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32.追加のオーダー

「失礼します」

「っ!」


 ダンジョン管理組合職員の切戸さんがやってきて、ルルが慌てて俺の後ろに隠れる。


「ひゃっ」


 その際に慌てて、転倒。

 めくれ上がったローブの下はまた、下着姿だった。

 ルルは、水色のパンツを大慌てで隠す。


「ドラゴンの骨格の件ですが、許可が取れました。いつでもお披露目を行えますので、完成の際は何卒……!」

「はーい」


 よほどレッドドラゴンの骨格が気に入っているのだろう切戸さんは、許可申請の取得を伝えるためだけに来たようだ。

 組み立ても始まったドラゴンのパーツを興味深そうに眺めると、足取りも軽く帰って行く。


「どうする?」

「……どうしよう」


 それでもルルは、決められずにいる。

 大勢の前に作品が晒されるのは、それだけ批判の声が届く可能性もある。

 やはり、悩んでいるようだ。


「話を受けた方が、いいとは思うんだけど……」


 なるほど。

 これは、悩んではいるけど踏み出せない感じなのかもな。


「……あ、そうだ。実はルルに頼みたいことがあったんだった」

「頼みたいこと……?」

「俺が普段持ち歩いてるのは、この【リザードマンの剣】なんだけど、ベルトに提げるだけっていうのはさすがに雑過ぎるなと思っててさ。鞘が欲しいんだけど、どうもピンとくるものがなくて」


 ダンジョン・エクスプローラーのように、企業製作の武器には専用の鞘も付くが、ダンジョンの魔物がドロップする武器には、基本何もつかない。

 だから鞘が欲しければ、必然的に自分で用意するしかない。


「なければ作ればいい。どういうのがいい?」

「んー、どんなのだろう……」


 今思いついた頼みなだけに、すぐにはアイデアが出てこない。

 俺が悩んでいると、ルルはすぐに言葉を続ける。


「その魔物の素材を使うとか」

「おおっ、それ最高だよ! リザ剣にリザードマン革の鞘。カッコいいなそれ!」


 それなら統一感も出て、良い感じにまとまりそうだ。


「ということはリザ皮だな! ちょっと行ってくる!」


 ワクワクする提案に、俺はさっそくダンジョンへ向かうことにした。

【リザードマンの剣】に比べると、【リザードレザー】はそこそこ出やすいドロップで、防具なんかを作るのに使われる。

 固い表面を持ちながら、革特有の『柔軟さ』もある【リザードレザー】

 これは良いものができそうだ!


「よーし、今日は五階層が俺の狩場だーっ!」


 俺はそのままダンジョンを駆け下り、五階層に飛び出した。



   ◆



 それからルルは、レッドドラゴンの骨格の【結合】と調整をしながら、【リザードレザー】の鞘作りもこなすようになった。

 どちらも閉め切りがあるわけではないけど、ルルは二つの作品を夢中で作り続けている。

 革は加工の手間も多いから、結構時間を取ってしまってるな。


「ルル、開けるぞ」


 ドアを開けると、そこは相変わらずの散らかりまくった部屋。

 それでも、そこら辺に雑に置かれている加工品がもう面白い。

 いつものローブ姿のルルが振り返る。

 どうやら今も、鞘作りの作業の真っ最中だったようだ。


「どうしたの?」

「いや、鞘作りのお礼をしたいと思ってさ」


 そう言うと、ルルは首を振った。


「お礼とかは別にいい。レッドドラゴンの完璧な骨格を手に入れるなんて、響介がいなかったらできてないから」

「そうか、紫水堂パーラーのタルトを持ってきたんだけど――」

「それはいる」


 ルルは両手でガッツリ、俺の上着をつかむ。

 特区にも、スイーツの類を出す店はある。

 ただ今回は、あえて特区外まで出て高いものを用意した。

 その輝くような一品を見て、ルルは思わず口元を拭う。


「いただきます」


 小さな声でそう言ってルルは、さっそくタルトを口に運ぶ。

 もれる小さな吐息は、凄く満足気だ。


「……響介は、どう思う?」


 そんな中、思い出したかのようにつぶやく。


「どう思うって?」

「骨格を作ったのは、もう五度目くらい。これまでは小型で素材も紙粘土とかだったけど、今回は本物」

「そうだな。俺は良いアイデアだと思う。ドラゴンの骨格なんて、早々みられるものじゃないし。ルルが作るのなら、間違いなくカッコいいものになる」


 俺は思っていることを告げるが、ルルはまだ思うことがあるようだ。


「……おかしな趣味だってことは理解してる。昔よく……き、気持ち悪いとか言われたから」

「そうなのか」

「いつも一人で黙々と、リアルな動物の掘り物とかを作ってばっかりいたら、そう思うのも仕方ない」


 まあルルは女子だし、その上で白い髪と緑の目とくれば、異端に思われるのものかもしれない。

 何か、嫌なことを言われたりもしたんだろう。


「でも……」


 もう一切れタルトを口に運び、飲み込む。


「ダンジョンの魔物とか、鉱石とかに惹かれて特区に来た私に、出会ったばかりの響介が「最高じゃん! これは作品を展示するしかない! 最後には博物館みたいにしたいよな!」って言ってくれて、感動した。こんな風に思ってくれる人もいるんだって」

「それは今も変わってないぞ。俺もいつか、ダンジョン武器博物館を作るつもりだからさ。その時はコラボしてくれよ」

「……うん」


 ルルは小さくうなずいた。


「鞘……もう少しでできるから、待ってて」

「ああ。楽しみにしてる」


 タルトを食べ終わるとまた、ルルは作業に戻る。

 集中している姿は、本当に美しい。


「あれでローブの中が即下着じゃなければ、完璧なんだけどなぁ」


 俺は苦笑いしながら、ルルの部屋を後にした。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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