23.トレイン
「「「わああああああああ――――っ!!」」」
目的の魔宝石を発見して喜んだその瞬間、聞こえてきた悲鳴。
振り返ると、こちらに向かって必死の様相で駆けてくる一組のパーティがあった。
その背後には、十体に及ぶ魔物たち。
「トレインか……っ!」
それは魔物から逃走する際に、また別の魔物に見つかってしまい、同時に追われてしまうという最悪の状況。
それが続き、電車のように魔物たちを『連結』させている姿から、付けられた名称だ。
トレインは、いくつものパーティを壊滅させてきた最悪の危機。
「すまない……っ!」
逃げてきたパーティは、俺たちを見て愕然とした後、申し訳なさそうに言った。
「階層の端に向かって逃げればと思ったんだ……!」
人気のない方に向かって進み、どうにか逃げおおせればという考えだったんだろう。
とはいえすでにパーティメンバーはケガを負い、それも難しそうだ。
大きく、死に傾いた天秤。
「――――大丈夫です、乗り越えましょう」
そんな中、逃走パーティを勇気づけるようにそう言って、踏み出したのは六花。
にわかに、変わり出す雰囲気。
「【フレアストライク】!」
六花の放った魔法が炸裂し、最前にいた魔物が倒れ込む。
これによってわずかに、敵勢の足が鈍った。
この状況からだったら、立て直すこともできそうだ。
そう思った、その瞬間。
「「「ッ!?」」」
駆け込んできたパーティが、突然絶望の表情を浮かべた。
俺が振り返ると、そこには岩のような外皮に覆われた大型のトカゲ、ストーンリザードの姿。
体高2メートルに及ぶその魔物は、高すぎる防御力が恐れられるボス級の個体だ。
魔物に前後を挟まれる。
最悪だった状況は、これ以上ないほどの窮地と化した。
「六花、こっちは俺に任せてくれ」
「はいっ」
しかし、慌てることはない。
「大型かつ『硬い』魔物は、まさに俺が求めているものだ!」
ストーンリザードの注意を引くよう前に出て、俺は右手で【リザードマンの剣】を抜く。
それから続けて、白の【リザードマンの剣】を左手で握る。
「に、二刀流!?」
驚きに、思わず驚きの声がもれる逃走パーティ。
それも当然。
二刀流が歴史上ほとんどいなかったのは、やはり戦えないからだ。
剣筋が安定しないし、攻撃時にかけられる腕力が弱くなる。
いざという時に攻撃を剣で受けようにも、空いた方の手を支えにできない。
それが、二刀流使いがなかなか現れない理由だ。でも。
「【ソードソニック】なら、剣自体を敵に当てる必要がない!」
右の剣の払いで生まれた一文字型の斬撃が飛び、続けて左の剣を払うことで生まれた斬撃が、わずかに遅れて追いかける。
二つの斬撃を喰らったストーンリザードは深い傷を負い、前進が止まった。
これでも異常に硬い外皮のため、本体自体にはダメージが入っていないのが、この魔物の『いいところ』だ。
「まだまだまだまだーっ!」
踏み出し、まずは二本の剣を水平に重ねての二本同時斬撃。
そこから両手を開き、一回転して二発の斬撃を順に飛ばす。
そしてもう一度両手を重ねて、二本同時の水平剣撃へとつなぐ。
両手が身体の左側に集まった状態になったところで、左の剣だけ持ち上げて身体の右側への振り降ろし。
自分を抱きしめるような体勢になったところで、ハサミのように両手をクロスし開く形の同時剣撃。
そこからまた閉じる形で、水平斬撃を飛ばす。
そして左手を右側に寄せ、一本背負いのような体勢から二つの剣を同時に振り下ろす。
すぐさま左剣を振り上げ、この隙に引いておいた右の剣を振り下ろす。
これで十五発の斬撃を一連で飛ばす、【ソードソニック】の乱舞になる!
名付けて『ソニックストーム』だ!
「どうだ!」
顔を上げれば、そこには斬り刻まれ崩れ落ちる、ストーンリザードの姿。
「き、気持ちいい……っ」
一発成功に、思わずこぼれる本音。
ダンスのようなリズムでの打倒は、なんだかハイになってくるっ!
「ス、ストーンリザードが……数秒で!?」
「何だこの、高速の斬撃乱舞はッ!?」
逃げてきたパーティからあがる、驚きの声は当然だ。
この魔物は攻撃の手段こそ少ないが、とにかく硬いため逃走が推奨されている程にやっかいな魔物。
それを近づかせることもなく打倒できるのは、あまりに画期的だ。
一瞬で開いた道。
だが、最悪は終わらない。
どうやらこの戦いの気配に気づいた新たな魔物が、ストーンリザードの背後からやってきているようだ。
「それならもっと、実戦練習をさせてもらおうか……!」
俺は二本の【リザードマンの剣】を、あらためて握り直した。
「【フレアストライク】【ウィンドストライク】!」
一方六花は速い攻撃で、トレインを構成していた魔物たちを次々に打倒していく。
「【アイスエッジ】!」
そうなれば状況は安定し、逃げてきたパーティも一緒に攻撃に入れる。
まずは魔法で攻撃。
生き残った個体は、逃げてきたパーティのまだ戦える面子が刺していく。
「この子、相当強いぞ……!」
六花は外皮の薄い場所や頭部を狙い、確実に魔法を命中させる。
そのため仮に敵が生き残っても、大きな隙を晒す形になる。
この階層でこれだけの戦いができる探索者を見れば、驚くのもムリはない。しかし。
「こいつは……っ!!」
あがった驚きの声。
続く一体は、魔法がかなり効きにくいようだ。
「そういうことでしたらっ!」
それでも流れは譲らない。
咆哮をあげながら迫る、高さ二メートルほどのトカゲ竜に、六花は魔宝石を投じる。
放物線を描く輝きが、その足もとに転がり込んだところで――。
「解放っ!」
魔宝石に込めた魔法を解き放てば、まばゆい炎の輝きが炸裂する。
トカゲ竜は、そのまま倒れ込んだ。
「マジか……ッ!?」
いかに外皮が魔法に強くとも、移動中の足元を狙えば体勢は崩れる。
見たこともない攻撃方法に、驚きを隠せない逃走パーティ。
「もう一つ、解放っ!」
「「「「っ!?」」」」
新たに投じた魔宝石も、続けざまに解法。
足元の魔宝石から生み出された炎弾の炸裂が、魔物を大きく転倒させた。
「い、いまだ!」
それを見て、すぐにとどめを刺しに動く逃走パーティ。
「六花、こっちは片付いたぞ!」
「このまま、トレインの完全解除を狙いましょう!」
この状況までくれば、逃げることも可能だろう。
だがトレイン状態が『残る』と、そこに通りがかった探索者たちが、『巣窟』状態のフロアに踏み込んでしまうこともある。
そのためトレインの解除は、『可能なら行う』というのが探索者の暗黙のルールだ。
こうして目標を、せん滅に切り替えたその瞬間。
「「っ!?」」
「「「うわあああああ――――っ!?」」」
輝く魔法の光がほどけ、巻き起こる強烈な爆風。
六花は体勢を崩し、逃走パーティの面々が地面を転がった。
魔物たちの陰に隠れてやってきていたのは、黒のローブをまとったアンデット魔術師。
「ワイトが紛れていたのか……! だが!」
俺はすぐさま二刀流【ソードソニック】で、ワイトを消し飛ばす。
そんな中を駆けてくるのは、また魔法の効きにくいトカゲ竜。
その狙いは、倒れ込んだ逃走パーティの一員だ。
最悪の状況に唖然とし、硬直する。
「【封魔】【フレアストライク】!」
すると六花は迷わず、手に入れたばかりのライトブルーの魔宝石に、魔法を封じ込めた。そして。
「それっ!」
そのまま投擲。
そして魔宝石がトカゲ竜の口内に入り、消えたところで――。
「解放っ!」
「「「ッ!?」」」
トカゲ竜の口から見えたのは、煌々と輝く赤炎。
直後、ドラゴンのブレスを思わせる豪炎を吐き出しながら、トカゲ竜は倒れ伏した。
「……よかった」
安堵の息をつく六花。
逃走パーティの面々は、座り込んだまま呆然としている。そして。
「に、二刀流の飛ぶ斬撃に、魔宝石を喰わせて発火? こんな戦い見たことない……」
「もしかして……攻略組の方ですか?」
俺たちを見上げながら、困惑の混じった表情でそう言った。
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