24.鳴海六花は真面目な子
「二刀流に、魔宝石の乱舞……なんだこの戦い方」
「……強すぎだろ」
「こんな特殊な戦法を使う探索者、初めて見た」
狙い通り、トレインを完全解消した俺たち。
逃げてきたパーティの面々は、唖然としたまま六花に問いかける。
「もしかして、攻略組の方ですか?」
「違いますよ」
「それなら、どうしてこんな階層に……?」
「魔宝石探しに来たんです」
「コレクションのためって感じかな」
俺たちが答えると、逃走パーティの面々はフラフラと立ち上がる。
「あ、俺見たことあるかも……もしかして前に、トロルキングを倒した二人じゃないか?」
「まさかあの、振り降ろし一発で両断したって言う……!?」
ざわつき出す、逃走パーティ。
なるほど、あの時の戦いは配信されてたのか。
「と、とにかく、ありがとうございました」
「ケガもあって、正直もうダメかと思ってたんです……」
「お二人のおかげで助かりました! まさかトレインの解消までしてしまうなんてっ!」
深々と頭を下げるパーティに、六花は笑いかける。
「無事で良かったです。出口までお送りしましょうか?」
「いえ、帰るだけなら大丈夫です。本当にありがとうございましたっ!」
「「「ありがとうございました!」」」
深々と礼をして、帰って行く逃走パーティ。
「良かったですね。みんな無事で」
六花は笑顔で、その後姿を見送る。
そして視界から、完全に消えたところで――――。
「ああああーっ!」
頭を抱えて、その場に座り込んだ。
「トレインの解除努力は可能ならって話で、義務ではないんだよな。難しいし」
「それは言わないでくださいーっ」
六花は抱えた頭をブンブンしながら、渾身の悲鳴をあげる。
せっかく手に入れた、ライトブルーの魔宝石。
危機から助けただけで十分なのに、あとに来る探索者のための戦いを継続。
結果トレイン解消のために、手に入れたばかりの魔宝石まで使用してしまった。
「相変わらず、六花は真面目だなぁ」
そう言うと肩を落として、しかられた犬のようにしょんぼり。
「それくらいしか、取り柄がないので……」
つぶやくように、そう言った。
「そんなことないだろ」
俺は笑いながらそう言うけど、六花は首を振る。
「うちには、とても優秀なお姉ちゃんがいるんです。本当に何をやっても一番を取れちゃうすごい人で、私がどんなに頑張っても、自由なお姉ちゃんが先に大きな結果を出していたので、もう嫌というほど分かっているんです。私には真面目なことくらいしか、褒めてもらえる部分がないって」
……なるほど。
六花のひたむきさや真面目さは、そういう生活から生まれたものなのか。
才能あふれる姉は、それゆえに自由気まま。
そんな姉を前に、六花は真面目な努力家になっていったんだろう。
「でも俺は、六花のそういうところが好きだよ」
「……っ」
「今日のところは、俺たちも帰ろうか」
手持ちの魔宝石も使い切ってしまっただろうし、欲しかった物が手をすり抜けて行った喪失感は、なかなか重たい。
手を伸ばし、六花を引き上げる。
「……そ、そうですね。今日のところは帰りましょう」
立ち上がった六花は、ちょっと恥ずかしそうにしながら、そう答えた。
◆
翌日、早々にマーケットの見回りを終えた俺は、六花の部屋の前に立っていた。
「六花、いる?」
「はい、何ですか?」
「良かったら今日も、ダンジョンに行かないか? 【リザードマンの剣】の乱舞を、もっと実戦練習したくてさ」
「響介さん……ありがとうございます。行きましょうっ」
笑顔を見せた六花はすぐに準備を終えて、ベースの外へ。
俺たちは並んで、商業区画を抜けていく。
今日も天気が良く、マーケットは賑やかだ。
「今日は、ダイヤカラーの魔宝石を探し行くっていうのはどう?」
悩んでいた、二色の選択。
『縁』があった方を採用するという形式なら、今日は透明な方を探しに行くというのもありだろう。
「はい、順番に行くのは良さそうですね。ということは、六階層です」
そのままダンジョンに向かい、その出入口の前まで来たところで――。
「あれ?」
逃走パーティの面々が、そこに待ち受けていた。
「昨日は、ありがとうございました」
「ケガは軽くて、数日休めばまた探索ができそうです」
そう言って、律儀に並んで頭を下げる。
「いえいえ、無事でよかったです」
六花は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「そこで今日は、お礼に来たんです」
「お礼?」
思わぬ申し出に、驚きの表情を見せる六花。
「あ、でもそんなつもりじゃなくて……」
ここでも真面目な六花は、「大丈夫ですよ」と首を振る。
「いえ、ぜひ受け取ってください」
「「「おねがいします!」」」
やや強引な形で、六花の手に乗せられたお礼。それは――。
「これ……ダイヤカラーの!?」
「はい。あの階に来たのは魔宝石を探すためと言っていたので。ちょうど昨日の収集品の中にこれがあって。先日消費させてしまったライトブルーではないのですが……」
透明な輝きを放つ魔宝石は美しく、思わず目を奪われる。
「絶体絶命の危機、助けていただき、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
そう言って、逃走パーティの面々は去っていった。
「……縁っていう意味では、これ以上ない縁なんじゃないか?」
鞘を作るための探索。
材料の入手が、記憶に残るものになったっていうのは良いと思う。
「あの後トレインに踏み込んでしまうことになってしまうはずだったパーティも、きっと救えてる」
「そう、なのでしょうか」
「気高い透明な輝きは、六花によく似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
「何より。真面目な六花だからこそ、こうしてお礼を持って来てもらえるような形になったんだと思う」
「えへへ」
恥ずかしそうに、うれしそうに笑う。
褒められるのは姉の仕事だったせいなのか、六花は本当に褒められ弱い。
「これで魔宝石が手に入ったけど、ダンジョンはどうする?」
「そうですね、今日はマーケットを見に行きませんか?」
「そうするか」
「はいっ、行きましょう」
「っ!?」
めずらしいことに、六花は俺の腕を取った。
そのまま勢いよく歩き出すと、こちらをうかがうように、そっと振り返る。
「……真面目しか取り柄のない私が、初めて夢中になったのが魔宝石だったんです。でも、思い切って来たダンジョンでは大きな危機を迎えることになって……あの時はご迷惑をかけてしまいました。でも、やっぱりダンジョンに来てよかったです。響介さんと出会えましたから。これからも、よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ」
「それと」
「それと?」
六花はわずかに赤らめた頬で、俺の方を見上げてくる。
「……さっきの、もう一度だけ言ってもらってもいいいですか?」
どうやら、「もっとくれ」の視線だったみたいだ。
だから俺は、笑いながら応える。
「いいぞ、何度だって言ってやる」
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。
【ブックマーク】・【★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!