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20.続・ドロップマラソン

「なるほど。これ、牛カツサンドか!」


 六花と千早が持って来てくれた、陸さん作の昼食。

 さっそく食いつくと、広がる牛肉の味が、カツ特有の油の風味を伴い広がっていく。

 そこに控えめにかけられたソースが、程よい酸味と甘みを乗せてくる。


「美味い……!」


 先日のミノタウロス肉を使ったものなんだろうけど、これをダンジョンの出入り口なんかで売ったら大変なことになりそうだ!


「おいしいですね!」

「本当」


 六花と千早も、これには顔をほころばせる。

 でも……やっぱりこれ、立った状態で食べることを想定しているよな。

 あらためて、上級者でも気を抜けないとされるダンジョン九階層でピクニックをかます、自分たちを顧みて笑う。


「よし、これで午後もがんばれそうだ」


 俺がそう言うと、六花はさらにカバンから何かを取り出した。


「お昼だけではなく、小腹が空いた時にということで、持たせてくれたものがあるんです」


 そう言って差し出されたのは――。


「ビーフジャーキーか……!」


 さっそく一枚取り出して、嚙り付く。

 そうそう! この硬い食感に乗った、濃縮された肉の味がいいんだ!

 そこに独特の甘さとわずかな辛みが混じることで、思わず癖になってしまいそうな風味となる。

 しっかりとした塩味があるせいで、一つ食べてしまうと止められなくなってしまう感じも健在だ。

 これも、最高にうまい!

 考えてみれば、野球選手はガムを噛むことで集中力を高めるなんて話を聞いたことがあるし、これもダンジョン食の一つとして人気になるんじゃないか?

 陸さんの見せる『可能性』に、思わずワクワクしてしまう。

 こうして無事、配信者の企画のような昼食を終えた俺たちは、立ち上がる。


「せっかく来たんだし、少し手伝うわ」

「そうですね」

「助かるよ」


 そう言って二人が、マラソンの手伝いを志願してくれた。

 するとそんな声を聞きつけたかのように、現れるミノタウロス。


「私が先行するわ」


 クールな足取りで、前に出る千早。


「あ、ちょっと待って」


 俺はその胸元に、ミノタウロスサンドからこぼれたパンくずがついてることを指摘。


「…………」


 恥ずかしそうに払って、小さく咳払い。

 千早はクールな足取りで前に出ると、ミノタウロスは当然一直線に突進。

 そのまま豪快に、石剣を振り下ろす。


「【鉄壁】」


 岩をも砕く強力な一撃が、千早に振り下ろされた。

 そして、驚いたように目を見開くミノタウロス。

 石剣はなんと、千早の左腕一本で受け止められていた。

 その隙をつき、右から回り込んだ俺はしっかり『溜めた』【強撃】を叩き込む。

 文句なしの一撃必殺だ!


「本当にすごいわね……その火力」


 反撃の能力が弱い千早が、感嘆の息をつく。

 その気になればミノタウロスの攻撃を何百発もらってもケガ一つしない防御力の方が、俺はヤバいと思うけど。


「もう一体来るわ」


 見えたのは、石剣を引きずりながらやって来る新たな個体。


「では、ここが私が」


 そう言って名乗りを上げたのは六花。

 重たい足音を響かせながら一歩ずつ迫る、威圧的なミノタウロスが射程に入った瞬間。


「それっ!」


 六花が華麗な下手投げで投じたのは、一つの魔宝石。

 ミノタウロスは飛んできた赤い魔宝石を、手の甲で払うが――。


「解放!」


 次の瞬間、六花の言葉一つで盛大な爆発が巻き起こり、腕が消し飛んだ。


「まだまだいきますっ!」


 続けて投じたのは、形の悪い小さな魔宝石たち。

 称するなら、カラフルな『石つぶて』

 そんな感じの攻撃に一瞬足を止めるミノタウロスだが、次の瞬間。


「解放!」


 二度目の開放はたくさんの炎がつながったところに、雷光を含めた壮絶な爆発。

 グラリと、ミノタウロスが体勢を崩した。


「お願いします」

「了解っ!」


 俺は駆け出し、ミノタウロスに普通の振り降ろしを一撃。

 そこから大きく振り上げて、二発の斬撃を決めたところでミノタウロスが倒れ伏した。


「魔宝石つぶて、これもまたすごい攻撃だな……!」


 初めて見る攻撃に俺が驚きの声をあげると、六花は少し照れたようにした後――。


「もっと褒めて」とばかりに、輝く目を向けてきた。



   ◆



「無理はしないようにして」

「失礼します」


 コンビネーション狩りを一時間半ほど続けたところで、千早と六花は帰って行った。

 三人がかりの戦いは、良い気分転換になったな。

 二人を見送って、俺は再びドロップマラソンに戻る。

 そもそもドロップマラソンという行為は、あまり多く見られるものではない。

 一部の稼げる割りに弱い魔物なんかには狙いをつけてる層がいるけど、そこそこ取り合いにもなるんだよな。

 同じ魔物だけを狩るのは、戦い方も同じでいいから効率的ではあるんだけど。


「ここからは一人だし、少し気合を入れておくか」


 時刻は十五時過ぎ。

 カバンから取り出したのは、一本のエナジードリンク。

 ダンジョンにエナドリ持ち込んでる馬鹿は、さすがに俺くらいしかいないだろう。

 それでも、マラソンはやめられない。

 悲しきコレクターのサガよ。


「……おっ?」


 新たに現れたミノタウロスに、思わず目を奪われる。


「このミノ、少し雰囲気が違うぞ! 若干だけど大型だ!」


 見つけた個体は、これまで相手にしてきた個体よりも体高がある。

 肩回りの大きさも、一回り上だ。


「これは落とすぞ! さあこい!」


 足元の砂を蹴り上げながら迫り来る、ミノタウロス。

 俺はエナドリを左手に持ったまま、右手で持った【トロルキングの斧】を振り払う。

 ミノタウロスは、大味な攻撃が多い。

 振り降ろしにしろ払いにしろ、まず強く足を踏み込むから、そこを狙うだけでいい!


「【大木断】!」


 巨体が起こす、ド派手な転倒。

 俺は脚部を斬り飛ばした【トロルキングの斧】を、倒れたミノタウロスにそのまま叩き込んだ。


「さあドロップ来い! 来いっ!」


 ミノタウロスの手を離れ、地面に刺さった石剣に祈りを捧げる。


「来い、来い、来い……来ないっ!」


 石剣はすぐさま風化して、ダンジョンに消えて行った。

 ドロップの『確率』が、どの程度なのかは分からない。

 でも、【ミノタウロスの石剣】をマーケットで見たことがないことを考えると、やはり簡単ではないんだろう。

 そこそこ深い階層だし、打倒される数自体も少ないはずだ。

 静かになる、九階層。

 俺はミノタウロスを探して、歩き出す。


「……見ぃつけた」


 エナドリを飲み干し、見つけたミノタウロスに向けて歩を進める。

 相手がこっちに気づいた瞬間、俺の歩みは疾走、そして激走へと変わった。


「その剣を……寄こせぇぇぇぇ――――っ!!」


 もはや追い剝ぎのようなセリフで、俺は剣を振り下ろす。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

【ブックマーク】・【★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!

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