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28.ミノタウロスに捨てるところなし

「ソニックストーム!」


 放つのは、二刀流による斬撃乱舞。

 しかし敵はその高い耐久性で、身体中を斬られながら命がけの突進。

 満身創痍ながらも、俺の目前で武器を大きく振り上げた。


「よくここまでたどり着いた。だが……【チェンジ】」


 ここで取り出すのは、【トロルキングの斧】


「これで、終わりだ」


 豪快な振り回しから放つ【大木断】が、魔物を斬り飛ばす。

 再び斧を【チェンジ】で【リザードマンの剣】に戻し、華麗に納刀。


「決まった」


 クールに息をついたところで――。


「お見事」

「ぎゃああああーっ!?」


 声をかけてきたのは、白のレザージャケットに黒のデニムを履いたヒゲの男。

 また部屋で一人武器を振り回してるところを見られて、思わず悲鳴をあげてしまった。


「陸さん、ノックくらいしてくれよ!」

「したよ、三十回ほどね」


 そう言って、「あはは」と笑う。


「響介くん、何か食べるかい?」

「……ミノタウロスサンドはある?」

「承りました」


 こうして俺は、陸さんの後に続いて共用スペースへ。


「よいしょっと」


 アタッシュケースから、取り出す包丁。

 綺麗好きな陸さんはいつも掃除をしているから、今日もベースのキッチンはピカピカだ。


「ミノタウロスは大きいし、捨てる部位が少ないし、最高の食材だね」


 魔物に対して『部位』っていうのは陸さんくらいだろう。

 軽く調理を済ませると、テーブルにミノサンドを持ってきてくれた。


「いただきます」


 今回はカツサンド形式ではなく、トマトやレタスと挟むハンバーガー系サンド。

 さっそく嚙り付くと、最高に気持ち良い歯ごたえの後に、濃厚な肉の味が広がる。

 トマトのみずみずしい酸味と、レタスのシャキシャキ感が最高だ。


「今も鮮度が落ちてない……【収納】は本当にすごいなぁ」

「材料や料理の賞味期限がなくなるような状態だからね。料理人としては本当に助かるよ」

「これ一度、売りに出してみない? ダンジョン前とかで販売すれば人気になると思うんだけど」

「本当かい? ダンジョン持込用のメニューは、今まで考えたことがなかったなぁ」

「ミノタウロスのジャーキーも、探索者には最高だよ。これならくわえたままでも戦えるから」

「なるほど、ジャーキーにはそんな使い方もあるんだね」

「長い探索には水と塩分が必要。冒険中はもちろん、ダンジョン帰りに酒場でビールを飲もうなんて探索者にも、人気になると思う」


 俺がそう言うと、陸さんは「よし」とうなずいた。


「借金返済の足しになるのなら、何でもやってみるべきだね」


 前の店を潰した際に、残った借金。

 陸さんの夢である新たな店を作るには、まずその返済が必要になる。


「そいういうことなら、俺も手伝うよ!」


 こうして俺たちは、『ミノタウロスサンド』と『ミノタウロスジャーキー』を販売してみることにした。



   ◆



「「「うまい……!」」」


 ダンジョン前に作った簡易販売所。

 ミノタウロスサンドを食べた探索者パーティが、そろって驚きの表情を浮かべた。


「探索者には、気軽に食べられてこの美味さは助かるぞ!」

「ジャーキーもいい! 程よい歯ごたえに濃厚な味付け。これは危険を減らして、ダンジョン滞在時間を伸ばしてくれそうだ!」

「ミノタウロスサンド三つ、ジャーキーを五つくれ!」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

「俺にも!」

「俺たちにもくれ!」


 最初のパーティが食いついてからは、即座に始まる盛況。

 持ち込んだミノタウロス料理が、飛ぶように売れていく。ただ。


「……いくらなんでも、露骨過ぎない?」

「そりゃ六花ちゃんみたいな可愛い女の子がいたら、僕たちから買う必要はないからね」


 売り子の手伝いに来た六花の前に、できる行列。

 探索者たちは、こぞって六花からお買い上げ。

 俺たちの方に来るのは、急ぎの探索者たちだけだ。


「おーい!」

「あれ、君たちは確か……」


 すると俺たちのところに、見覚えのある探索者がやって来た。


「ああ! 前に限定店舗を出した時に来た、配信探索者か!」

「新しい商品が出たって聞いて飛んできたよ! ミノタウロスサンドとジャーキーを一つずつ!」


 すでに配信を始めているのだろう青年は、受け取ったセットを手にレポートを開始。


「うわ! ステーキも良かったけど、これも旨いな……!」


 目を大きく見開いて、歓喜のコメントを発する。


「サンドの方は、肉々しさがしっかりあるうえでトマトとレタスが新たな食感を乗せてくれてるし、酸味が食欲をそそって止まらなくなるね! ジャーキー……これは探索後に一杯やりながらなんていうのにも最高かもしれない。この濃い味付けは、ビールが進むぞ!」


 配信探索者は、カメラ目線でバッチリとレポートを決めた。


「前のステーキから、もうすっかりファンだよ! 前回の配信で登録者も増えてさぁ! 視聴者もすっかりミノタウロス料理に夢中だよ!」

「新作が出た時には、またよろしくね」

「もちろん! そうそう、一撃必殺の探索者も話題だよ! 最高のミノタウロス料理に加えて、トロルキング一撃打倒の探索者。配信界隈が盛り上がるね!」

「俺も……?」

「いやぁ、響介くんはすごいねえ」

「全然そんな感じがしないんだけど」

「これはいつか、ダンジョン素材料理が人気になって、このミノタウロスサンドを食べるだけために『外』から客が集まる日も、来るかもしれないぜ!」


 配信探索者はそう言って、親指を立ててみせる。


「ありがとうございました! ミノタウロスサンドとジャーキーは、売り切れとなりました!」


 六花が頭を下げる。

 結局そのまま、ミノタウロスセットは大人気のまま販売を終了した。


「こうやってたくさんの人によろこんでもらって、借金も返していけるといいなぁ」


 ダンジョンに持ち込む予定が、その場でうっかり食べ尽くしてしまう探索者たちに笑う陸さん。

 やっぱり陸さんは自分で料理を作って、それを楽しそうに食べる人たちを見るのが好きなんだろう。

 今日は一日、ずっと楽しそうだった。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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