39.変わる戦況
「なんだ……こいつら」
特区の酒場は、異様な空気に包まれていた。
十九階層への突入という注目の状況と、攻略組が迎えた危機。
そこに現れたのは、謎のパーティだ。
高火力の攻撃を受けても、涼しげな顔で立つ美女の鉄壁の守り。
その直後に放たれた、視聴者の網膜を焼くほどにまばゆい紅蓮の炎。
「攻略組のピンチを、あっという間に立て直したぞ……?」
一瞬で送られてきた岩塊による攻撃から、敵の身体を切り取った謎の攻撃。
とんでもない連携に、誰もが配信画面を見ながら呆然としたままでいる。
しかし、彼らの驚きはこれだけで終わらない。
この快進撃はまだ、始まったばかりだ。
◆
初手でチームを分断されてしまったという事実は、大きなマイナスだった。
前衛後衛の配分が悪く、不利なままの戦いを強いられるからだ。
いまだ五体の中ボス級が残るこの戦場では、厳しい戦いが行われている。
「巨大化、だとっ!?」
一体のオークタイプが発動したのは、巨大化のスキル。
「回避! 回避だぁぁぁぁ!!」
振り上げた斧の振り降ろしを、慌てて避ける攻略組。
しかし大地を穿つ一撃は大きな振動を生み、転倒するものが出た。
巨大化はそれだけで、恐るべき火力を生み出す一手。
次撃は間違いなく、犠牲者を出すだろう。
「させるかっ!」
そんな中、飛び出してきたのは響介。
巨大化オークの蹴り上げを避け、斧の振り降ろしは横への跳躍で回避。
これによって地面に走る振動を受けず、敵の攻撃を自身に引き寄せた。
「今っ!」
声を上げたのは千早。
すると閃光のような速度で駆けてきたユキヒョウが、華麗に跳躍。
空中で回転し、振り下ろす爪に輝きを灯す。
放つ一撃は、巨大化オークの胸元を切り裂いた。
大きく体勢を崩すオークに対し、俺は余裕を持った投擲に入る。
「そらっ! 今だ!」
投じた魔宝石は、『行き先』のマーク。
「【瞬間移動】!」
直後、ルルの腕をつかんだ紫水さんが、巨大化オークの頭上に現れた。
「【解体】!」
ルルが魔物に触れ、スキルを発動する。
すると一体で戦況を変えてしまえるほどに巨大な魔物が、その大きさなど関係なく一瞬でバラバラに解体された。
「「「…………っ!?」」」
その反則としか言いようがない、脅威の連携を見た攻略組パーティが呆然とする。
「こんな才能が、一体どこに隠れていたんだ……」
驚愕するリーダー。
しかし戦いを勝利へ導くために、すぐさま気を取り直す。
「よし! 空いた後衛は右手に回れ! 近接組が固まっていて攻撃が単調になっている! 盾役は左手の後衛が多いところに向かえ! 押され気味の戦いを支えるんだ!」
こうして部隊の配置を変更し、さらに戦いを安定させていく。
「グオォォォォォォ――――ッ!!」
そんな中、上がった咆哮。
「「「うわああああああ――――っ!!」」」
それはオーガの亜種か。
黒く大きな鬼が振り払った棍棒の一撃に、弾き飛ばされる前衛防御部隊。
吹き荒れる風に後衛部隊が体勢を崩す中を、進むのは千早。
すぐにその姿を見つけた黒鬼が、棍棒を振り下ろす。
「【不動】【鉄壁】」
しかしその細い腕は、岩をも砕く一撃を当然のように受け止める。
「すごい……っ!」
「だが俺たちは、どう援護すれば……!」
中遠距離攻撃は千早を巻き込んでしまうため、攻略組は当然躊躇する。
「問題ないわ、私ごと撃てばいい」
「「「っ!?」」」
まさかの言葉に、さすがに気が引けてしまう。
しかしそこから始まった黒鬼の連撃を、腕一本で受け止め続ける千早を見て、覚悟を決める。
「い、行くぞ! 総攻撃だ!」
「「「了解!」」」
放つ怒涛の魔法攻撃が、混ざり合って盛大な爆発を巻き起こす。
その火力は、さすが攻略組と言われる者たち。
黒鬼は耐えることができず崩れ落ち、そのまま倒れ伏す。
「これだけの総攻撃でも、無傷なのか……!?」
しかし千早は、髪すら乱れていない。
勝利しながらも、自らの攻撃が一切通じない柊千早という存在に、攻略組の魔導士が驚愕の顔をする。
これで、残りは三体。
ボロボロのローブをまとった黒ヤギの魔物が、杖を掲げる。
すると放たれた氷塊が弾けて、猛烈な吹雪を巻き起こした。
そんな中を、駆けて行くのはユキヒョウ。
脚部への喰らいつきから、そのまま敵を振り回し、体勢を崩す。
「【ソードソニック】!」
そこへ俺が斬撃を飛ばし、転倒を奪う。
「これで勝負ありだ! 【収納】!」
すぐさま駆け込んで来た陸さんが、そのまま黒ヤギを両断する形でスキルを発動して打倒。
これで、残りは二体。
こうなれば攻略組も完全に安定を取り戻し、戦いを優位なものに変えていく。
そんな中。
「「「っ!?」」」
おとずれた不運は、この階層の『ボスとは関係ない』通常の魔物が入り込んできたこと。
ミノタウロスの別種を思わせる灰色の巨牛は、気づいた時にはすでに、こちらの斜め後方から走り出していた。しかし。
「【開放】!」
後方から新手がやって来る可能性もあると考えた六花が、あらかじめ地面に設置していた魔宝石が炸裂。
炎、氷、雷の三つの魔法が混ざって荒れ狂い、ミノタウロス別種の激しい特攻を足止める。
「撃て! 撃てぇぇぇぇ!!」
即座に連携を仕掛ける攻略組。
これによって、最悪のタイミングで現れたミノタウロス別種も、何もできないまま倒れ伏した。
「属性混合魔法はチームだからできる戦略。それを単体で使うなんて……」
六花が魔宝石に【封魔】することができると知らなければ、なかなか集まらない攻撃魔法の宝石を惜しみなく使う戦法は、異端にしか見えないだろう。
「見たことのない戦い方ばかりだ……スキルで言えば、我らを超える者すら……っ!」
「ああ、だが今はいい! このままこの戦いに勝利するためだけに動くんだ!」
驚きを見せながらも、冷静な指示を出すリーダー。
残り二体の打倒に集中するよう喚起する。
「……行け、響介」
すると紫水さんが、階層主である白の魔導士を指差した。
「ヌシの狙いは、ヤツじゃろう?」
「行って」
その言葉に、ルルも大きくうなずく。
「ドロップ、出るといいですね」
「くれぐれも、気を付けて」
「響介くんなら、いけるさ」
「ああ……行って来る!」
俺は走り出した、仲間たちに見送られる形で。
視線の先には、白のローブをまとった骸骨魔導士。
そしてその前に立ち塞がった新手の魔物と戦う、少女の姿があった。
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