1000年戦争とでも呼ぼうか。」
「戦争を起こすだって? 勝手なこと言ってんじゃないわよ!」
「だから我が過ちを正してくれと申すのじゃ。」
「そ……んな……」
「私は今から1000人の心剣使いを呼び醒ます。たった1000人じゃ。
現在の心剣使いが一丸となればたやすく制圧できるだろう。
だが、もしお前たちが協力する事も出来ずに争うならば、お前たちは全滅するだろう……」
「待って、私の力じゃ3つもある機関全員に協力を求めることなんてできないわ!
そもそも1000人の神剣使いなんてどこに居るのよ!」
「協力を求める事は出来ない? そうかの? お前さんは奇跡の月姫じゃろ?
そして、1000人の心剣使いはこいつに眠っておるわ……」
老人はそう言って剣でタナトスを差した。
そして続けてしゃべった。
「一応ハンデとして教えといてやろう。私の能力は3つある。教えてやろう。
一つ目、シャットハート(能力吸収)
二つ目、エレメントディスパッチ(原子破壊)
三つ目、マグスマスター(奇跡千来)
以上だ……楽しみにしているぞ。奇跡の月姫よ……」
ロンリネスがない……
と言う事はロンリネスは奇跡で起こしたとしか思えない。
そう告げると、周りに闇が生まれ美月は走っていた場所に居た……
美月はしばらく呆然としていたがハッ、となって走り出した。
「ほんとなんだって!」
美月はまず葉乃愛に例の話をしていた。
「そんなこと言っても信じられないし。どうせ夏輝君を後ろから斬りつけた言い訳だし。
そんな事よりもなんであんな事したんだし!!」
葉乃愛は激怒していた。それもそうだろう、愛する人を傷つけられたのだから。
「もぉ~あんたじゃ話にならない! 夏輝はどこに言ったの?」
その時『おかえり~、あ、ただいまか』と言う声が聞こえた。
美月は急いで夏輝の元に駆け寄った。
だが、美月は夏輝の姿を見てひどく驚いた。
肩と腕にぐるぐる巻きにされた包帯。
これが自分のやった事だと思うとものすごくショックを受ける。
「あ! 美月! どこ行ってたんだ! 心配していたんだぞ!」
美月はショックを受けているときに大声で怒られてビクッとして硬直してしまった。
そして、ぼろぼろと涙を流す。
「やれやれ、また泣くのか? ほんと泣き虫だな。」
軽く笑いそう言う
「ごめん……ごめんなさい。」
夏輝はそのまま呆れ顔で美月の頭をなでてやった。
そして、美月と顔を合わすように身を屈め、こう言う。
「何があったか、説明するんだ。いいな?」
「うん……」
手で目をこすりながら奥の部屋へ入っていく。
そして美月は今まであった事を全て話した。
「そっか、そんな事があったんだ……」
「信じてくれないの?」
今も半分泣いている美月がおどおどした声で聞く。
「信じるに決まってるじゃないか! と言う事はあれだな? 要は機関に協力してもらえばいいんだろ?」
「そうだけど、私がそんな事が出来るはずないよ……」
「ふふふ、じゃあ俺は? ナンバー5、獄炎の貴公子。」
「ナンバー5? 獄炎の貴公子?」
美月と葉乃愛は驚きが隠せないようだ
「あぁ、正確には現在ナンバー1だぜ?守夜や木春がいない今、機関を統べてるのは俺だぜ?」
「獄炎……それはファイアスターター最強に与えられる称号のはずだし……そんな人が私に負けるはずはないし……」
「ファイアスターター最強だけど? ファイアスターター単体では正真正銘レベル10だぜ?」
「今まで、嘘ついてたの?」
泣きやんだ美月が問う
「……あぁ、ごめんな。それには色々わけあって……」
その時、夏輝の部屋に闇が現れた。
三人に緊張と不安が充満する。
「闇の力だし……」
「奇跡の月姫よ。時刻は明日じゃ。あと、こいつを引き取ってくれ。」
闇の中からイシュタルの声が聞こえ、闇から気絶しているタナトスが出てきた
そうして、闇は消え。葉乃愛が異常なほどに怯えだした。
それはタナトスにではない。タナトスをこんな風に扱う中の人物に……
そうしてる内に闇は消え、緊張と不安は消えた。
そして、タナトスが起きて、暴れてもいいように縄でぐるぐる巻きにした。
「よく考えたら、明日戦争なんだよね……時間ないじゃん!」
それからあーだーこーだ言ってる内に皆眠ってしまい、夏輝が目を覚ました。雑音で……
「おい、私をこんな風に扱ってどうするつもりだ!」
タナトスだった……
その声に葉乃愛も美月も目を覚ましたが、恐怖する事はなかった。
この言葉から威厳や恐怖と言った感覚が湧き出て来ないのだ。
「あんた、タナトス?」
あまりの変化に美月は思わず聞いてしまった。
「タナトス? なんだそれは、私の名はレーテー。タナトスではない! とりあえず、縄をほっどっけ!」
「ふふふふ……とりあえず、一発……いや、何発か殴らせろ」
「え? ちょ? あ~~!」
三人はこのタナトスに似た人物を都合がいいとばかりに殴った。
そして、タナトスの縄をほどいてやった。
そこで夏輝はある事に気付く。
「こいつ、もしかしたらタナトス似の誰かなんじゃ……おい、神剣使いだろ?神剣出してみろよ。」
タナトスの神剣はライトサーベル状だった。
ここでそれが出てきたらタナトス、それ以外なら……
「心剣か? いいだろう。」
そう言って神剣を取り出した。
それは、イシュタルの神剣と瓜二つだった。
ただ、剣の中心に太陽ではなく月が浮き出ていた。
「やば……じゃあ、あんたの能力は?」
冷や汗を出しながら藁をも掴む気持ちで問いかけた。
「ジェネラルリターン(通常再起)だ。どんな状態でも私の意思がある限り
元に戻せる力だが、それがどうかしたか?」
よく考えればおかしい。さっきあんなに殴ったのにこの男には傷どころ痣さえもない。
だが、肝心なのはそこではない、この男はタトナスではないと言う事と何者かわからないのだ。
「どうしたもこうしたも……さっきは人間違いして殴ってしまってごめんない!」
美月は謝る。残りの2人も謝った。
「いやいや、解ってくれればいいんだよ。そんなことより君どこかで会った?」
レーテーは美月を指さした。
「あなたと似た人なら見たけど……」
「そうか……そういやそんな事言ってたね。ところで知ってるかな?」
なぜか空気がシーンとした。
そしてレーテーは続けて話す。
「明日、戦争が起きる事を。」
レーテー……
なんと言うか、なんと言うかですね……
意味わからんな^^;
まぁ、要はネタバレ防止のために多くは語れないと言う事です