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29.過去との衝突

 俺はコレクションの武器を一つ選んで、ベースの共用スペースへ。

 そこには、陸さんの姿があった。

 その手にはダーツ。

 テンポよく放つ、三連射。

 見事に、全弾的外れ。


「……お、お待たせ」

「いやいや恥ずかしい。やっぱり僕が人並みにできるのは料理だけだねぇ」


 苦笑いしながら、振り返る陸さん。

 今日はマーケットを見て回ろうという事で、一緒にベースを出る。


「解体用の包丁だけど、以前響介くんが言っていた通り、ダンジョン鉱石製のものにしたいと思ってるんだ」

「それがいいよ。外皮の硬い魔物も多いから、大きな刃物はメンテナンスが少ない方がいい」

「ただ、なかなか価格がね」

「そうそう、武器も高いんだよ。魔物の爪なんかを使って短剣を作るとなると、目が飛び出るような額になるし」


 でも、いつかは欲しい。

 熱や電気なんかを帯びる武器の格好良さは、最高だからなぁ……。

 二人そんなことを語りながら歩いていると、突然陸さんがピタリと足を止めた。


「どうしたの?」


 険しい顔つきの陸さんの視線の先には、数人の男たち。


「彼らには覚えがある。いや、忘れるはずがない。前の店を潰しにかかってきた男たちだ」


 陸さんがダンジョンに来たのは、大物経営者の嫌がらせで店を失ったからだ。

 今は特区で借金を返し、『魔物を使った料理』で再起を図ろうとしている。

 要は、あの男が陸さんの敵に当たるという事か。


「でも、こんなところで何を……?」

「彼らは目ざといからね。ダンジョン料理に目をつけてやってきたのかもしれない」

「でも、ダンジョンの食材は簡単に入手できないし、今回は早々上手くいかないんじゃないかな? やるなら通常の飲食店になると思うけど」


 それなら、言うほどライバルにはならないのかもしれない。

 普通の飲食店は特区内にも色々あるけど、魔物料理はまだ見ないし。


「……僕の店がなくなったのは、正確には競争の結果ではなかったんだ」

「どういうこと?」

「うちの店から、食中毒が出てね」

「はっ!? あれだけ管理をしっかりしてる上に、綺麗好きな陸さんが……?」

「もちろん管理には細心の注意を払っていたよ。あの日だってそうだった。でも……そういう事件があったと報道されたら、店は検査のために閉めなくてはいけない。その間に、あっという間に悪評が広まった。真実は分からない。でも、今となってはそれだけが……事実なんだ」


 信じられないけど、そういうことらしい。

 俺は不可解に思いながら、男たちの方を見据える。すると。


「おやぁ?」


 こちらに気づいた一人の男が、こちらに向かってやって来た。


「五十嵐さんではないですかぁ。こんなところで何をしているんですかぁ?」

「…………」

「……もしかして、飲食続けているんですかぁ?」


 陸さんは答えない。


「そうですか。実は我々も最近人気の魔物料理に、興味がありましてねぇ」


 もしかして、動画で人気になった陸さんに気づいたのか?

 今モンスター料理に傾注してるのは、特区でも陸さんくらいだろう。

 そこに突然やって来るのは、何かしらで知ったからという可能性が高い。


「実は三日後に、さっそくいくつかの料理を出して試食会を開こうと思ってるんですよ。良かったぜひ五十嵐さんもどうぞ」


 どうやら大物経営者たちは、早くも魔物料理で存在感を出していこうとしているようだ。


「まさか、またあなたと競うことになろうとはねぇ。今度は出さないで下さいよ……食中毒」

「「「ハハハハハ!」」」


 笑いながら、男たちは立ち去って行った。


「……彼が、その経営者だよ」


 陸さんは苦笑いを浮かべる。


「試食会か……」

「それならこっちも、限定店舗をぶつけてやろうよ」


 俺がそう言うと、陸さんは大きくうなずいた。


「そうだね。僕もそうしたいと思っていたところだよ」


 その目は、燃えている。


「ミノタウロス料理は話題になったし、早々真似できるものじゃない。あと一つ、新しい料理でも出してみる?」

「そういう事なら、バジリスクとかどうかな?」

「行こう。魔物は俺が何とかするから」

「ありがとう。僕も全力を尽くすよ」


 こうして俺たちは、三日後の勝負に向けて動き出した。



   ◆



 ダンジョン七階層。

 その一部には、高山のように硬めの足場に、草だけの生えるマップがある。

 人気の少ないこの地帯。

 それは、危険な魔物が跋扈してるからだ。

 バジリスク。

 大きなニワトリの身体に蛇の尾をつけたようなその魔物は、恐ろしい力を持つ。


「来たっ!」


 鶏の目が、強く輝く。

 この直後、その視線の先にいると身体が硬直して動かなくなる。

 俺は【邪視】をかわすため、即座に横へステップ。


「そらっ! 【ソードソニック】!」


 反撃の斬撃で、バジリスクを斬り飛ばす。


「【収納】!」


 そこに駆けつけた陸さんが、【収納】スキルで確保して、まずは一匹。


「響介くん、次はこっちだ! 二体いる!」

「了解! 【チェンジ】!」


 戦いの気配に気づいた新たな個体が、こちらに向けて猛然と駆けてくる。

 俺は持ち込んできていた短剣を白の【リザードマンの剣】に変えて、再び斬撃を飛ばす。

 これで一匹片づけたところで、二匹目は一気に速度を上げて急停止。

 俺を【範囲】に収めた瞬間、【邪視】を発動する。


「そうはいくかっ!」


 これも、横への大きな一歩でかわす。


「……くるっ!」


 思わず、声をあげる。

 バジリスクの胸元が膨らむと、直後に来るのは【猛毒噴射】

 この毒が、何より恐ろしい。

 触れれば即座に、強烈な痛みと共に毒が身体に回り出し、わずかな時間で死に至るという必殺の攻撃だ。

 しかし【邪視】からの連携でなければ、慌てず避ければ問題ない!

 口から放たれる毒液が、飛沫となって飛ぶ。

 やや広範への攻撃は恐ろしいが、飛距離はそう長くない。


「【ソードソニック】!」


 俺は冷静に下がって、放つ斬撃で【猛毒噴射】直後の隙を突く。


「これで三匹!」


 本来、割と速い動きで魔法を避けるバジリスクには、近接攻撃が有効になる。

 しかし近寄れば、恐ろしい【邪視】と【猛毒噴射】という危険な連携が待ち構えている。

 それがこの、バジリスクだ。


「二刀流……しかも中距離からの一方的な攻撃が可能。響介くん、すごい武器を手に入れたね」


 驚きの表情を見せながら、【収納】を発動する陸さん。

 この後さらに数匹のバジリスクを捉えた俺たちは、階を下りミノタウロスも新たに確保。

 無事、食材の調達に成功した。


「ありがとう響介くん。ここからは……僕ががんばる番だ」


 そう言って陸さんは、試食会の日に出す料理の準備に入った。

お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
おはようございます。 こういう『他人を蹴落とすことしかしない経営者』って大嫌いですわ…!! きっちり特大ざまぁされることを期待しています!
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