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21.物欲センサーの起こす顛末

 時刻は二十時ちょうど。

【ミノタウロスの石剣】は、まだドロップしていない。

 夜中はまた少し魔物の出現パターンが違ったりするから、これ以上の長居は止めておきたい。

 ダンジョンの歴史上、事件が起きる時は大抵夜だった。

 集中力も落ち始めてくるし、ここらが引き上げ時だ。


「これがラスト!」


【強撃】を叩き込み、ミノタウロスを打倒。


【ミノタウロスの石剣】は……出ない!


「ファイナルラスト!」


【大木断】の強烈な一撃で、ミノタウロスを撃破。

 ドロップは……出ない!


「ファイナルラスト・フィナーレ!」


【リザードマンの剣】で放つ連続斬撃が、ミノタウロスを斬り刻む。

 ……出ない!


「ファイナルラスト・フィナーレ、悠久の彼方へ!」


【大木断】からの【強撃】への連携。

 それでも石剣は……出ない!

 しかし、俺の目は捉えていた。

 新たに見つけた個体が、いつもより少し角が大きいことを。

 この変異型……『出る』やつだ!


「ファイナルラスト・フィナーレ、悠久の彼方へ……リターンズ!」


 俺はミノタウロスを置き去りにするように斬り抜けを放ち、静かに振り返ってドロップを確認する。


「出なぁぁぁぁい!」


 そしてそのまま、両ヒザを突いた。


「な、なんだあれ。こんな無傷での最速打倒の、一体何が不満なんだ……?」

「分からん……」


 聞こえてきた声。

 見れば探索の帰りがけに九階層を通りかかったのか、四人組のパーティが唖然としていた。

 ……いや、そうだよな。

 これは良い、帰還のきっかけだ。

 これ以上マラソンを続けても危険度が上がるだけだろうし、今日は大人しく引き上げよう。

 俺は後ろ髪を引かれる思いで踵を返し、トボトボと八階層を目指す。


「でもこうやって帰ることを決めたところで……? その帰り道の途中で……? 九階層から八階層にあがろうとしたところで……? いや来ないのかよ!」


 切り上げて帰ろうとしたところでまさかの……という王道展開もなし。

 もうミノタウロス自体が出てこなかった。


「これ、気の狂ったバーサーカーが九階層で暴れてるって情報が、ミノタウロスたちの間で拡散されてるな」


 そんなことを考えながら、最短ルートを使って階を上がる。

 六階層までは短い距離でサクサク進み、この後の五階層は少し歩いて四階層へ上がるのが基本ルート。


「でもミノタウロスジャーキーのおかげで、空腹だけは避けられたな」


 これ本当に、販売を始めたら儲かりそうだ。

 帰ったら陸さんに報告しよう。


「……ん?」


 そんなことを考えていたところに現れたのは、四体のリザードマン。

 この階層をメインにしている探索者には、ちょっと厳しい数だ。

 一応、叩いておくか。


「【ソードソニック】!」


 俺は先行して斬撃を放ち、一体を早々に打倒。

 気付いて振り返った三体が剣撃を飛ばしてくる前に踏み込み、二体目を斬り伏せた。

 それから三体目の斬り下ろしをサイドステップでかわして、払いの一撃で片付ける。

 そして四体目の突き出した黒い剣を、クルっと回って回避。

 ゼロ距離【ソードソニック】で決めだ!

 無事にリザードマンパーティを撃破し、息をつく。


「…………あれ?」


 今のはなんだ?

 剣を降ろしたところで、気づいた違和感。

 本来【リザードマンの剣】は、黒い。

 それなのに、四体目のリザードマンの物は白色だったような。

 振り返ると、そこにあったのは一本の剣。

 白い【リザードマンの剣】が、ドロップとして残っている。


「えっ? 何これ?」


 手に取ってみる。

 やっぱり、俺が持ってるものと同じ形状だ。

 でも、色が違う。


「【ソードソニック】!」


 本来なら【鑑定】を頼んでから使うべきなんだけど、思わず放つ斬撃。


「ええっ!? 斬撃も白いの!?」


 何と飛ぶ剣撃も、通常の黒ではなく白色。


「ちょ、ちょっと待てよ……!」


 その瞬間、走る閃き。

 俺は右手に【リザードマンの剣】、左手に白い【リザードマンの剣】という形で、両手を掲げる。そして。


「【ソードソニック】!」


 両手を同時に、クロスさせる形で振り下ろす。

 すると二つの斬撃が十字を生み出す形で飛び、岩壁に深い傷を刻み込んだ。


「こ、これ、同時に剣撃を飛ばすこともできるし、二本を交互に速く振れば、斬撃の乱舞みたいにもできるのでは……!?」


 白黒の二刀流【ソードソニック】……ヤバい、これはワクワクする!

 思わぬ形で手にした、二本目の【リザードマンの剣】で始まる想像。

 通常【ソードソニック】を連発するには、『返しの振り』が必要になる。

 そうなれば当然、『次発までの待ち時間』が存在するわけだ。

 でも二本あれば、片方の待ち時間をもう一本で埋めることができるんじゃないか!?


「なあ、あれさっきのミノ狩りの人だよな? なんだ……あれ」

「二刀流なんて、初めて見た」


 俺の二刀流ソードソニックを見た探索者は、呆然としていた。

 まあ、二刀流使いなんてダンジョンにいないもんな。

 めずらしいのも分かる。


「よし、一応【鑑定】も今夜中にしておきたいし、試しはこの辺にしておこう!」


 俺は二刀流状態のまま、スキップしながらダンジョンを登っていく。

 まさか、ダンジョンエラーのドロップが手に入るなんて……!

 白黒の二刀流とか、カッコ良すぎだろ!

 とりあえず今夜は、【リザードマンの剣】を抱きしめて寝るぞ!


「色違い【リザードマンの剣】……ゲットォォォォォォ――――ッ!!」


 跳ねる足は止まらず、俺は意気揚々と階を昇っていく。

 ……まあ、それはそれとして。


「【ミノタウロスの石剣】は、また後日だ」


 思わぬ最高の副産物を手に入れても、それで【ミノタウロスの石剣】への思いがなくなるわけではない。

 コレクターっていうのは本当に……欲深い生き物だ。



   ◆



「……いない」


 ダンジョン攻略組の顔、女王と呼ばれる獅条アスカは五階層にいた。

 見かけた探索者が驚くのは、女王は普段こんな浅い階層にいないからだ。

 魔力係数の高さを発揮した、速い走行でリザードマンたちを確認しながらの移動。

 やがてこの階層を三周ほどした獅条アスカは、ため息をついた。


「色違い【リザードマンの剣】なんて超絶レアよね。絶対欲しかったのに」


 そう言って、不満そうに息をつく。


「情報は見間違えだった。もしくは打倒されたけどドロップしなかった。そういうことにしておくわ」


 イグニスドラゴンと呼ばれる魔物の骨は、魔力に反応して灼熱を放つ。

 そんな最高級のダンジョン素材を使って作られた大剣は、人間が持つには大きすぎる。

 しかし獅条アスカはそれを悠々とバトンの様に回転させながら、名残惜しそうに五階層を後にした。

 憂さ晴らしとばかりに放った、たった一発の攻撃で岩壁は半壊。

 そこには、まるで爆弾が炸裂した後のような光景が広がっていた。

お読みいただき、ありがとうございました!

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