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33.お披露目の日

 俺はこの日、共用スペースでくつろいでいた。

 今は【リザードマンの剣】に、よく漫画で見る『刀をポフポフ』するやつをやっている最中だ。


「フォッフォ。響介、折れるほど叩かぬようにの」

「そんなにしないっての」


 俺と紫水さんのそんな会話に、メンバーたちが笑う。

 この時間は六花や千早、さらに陸さんと紫水さんまでいる。

 そう、今日はベースメンバーがそろう日だ。


「……響介」


 すると、部屋から出てきたルルが俺を呼んだ。


「こっちにきてほしい」


 言われるまま、俺はルルの部屋へ。

 もちろん、【リザードマンの剣】を手にしたまま。


「これ、できた」


 そう言って差し出されたのは、【リザードレザー】を使った鞘。


「おお……すげえ」


 思わず感嘆する。

 黒い革を、鈍い輝きのシルバーで飾った鞘。

 短剣用の鞘までセットで作られてるけど……最高にカッコいい。


「ここにリザ剣を収めると……いや、これすごいな」


 金属の剣と、革の鞘。

 素材が違うからこそ、互いを引き立て合う。

 黒いリザ剣の少ない意匠に合わせて、少しだけ飾りを増やした感じの鞘。

 俺の想像の一つどころか、二つ三つは上だ。


「カッコいい……」


 思わずそうつぶやきながら、腰に掛けて何度も確認。

 うん、しっくりくる。


「そうだ、今ちょうど陸さんが入れてくれたお茶を飲んでてさ。ルルも来いよ」

「う、うん」


 そう言って俺は、ルルを共用スペースへと連れ出す。

 もちろん、腰にはリザード装備を提げたまま。


「あれ、響介くん。それはどうしたんだい?」


 するとさっそく、陸さんが目をつけた。


「新しい鞘、これから使っていこうと思って」

「へえ、すごくいいよ。僕もレザー製品はかなり好きなんだけど、最高だね」


 普段から欧米のバイク乗りみたいな恰好をしている陸さんは、興味津々の目でそう言った。


「本当、カッコいいですね!」


 するとそんな陸さんの声に気づいた、六花が続く。


「いいわね、似合ってるわ。それに……造りもいい」

「フォッフォ。これは良いものを手に入れたの」


 さらに千早と紫水が寄って来て、鞘の完成度の高さに驚く。

 やっぱり、ルルの作るものは良い。

 造りの丁寧さはもちろんだけど、何よりカッコいい。


「ありがとう。やっぱりルルに頼んで正解だったな。ルルの作るものは、いつだって最高だよ」


 俺がこの時間ここにいたのは、わざとだ。

 でも、もちろんメンバーに「良いように言ってくれ」とは一言も言ってない。

 そんなことをしなくても、ルルの作るものは良い。

 思わず目を引かれるほどに。

 そう、「気持ち悪い」と言われるほど加工に夢中になっているルルの作るものが、半端なはずがないんだよ。

 中でも陸さんは、刃物を扱う上にレザー製品も好きとあって、いよいよ興味深そうに鞘を見つめる。


「……響介」

「ん? どうした?」


 俺の隣にきたルルは、覚悟を決めるように息をついた。


「あのレッドドラゴンの骨格標本…………出してみる」

「そっか、そりゃ切戸さんも喜ぶな」

「すいませーん!」


 するとタイミングよく、担当者がベースにやって来た。



   ◆



「なあ、あれなんだと思う?」

「さあなぁ……」


 晴れた日の特区ゲート前。

 通称ギルド館と呼ばれるその建物は、石造りの外観が本当に異世界のような雰囲気をしている。

 ここには探索者としての申請や、特区運営の様々な仕事を請け負う部署がある。

 その前にやって来た人々は、思わず足を止めて様子をうかがう。

 それは紅色の幕に覆われた見上げるほど大きな『何か』が、そこに立っているからだ。


「フォッフォ。中身が分かっていてもワクワクするのぉ」


 紫水さんが、楽しそうに笑う。


「こういう場所であらためて見ると、またその大きさがはっきり感じられるねぇ」


 レッドドラゴンの捕獲を手伝った陸さんも、見上げながら感嘆する。


「でもすごいですね。こんな街の中心部に、作品が飾られるなんて」

「本当ね。特区の歴史でも初めてのことじゃないかしら」


 六花と千早も、興奮気味に発表を待っている。

 ついに訪れた、レッドドラゴンの骨格標本の発表。

 俺たちもそのお披露目を楽しむために、この場所にやって来ていた。


「…………」


 そんな中、ルルだけが緊張に小さく震え続けていた。俺の後ろで。

 そこに人だかりがあれば、それに引き寄せられる形でより多くの人が集まる。

 気が付けばゲート前は、多くの人で賑わっていた。


「お、切戸さんが来たぞ」


 そこにやって来たのは、この企画の関係者であるギルド職員たち。

 骨格標本の前に立った切戸さんが、マイクを手に取った。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 始まるアナウンスに、集まる視線。


「……世界各地の名所には、その地を象徴する建造物があります。そしてギルドは以前より、このダンジョン特区の象徴となる何かを探しておりました。そんな中で出会った一つの作品。今回はお願いして、ここに展示させていただくことになりました」


 切戸さんがそう言うと、職員たちが紅色の薄い生地の端を手に取った。


「それではご覧ください! ダンジョン特区の新たな象徴を!」

「来るぞ!」


 緊張に、息を飲むルル。

 かけられていた生地を、職員たちが一斉に引く。

 すると中から出てきたのは、勇壮なポーズを決めるレッドドラゴンの骨格標本。


「「「…………」」」


 一瞬、その迫力に飲まれて生まれる静寂。その後。


「「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」」


 一斉に歓声が上がった。


「なんだこれ! カッコいいな!」

「すごいな……この発想はなかった」

「ポーズの取り方が完璧だな! これだよ、この恐ろしさと威容がドラゴンなんだよな!」

「ダンジョン特区は、こうじゃないと!」


 慌てて配信を始める探索者たちが、夢中で骨格標本を撮影し始める。

 翼部分の骨が大きく開かれたその姿は、ルルの【結合】があるからこそできる、見事なポーズ取りだ。

 ダイナミックな動きの一端を捉えたような構図は、本当に動き出しそう。


「あ、ルルさん! ありがとうございます! おかげで大好評ですよ!」


 駆けつけてきた切戸さんはそう言って頭を下げると、また忙しそうに駆けていく。


「フォッフォ。さすがルルじゃの」

「外で見るとまた、段違いですね」


 文句なし、大盛況だ。


「……響介」

「ん?」


 その様子をただ静かに見守っていたルルが、ずっとかぶっていたフードを取った。

 そして、俺の上着の裾を握る。


「ありがとう。出してみて良かった……みんな、響介のおかげ」


 揺れる長い白髪、俺を見上げる美しい緑の目。

 笑うルルの瞳は、宝石のように輝いていた。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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