37.新層と攻略組
数多くいる探索者の中でも、選りすぐりの戦闘能力を誇る者たちを中心にして、ダンジョン攻略を行うプロ。
それが『攻略組』だ。
「これで……終わり――――ッ!!」
獅条アスカの振り下ろした【灼火剣】が紅蓮の炎をあげ、十八階層の主を焼き斬った。
ごうごうと燃える炎は、そのまま魔物を焼き尽くす。
するとすぐさま攻略組の数名が駆け出し、下層へ降りる穴を発見。
「見事だなアスカ。これで十九階層への道が開いた。ここで一度休憩を取り、また後から追ってきてくれ」
「了解」
攻略組リーダー格の男は、三十歳ほどの剣士。
圧倒的な火力を持つアスカを中心に据え、これまで見事なダンジョン攻略を行ってきた。
アスカは言われるまま、後方支援隊の持ってきた飲み物を一口。
十九階層への進行を、慣れた感じで見送る。
ちなみにこの光景は、配信という形で見ることができるようになっている。
攻略組の後方支援隊の一部は、階層の把握やマップ作り、敵の攻撃などを分析するために存在する。
そしてその記録を拡散することは、後に来る探索者を守ることにもつながる。
特に今日のような『攻略日』には、数階層おきに機材を置くことで、配信の感度も問題なしだ。
「さすが獅条アスカだな……圧巻のせん滅力だった」
「攻撃力だけでなく、回避能力も群を抜いてる感じだな」
思わず息を飲んだのは、そんな配信を見ていた探索者たち。
酒場に集まって攻略組の戦いを見る行為は、スポーツの世界大会のような熱気を持ち、皆夢中になっている。
「新しい階層へ踏み出す瞬間は、いつ見てもワクワクするなぁ」
「十九階層には、何が待ち受けてるんだろう……」
「まあ何があっても、獅条アスカがいれば余裕だろ! 攻略組は特区最高のメンバーだからな!」
これまでいくつもの難関を越えてきた攻略組への信頼は厚く、大きなモニターで配信を見られる酒場は、いつでも盛り上がっている。
中でも獅条アスカは容姿の美しさにも優れ、その上で異常な強さを誇るという存在のため、とにかく目を集める。
細身の身体に張り付くようなボディスーツ型の防具に、火竜の骨を大雑把に削り出した巨大な剣は、今や羨望の的だ。
「さあ、カメラが十九階層に入るぞ……」
静かな階層を進んで行く、攻略組の前衛部隊。
十九階層は岩壁のホールに埋まった魔石の鉱脈が溶岩のように輝き、意外な明るさを誇っている。
「「「っ!?」」」
五つほどホールを進んだところで、リーダーを含む前衛部隊が思わず足を止めた。
どこからか噴き出す風、魔石脈がざわめくように照度を強めていく。
風は渦を巻き、一転白煙と共に突風を弾けさせた。
「……この感じ、初戦がいきなり階層主か!?」
まさかの事態に、しかし冷静に武器を構えるリーダー。
敵は大型。
その姿はレイスやリッチといった、骸骨の大魔導士を思わせる姿。
意外にも純白のローブをまとった大魔導の腰元には、美しい武器が数本ほど提げられている。
大魔導はその中から、一本の宝石杖を取り出し掲げる。
現れたのは、いくつもの魔法陣。
「来るぞ! 気を付けろ!」
攻撃を想定し、上がるリーダーの声。
しかし魔法陣から現れたのは、見たことのない魔物たちだった。
「部下を召喚して戦うのか!? こんな敵は初めて見るぞ!」
現れたのは、同階層の中ボス級と言えるレベルの魔物たち。
それを複数同時に使役するというのは、これまでにない戦い方だ。さらに。
「攻撃くるぞ!」
大魔導の杖から続けて放たれた紅蓮の炎弾が、攻略組の前で爆発し、大きく燃え上がる。
とっさの回避で、炎にあおられるだけで済んだが、いきなりパーティを分断されてしまった。
そこに飛び掛かってくるのは、大きな角が目印の巨猿。
「速いっ!」
先手を派手な魔法で取られたことが、不利の流れを生み出した。
人間くらいなら片手でつかむことのできる大きな拳が、叩きつけられる。
「うわああああああ――――っ!!」
直撃こそ避けることに成功するが、地面を叩いた拳が生み出す衝撃波に、転がる攻略組前衛。
「【ライジン】!」
リーダーの雷撃魔法が、地面を叩いたばかりの大猿に直撃し硬直とダメージを奪う。
ここで数名の前衛が、追撃に向かおうとするが――。
「っ!!」
迫る四体の魔物によって、急停止を余儀なくされた。
さらにそこへ、再び大魔導の炎弾が迫る。
「「「わあああああああ――――っ!!」」」
吹き飛ばされ、転がる攻略組の一部隊。
強力な魔物たちが、拙いながらも連携で戦い始めれば、先手を打たれた攻略組は厳しい状況に追い込まれる。
「アスカさん!」
「すぐに向かうわ」
連絡役のあげた緊張の声に、アスカはすぐさま【灼火剣】を手に取り走り出す。
疾風のように駆けるアスカは十九階層を駆け抜け、『ボスの間』と化した広いホールにたどり着いた。
そして防戦一方の一部隊を狙って駆け出した、二本の角を持つ黒ヤギの魔物に目をつけた。
「【灼火剣】!」
正面から振り下ろした灼熱の一撃が、何と一発で黒ヤギを燃やし尽くす。
「すげえええええっ!」
「さすが獅条アスカだ! 攻略組の中ですらレベルが違う……!」
この階層の戦いに、手助けに行ける者などいない。
現地までの距離、そして初見のうえに強力な敵。
酒場に張り込めた緊張の空気を破った獅条アスカに、わき上がる歓声。
「いきなり階層主級とぶつかったの!? それに、見たことのない魔物が複数同時に……」
アスカは一つ息をつき、相棒の剣を強く握り直した。
◆
「あれ、なんか配信してる」
共有スペースのテーブルに置かれたタブレットを何気なく見ていると、攻略配信がお勧め欄に出てきていた。
何気なく、内容をのぞいてみる。
「今日は攻略組の皆さんが、配信をする日だったんですね」
ソファで魔宝石を磨いていた六花が、こちらに顔を向けてそう言った。
「そういう日は、酒場辺りが賑やかになるのよね。皆で配信を見るために」
その横でダンジョンキャットを撫でていた千早も続く。
「そんなことをやってたのか……」
初耳の情報に感心しながら、再びタブレットに視線を戻す。
そこに映ったのは、真っ白なローブをまとった魔物の姿。
「……あれ」
俺の目が、『それ』を捉えた。
「どうしたんだい?」
突然硬直した俺を見て、陸さんがテーブルにやって来る。
「今見えたのって……」
俺はあらためて、配信を凝視する。
気付けば高鳴る鼓動が、耳を打ち続けていた。
息を飲み、瞬きもせず、ひたすらにタブレットを見続ける。
するともう一度、『それ』が画面に映った。
「……間違いない。これは、この剣は……っ!」
「もしや響介がずっと言っておった、例の剣のことかのぉ」
ただ一度だけ、うなずいて応える。
俺がダンジョンに来るきっかけになった、一目ぼれしたあの剣。
それからずっと手にする日を夢見ていた、俺の『エクスカリバー』
ダンジョンから魔物たちがあふれ出るモンスターフラッドの時に、一度だけ目にした一品。
そしてコレクションの最上段に置きたい、あの美しい剣だ。
それは、十年ぶりの再会になる。
「行かなきゃ」
「ご一緒します」
そう言って立ち上がったのは、六花。
するとベースの面々が、続々と立ち上がる。
「ドロップするかは分からないけど、チャンスを放ってはおけないわね」
「僕も行くよ、響介くん」
「わ、わたしも」
「もちろんワシも行くぞ」
「みんな……いいの?」
もちろん俺は、ダンジョンに向かうつもりだ。
でも初見の新層に行くとなれば、それだけ危険も多い。
「響介には皆、助けられてきたからの」
「こう機会があるのなら、響介くんの力になりたいんだ」
「まず十一階層まではワシの【瞬間移動】で行けばいい。そこからは最短で駆け抜ける形じゃな」
全員が準備を始める。
俺が欲しい剣のために。
「ありがとう」
まさかベースメンバー全員が、同時に動くなんて思わなかった。
こうして俺たち六人は、ダンジョンに向けて動き出した。
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