3.佐藤響介は武器オタク
トロルキング戦を終えた俺たちは、【瞬間移動】で『ベース』に帰還。
今日は紫水さんがいてくれて、本当にラッキーだった。
この帰りの早さ、【瞬間移動】って本当に反則だよなぁ。
「ありがとうございました、紫水さん。みんなは?」
「まだ来とらんのぉ」
どうやら今日は、集まりの良い日ではないらしい。
「して、首尾はどうだったんじゃ?」
「最高ですよっ! 魔宝石と、ドロップ武器の両取りですっ!」
「フォッフォ。それは良かったの」
「少し磨いてから、さっそく鑑定さんのところに行こうと思いますっ」
「ほどほどにな。この前は磨きすぎで、野球のボールくらいあった魔宝石が、ビー玉くらいになっとったからの」
「なってません!」
「あははははっ」
「おヌシとて、頬ずりしすぎて剣が短剣になっておったぞ」
「なるわけないでしょ!」
「フォッフォ。それでは、また後での」
「はいっ」
笑う六花たちと分かれて、まずはベース内の個人部屋へと向かう。
特区は広く、ダンジョンの手前から帯状に施設が並んでいる。
最前にはマーケットを始めとした商業地帯、そこから続いてダンジョン管理組合、通称ギルドの建物などがある運営地帯。
そして最後方には、居住地帯。
運営地帯には、ダンジョン産の資源などを一時的に収めておく、倉庫も並んでいる。
その一つを複数人で借りて基地にしたのが、俺たちがいる『コレクトベース』だ。
レンガ造りの内部には共用スペースと、仕切りで作った各自の部屋もある。
「【トロルキングの斧】……良い」
ベッドに腰かけて、あらためてじっくりと眺める。
「武骨な造りだけど、黒色のシンプルな本体に、刃の部分だけ白銀というコントラストの両刃斧。飾りは刻まれた紋様と、柄のトップ部分に付けられたささやかなものだけ。これは良いものだ……っ!」
そしておそらく、武器スキルは【大木断】
あの強烈な振り払いで、間違いないだろう。
俺は欲しい武器メモの【トロルキングの斧】の欄に、チェックを入れた。
今後は【骸骨剣士の銅剣】とか、【オークロードの宝槍】なんかも狙いたいところだなぁ。
「――――武器が欲しい」
思わず、こぼれる願望。
そんな思いを抱いてダンジョン特区に来て、もう十二年。
スキルに目覚めてからの二年で、俺はとにかく狩ったし買った。
今俺の『部屋』には、所持する武器の全てが壁に掛けてある。
店売りと露店売り、直接手にしたドロップ武器は合計二十本ほど。
二年前までショートソード一本しかなかった武器が、今はこんなにある。
ただし。
「その中で、ドロップ武器に当たるものは八本だけ」
『武器スキル』のあるものに至っては、【リザードマンの剣】、【オーガリーダーの剣】、そして今回の【トロルキングの斧】の三本のみだ。
そもそも装備品ドロップの確率は低く、存在自体が少ない。
さらに敵の装備をそのまま使う探索者なんていないため、素材や資源として商店に売られてしまうことがほとんど。
そのうえ最近は、世界の好事家がダンジョン産の物品を集めていたりすることもあって、希少性は増している。
「フフフフフ……」
俺はあらためて、壁にかけてある武器たちを眺める。
ヤバい、ニヤニヤが止まらない。
「このコレクションの最上段に、今だ誰も手にしたことのない『あの剣』を……」
昔、魔物たちがダンジョン外に出てしまう『モンスターフラッド』の時に見た映像。
その時に見惚れた剣は、今も忘れられずにいる。
勝手に『エクスカリバー』と名付けたあの剣。
いつか必ず、手に入れてみせる!
「そして最後には、ダンジョン武器の博物館を作ってやるんだ!」
そんなことを考えていると、スマートフォンに着信。
メールを確認する。
「うわ! 【ダンジョン・エクスプローラー】が二十周年記念モデルを出すのか!」
そこにあったのは、新発売武器の紹介。
こっちはドロップではなく、ダンジョン攻略時代の始まりに合わせて生まれた企業によって、作られた武器だ。
『店売り』武器は、古くからある『ソード』のあの感じではなく、カッターの刃の表面を黒塗りにして、シンプルな柄をつけた感じの外見をしている。
工業的な造りをしてるって言えばいいのだろうか。
「デザイン等を考えて作られたものだからこその、洗練されたカッコ良さがあるんだよなぁ」
俺のコレクションの半数を占めているのが、このタイプの武器だ。
一方魔物から得られるドロップ武器は武骨で、デザインされていないからこその良さがある。
そしてその中には、多くはないけど『武器スキル』が付属するものもある。
どっちも魅力があって……どれも欲しい。
「でも二十周年の限定モデルって、武器でやることじゃないよなぁ」
まあ、絶対買うけど。
白文字で刻まれた『Dungeon Explorer』の並びと、銀色の刃。
柄の部分に付けられた、短冊のような赤いリボン。
「そうそう、このリボンがたまらないんだよ……っ!」
これが工業製品のような精緻さを見せる黒色武器の、【ダンジョン・エクスプローラー】によく映えている。
ちなみに付属のリボンを紛失しただけで、めちゃくちゃテンションが下がる。
それが、コレクションというものだ。
「ちょっと待て! 今回はグレーエディションとか出るのか……っ!」
こっちは本体がクールな灰色で、文字が黒という仕様。
そこに、青いリボンだ。
ダンジョン・エクスプローラーは黒い武器っていう常識を、外すデザイン。
うぐぐ、こういう特別感は本当に『刺さる』んだよなぁ……!
「まあでも黒一択……いや、グレーもいいぞ」
まだ武器の買い替えなんてできなかった頃、発売された様々な『お試し武器』は、次第に廃盤となっていった。
店で買うことは、もうできない。
それはもちろん、今回みたいな限定品も同様だ。
俺は十年間、そんな商品が出る度に苦汁を飲んで見送ってきた。
「どうしようかな……」
いつも通りの黒もいいけど、特別なグレーもいい。
武器は決して、安い物ではないからなぁ……。
「響介さん」
俺が悩んでいると、六花が部屋にやって来た。
「あれ、どうかしたんですか?」
俺の表情を見て、首を傾げる六花。
「実は【ダンジョン・エクスプローラー】の限定モデルが出るんだけど……色違いがあって困ってるんだよ」
そう言うと六花は、くすくすと笑う。
「全然、顔が困ってないですよ?」
「ああ、実は困ってる風なんだ」
「ふふっ、なんですかそれ」
「ちょっと金銭的に苦しいけど、その苦しさも飲み込んで二本買うことを、本当はもう決めてる。俺は今、悩めることを楽しんでるだけなんだ!」
熱く語る俺を見て、笑う六花。
同じ武器を二つ買っても、もちろん意味はない。でも。
ただ、ただ欲しいんだ。
そして今の俺なら、手に入れることができる!
以前は指をくわえて見てるだけだった、様々な武器たちを!
俺は迷うことなく、オーダーを申し込む。
ああ、本当にダンジョンは武器コレクターにとって……いや。
「俺にとって――――天国だ」
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