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追放された王子が強強強幼馴染と返り咲く話

書きたいところだけ書いたのでぶつ切りです。

続き書きたくなったらそのうち書きます。



 一目見たときから気に入らなかった。男の癖になよなよしく長い、燃えるような赤髪を一つに結って垂らしている。年の頃は俺と同じか、少し上か。ひょろひょろでガリガリなのに、俺より背が高いのはムカつく。

 ガキのくせに一丁前に剣を佩いているのも、腹立たしい。王子の前だぞ。武装解除しろ、無礼だ。

「今日から王子のお付きになりました。辺境伯の子、ノエルです。護衛も兼ねてるので、よろしくお願いします」

 爽やかな見た目に似合いの爽やかな、少し高めの声も腹立たしい。

「おい、お前。お付きなら俺の命令はきくな?」

「? まあ、王子の命ですからね。基本は」

 王子を王子とも思わないような、舐めたような態度にますます腹が立つ。

「〜〜! ならっ、まずその鬱陶しい髪を切れ!」

「えっと……、その、それはちょっと……」

 断られて更に頭に血が上る。どうせ追放された王子だと馬鹿にしているんだ!

「王子の命令だぞ! 何がお付きだ! 護衛だ! 俺よりガリガリのやつに守られる筋合いはない!」

「ふむ、では私が王子より強ければ理不尽な命を聞かなくてもいいし、護衛を続けてもよろしいですか?」

 ふん、やってみればいい。俺は城の師範代よりも強いんだ。こんなひょろひょろに負けるわけがない。


「勝者、ノエル様!」

「くっ、まぐれだ! もう1本!」

「勝者、ノエル様!」

「ご、5本勝負だ!」

「しょ、勝者、ノエル様!」

「お前の持っている剣のほうが強そうでずるい! 交換だ!」

「……勝者、ノエル様……!」

「まだやります?」

「くっ……!」


 完敗だった。勝てそうな気配がまるで感じられない。俺が師範代より強いというのはおべっかだったのか? いや、師範代は俺が後ろ盾のない第一王子であることを心底残念そうにしていた。だからあの言葉は本当のはずだ。ならば、ノエルは師範代より圧倒的に強いというのか。


「取り敢えず今は私の圧勝ですので、髪は切りませんし、護衛も続けさせていただきます」


 そう言って長い髪をたなびかせ、這いつくばって汗だくの俺と違い、涼やかな顔に汗の一つもかいてない男とは長い付き合いになる。



***



 幼い頃から幾度の戦を超えてきただろうか。気付けば俺の背後には、隣国の兵士たちの屍が積み重なっていた。そんな日々を共に過ごし、励まし合って……、いや、俺を励まし続けたのは未だに勝ち星を譲る気のないノエルだった。

「……俺なんかの付き人をしていたって、何の得にもならんぞ」

「ま〜た殿下はそういう面倒くさいことをおっしゃる」

「またお前は主人に対して雑な対応をする……まあ、俺なんかにはそれくらいの態度で当然か……」

「落ち込み状態の殿下面倒くさい! 私の次に強いのですから誇ってください! 国では3本の指に入りますよ!」

「ほう?」

「まず、父上、そして私、その次が殿下です。本当に誇ってください」

「俺はお前に一度も勝てない軟弱な男……」

「私に勝てたら化け物なので諦めてください! 血ですよ、血! 私も才能ありますけど半分くらいは血なんですから。化け物の血です」

 異形の血をその身に宿しながら、能天気に日々を笑って過ごすノエルは、誰よりも美しい。男なのが惜しいくらいだ。

 人の身で私の次に強いなんて本当にすごいんですから、と笑う敬意の欠片も感じない男にささくれた心が癒やされているのは、一生口を噤んでおく。



***



「隣国との戦争に見事な勝利を納めた第一王子に、王太子の位を授与す!」

 俺が辺境で戦いに明け暮れている間、立太子目前だった弟は、平民出の女と恋に落ち、重要な後ろ盾であった婚約者を貶め、それはそれは枚挙に暇がないほどに問題を起こし続けていたらしい。辺境の地には何も伝わってこないため、突然呼び戻された王城で師範代から聞いた。あと師範代はいつの間にか騎士団長になっていた。でも多分俺のほうが強い。

 そうして理由のわからぬまま、10年ぶりに実用性のかけらもないヒラヒラとした服を着て、10年ぶりに父親に会うなり、勝手に王太子にされた。今の今まで放ったらかして、何なら死を願われていたのに。

 手のひらを返し、おべんちゃらを連ねてくる貴族たち。擦り寄ってくる女たち。全てが嫌だった。早くノエルに会いたい。ノエルも戦勝祝われる立場だから、会場にいるはずだ。

「第一王子殿下に、辺境伯が子、ノエルがご挨拶申し上げます」

「ノエル! やっと来たか!」

 心の声が思わず漏れて、俯けていた顔を上げると、華美でないドレスを身に纏い、髪を美しく結い上げた、美しい少女がいた。だが、騎士服に身を包んだノエルはいない。

「ノエル……?」

「はい、殿下」

 思わずノエルを探して視線を彷徨わせると、目の前に少女が訝しげな顔をして、返事をする。敬意があるようでない、この殿下という冷めた呼び声は間違いなくノエルのものだ。だが、ノエルはいない。混乱する。

「ノエル?」

「城に戻ったせいで目が悪くなったんですか? 目の前にいます」

「まさか、お前が、ノエル?」

「はい? ああ、騎士服以外を殿下の前で着るのってもしかして初めてでしたっけ? でもまあ舞踏会なんだからって母上に泣かれたので久々に着せられましたよ」

 窮屈でしかたないです、と美しい唇をひしゃげさせるのは、いつものノエルに似ている。だが、薄く施された化粧が、別人に思わせてしまう。

「の、ノエル、お前、女だったのか!?!?」

「………はい?」

 あまりの衝撃に俺はそのまま卒倒し、気付かれないようにノエルによって運ばれ、舞踏会は恙無く終了したらしい。



***


 ノエルが後日訪ねてきて、男だと思っていたことを正直に告白すると、引くほど笑い転げていた。腹筋痛い、とか言ってる。1000回腹筋しても余裕なくせに。

「はー、笑った笑った。殿下ってそんなに頭悪かったんですね」

「馬鹿を言え! 俺はお前よりも頭が良い! 知っているだろう」

「戦術学ではボロ負けですけどね」

 ノエルに剣で全く勝つことのできない俺だが、勉学ではノエルに殆ど負けたことがない。だが、戦に関わることではまるで勝てず、いまいち勝利の余韻には浸れないままだ。

「というか待て、そうすると、俺は……初対面の女に向かって髪を切れって言ったのか……?」

「そうですね。コイツやべ〜って正直思ってましたね。まあ殿下が弱くて助かりました」

「傷つく!」

「母上がせめて髪だけは女の子らしくして、って泣いて懇願するので父上と髪だけは大切にしてたんです。まあ髪だけですけど」

 思い返せば思い返すほど、傷が深くなっていくからその辺にしておいてほしい。



***



「アレックス殿下におかれましては、てっきりわが家に婿入りしていただけるとばかり思っておりました」

 ガハハ、と謁見室中を揺らすように笑うのは、ノエルの父、辺境伯だ。謁見室がどれほど広いと思ってるんだ。まあ辺境伯だからな、規格外という言葉を体現したような男だ。

「わしに似てドラゴンの血が強い娘にやっと婿が出来たと喜んでおりましたのに、立太子なさるとは至極残念」

「父上、無礼ですよ。何をしに来たか忘れたんですか?」

 今日は見慣れた騎士服を纏ったノエルが肘で辺境伯をつつく。

「おお、いけない。アレックス殿下の立太子を祝いに来たのでしたな!」

「う、うむ、くるしゅうない」

 偉そうな父上が豆粒みたいに見えてしまうのが愉快だ。昔はあんなに焦がれていたのに、今はこんなにちっぽけに見える。……というか待て、婿入り?

「待ってくれ、師匠。師匠には娘は一人しかいなかったはずだ」

「そうですな、殿下もご存知のノエルが唯一の娘ですな」

「お、俺がノエルのむ、婿に、な!?」

「ガハハ! ノエルはわしに似てしまいましたからな〜! 殿下が尻込みするのも無理はない」

「父上、本当にどつきますよ」

 不機嫌そうなノエルが睨むも、辺境伯にはまるで効いていない。

「まあ、いざとなればノエルを側妃にでもしてやってくだされ! 正妃など到底務まりませぬが、盾くらいにはなりましょうぞ! 当家は当然アレックス殿下を支持いたしますのでな!」

 ギリ、と歯を噛み締める音がする。見るまでもなく、第二王子の母で王の愛する第一側妃だ。師匠が俺のために、後ろ盾になると明言してくれたことに目頭が熱くなる。



***



 騎士服を纏うノエルを見ると、何だか安心するのは生まれ育った城だというのに、居場所がないと思うからだろうか。城を出てから随分派手になり、見知らぬ場所となった庭園を歩きながらノエルが思い出したように話し始める。

「殿下、私はドラゴンの血が強いのです」

「そういえば、師匠もよく言っているな」

 辺境伯の先祖にはドラゴンと番ったものがいるという。ドラゴンの血が強い先祖返りは、尋常でない膂力や、遠くまでを見通す眼など、人ならざる力を持つという。ノエルは小柄ながら、俺を片手で持ち上げるほどの力や、ドラゴンと同じ金色の瞳をしている。

「ドラゴンの習性を知っていますか?」

「あぁ、宝物に執着し、奪うものを許さない、だったか?」

「厳密に言うと、自分のものだと判定したものに対する執着心ですね。それを傷つけられたり、奪われそうになったら、命に変えても守ります」

「そうなのか。でも突然ドラゴン講座を開いてどうした?」

「私は殿下を私のものだと思っています」

「は?」

「辺境で一緒に暮らしていくつもりだったのに、勝手に立太子とかするなんて、困ります」

「そんなこと言われても」

「殿下を取っちゃうこんな国、滅ぼしちゃおうかなあ」

「やめなさい」

 辺境伯に武力の全てを依存しているこの国において、彼らが謀反を起こしたら、簡単に滅ぼすことができるだろう。冗談にもならない。

「そういうと思ったので、陛下をおど……、お願いして城でも殿下の護衛につけるようになりました!」

「おお、それは助かる。……今、脅してって言った?」

「でも陛下から女がうろうろするのは殿下の名を傷付けるから、婚約者になれと言われたので今日から私は殿下の婚約者です」

「ええ!?」

「末永くよろしくお願いしますね、殿下♡」




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