22.鳴海六花は選べない
「六花、いる?」
「はい、どうぞ」
「おお……っ」
六花の部屋に入り、思わず息を飲む。
並んだ、たくさんの魔宝石。
球形のものや、宝石らしいカットの入ったものもあれば、加工されてオブジェになっているものもある。
六花が家具を濃い色の木材で固めているのは、この魔宝石たちがより美しく見えるように。
その色数の多さもさることながら、『魔法秘め』のものは薄く輝くため、より美しい。
古い貴族が使っていそうな木製デスクに突っ伏していた六花は、魔宝石のキューブを重ねたものに見惚れていた。
「はぁ……どうしてこんなに綺麗なんでしょうか」
傍から見たら、ちょっと怪しい趣味。
まあ、同じことを『刃物』でやってる俺よりは百倍マシだろうけど。
「それにしても……これだけの置物を、よくこんなに整然と並べたなぁ」
もちろん飾られた魔宝石には、ホコリの一つも乗っていない。
こういうところにも、六花の生真面目さがよく出てる。
「私は作家さんの作る作品も好きなので、宝石店までアクセサリー作りに絡み出したら破産もありそうです……」
最近はその美しさに目をつけたコレクターが出てきたことで、宝石店が色々作ろうとしてるらしい。
今や世界が、魔宝石に目をつけてる形だ。
そして六花は、ハンドメイドの作品にまで手を伸ばしてる。
いつかは俺も、ダンジョン素材を使った武器なんかをオーダーで作ってみたいけど……そこはマジで沼なんだよな。
イグニスドラゴンの【灼火骨】を使った剣とか、どれだけの額を積めば作れるのか想像もつかない。
そういう意味では、六花の方が業が深いのかもしれない。
武器でもいいし、武器でなくても集めるんだから。
「今日はもう、マーケットの見回りしてあるよ」
俺たちは互いに、マーケットでめずらしい物や探している品を見つけた際に、報告し合う取り決めを結んでいる。
また特に変化がない時も、見回りが終わっていることを報告しておくことがある。
「ありがとうございます。それなら今日は……以前からやろうと思っていた鞘作りを進めてみたいと思います」
「鞘を作るの?」
「はい。いざという時のために短剣を携帯しているんですけど、その鞘を新調しようと思っていたんです。魔宝石の飾りをつけたものに。ただ……」
「ただ?」
「悩んでいます。今欲しいのは二色。ダイヤみたいに透明なものか、ターコイズのようなライトブルー。どちらかの色を鞘の飾りに使いたいのですが、決められません……っ」
なるほど。
こういう時に『買えるもの』なら『どっちも』が基本になるんだけど、一から作るとなると話は変わってくる。
飾りとして映えるほどの大きさの魔宝石となれば、数も限られ価格も高いからだ。
ハンドメイドを依頼するなら、やっぱり『どちらか』が基本線だな。
「それなら入手可能性のあるマップにとりあえず行ってみて、手に入った方を採用する『ご縁』方式で行ってみたらどう?」
「そうですね! まずは入手できるかどうかがスタート地点ですし、とにかく行ってみようと思います!」
悩んでるといいながらも、笑顔の六花。
欲しい物のために苦しんでいる時って、むしろちょっと楽しいのは何なんだろう。
「それなら俺も行くよ。ちょっと試したいこともあるし」
「うれしいです! 一緒に行きましょうっ!」
そう言って六花は、いそいそと立ち上がる。
「近いのはライトブルーの魔宝石がある方ですね。ダンジョン八階層の隅の方になります」
すぐに探索の準備を終わらせた六花と、俺はそのままベースを出た。
基本的に魔宝石は魔物を狩ってドロップで手に入れるか、ダンジョン内の岩壁に埋まっているのを、掘り出して手にする形だ。
効率でいえば、掘削の方が良い。
「……あれ、剣が二本?」
その道すがら、六花は俺の剣が二本あることに気づいた。
「そうなんだよ! 実は先日のミノタウロスマラソンの帰りにたまたま倒したリザードマンが色違いの剣をドロップしてそれが白黒のコントラスト装備になったもんだから二刀流的な戦い方も練習してたんだ」
「そうなんですか……!」
うっかり出てしまった早口に、当たり前のように反応する六花。
鑑定ちゃんに見てもらった結果、白の【リザードマンの剣】に問題はなし。
それから俺は、ずっと白黒の二刀流を使って上手に斬撃を放つ練習をしていた。
今日は、その試しもさせてもらうつもりだ。
「ちなみに今は、二本の剣を腰から下げるか肩にクロスで下げるか悩み中。ただ剣を二本持つのは意外と邪魔になりそうだから、普段は片方を短剣にして、それを【チェンジ】で交換して二刀流にするパターンもありかなって悩んでる」
「悩んでるのに、楽しそうですね」
「そうなんだよ」
思わず笑い合う。
こういうことに悩めるのは、コレクターの楽しみの一つなのかもしれない。
特別な白い剣を普段から持ち歩くか、いざという時に呼び出す剣が特別な白という形にするのか。
選ぶのが難しい。
「この辺りですね」
たどり着いたのは、八階層の片隅。
「さっそく始めましょう!」
六花が掲げてみせたのは、一本のツルハシ。
「採掘は久しぶりだな」
この場所はすでに、魔宝石採取の場所として知られているのか、数本のツルハシが置きっぱなしになっている。
俺はその一本を借りて、壁際へ。
「よいしょっと!」
ツルハシを岩壁に叩き込むと、層のようになっている岩盤が、ぼろぼろとこぼれ落ちる。
この中に魔宝石が含まれていれば、それを回収するというのが魔宝石採取の基本だ。
「でも面白いよな。こうやって出てくる魔宝石の中に、魔法スキルが含まれる場合があるって」
「そうですね。魔宝石は魔力を吸収しやすい。だから生成時にダンジョンの持つ魔力を含んで生まれることがあるって、言われてますね」
それが【後ろ歩きが速くなる】魔法になったりするというのが、また不思議だ。
「剣と魔法の世界みたいな場所でも、ツルハシで鉱石を掘り出すって、妙に現実味があって面白いよなぁ」
ダンジョンにあるもので武器を作ったり、料理を作ったり、魔物を飼ってみたり。
突然のダンジョン登場も、気が付けばそこを新たな楽しみの場にしている俺たち。
人間はなかなかに、図太くできているようだ。
「よし、それじゃ確認作業に入りますか」
「はいっ」
ここからは、こぼれた岩塊を確認して、中に魔宝石が内包されていないかを探し出す手順になる。
俺たちは二人並んでしゃがみ込み、断面を確認していく。
これはもう完全に運次第。
少し大きめなものは地面にぶつけて割ったりしながら、魔宝石を探していく。
「楽しいですよねぇ。欲しい物を探しながら、何気ない会話をする時間」
「分かる。まあ欲しい物が出てくる可能性がある状況で、好きな物の話をしてるんだから当然なのかもしれないけど」
「そうですねぇ……あっ」
「どうした?」
突然上がった声に、振り返る。
「ありましたっ!」
「おお! 早いな!」
見つけたターコイズ色の魔宝石を、こっちに見せながらうれしそうに笑う六花。
「大きさも十分、色味もきれいで、まさに狙い通りです!」
「到着から1時間での発見は、かなり運がいいんじゃないか?」
「はいっ! 出ない時は何日単位になるので、ラッキーですよ!」
早くも手にした、目当ての魔宝石。
幸運に歓喜した、その瞬間だった。
「「「わああああああああ――――っ!!」」」
そんな空気をぶち壊すような、強烈な悲鳴が聞こえてきたのは。
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