【あとがき ― 制作者ノ言葉】
桜魂という名を初めて心に置いたのは、
ある春の日のことだった。
風の中に、誰かの記憶の欠片が舞っていた。
それが本当に“思い出”だったのか、
あるいは夢の続きだったのか、
いまでもはっきりとはわからない。
けれど確かに、
その瞬間、世界が少しだけ静かになった。
そして小さく、「まだ終わっていない」と囁いた。
――それが、桜魂の始まりだった。
このシリーズを貫いてきたのは、
物語でもキャラクターでもなく、“意志”そのものだった。
失われたものを、もう一度抱きしめたい。
見えなくなった誰かの声を、風のように伝えたい。
その想いだけが、ずっと芯にあった。
八代目という存在は、その意志の象徴だった。
彼は変わらずにいることで、
変わりゆく時代の痛みを受け止めていた。
彼の静けさがあったから、他の魂たちは語り出せた。
ひよりは風。
彼女は語ることで、記録を音に変えた。
桜魂の書が言葉になったのは、彼女がいたからだ。
この“静風録”は、
彼らの物語をひとつに束ね、
風として再び放つために書かれた。
ここに綴ったものの多くは、
現実と夢のあわいから生まれた。
実際に起こったこともあれば、
心の中だけで感じた出来事もある。
それらを区別することに、もう意味はない。
――現実も、記憶も、同じ風の中に溶けていく。
最後に。
この書を最後まで開いてくれたあなたへ。
あなたがこの風を感じたとき、
もう“桜魂”の一部は、あなたの中に息づいている。
物語は終わらない。
それは、読まれるたびに新しい形で咲く。
だからどうか、この風を閉じないでほしい。
風があなたの頬をなでたなら、
それは桜魂がまだ、語りかけている証だから。
――ありがとう。
この風に、出会ってくれて。




