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2.お披露目の超新星

「オイ! このダンジョン揺れって……!」

「ヤツだ! ヤツが出たッ!」


 九階層の岩場に、畏怖の声が響いた。

 その階層を代表する最強の魔物は『階層主』と呼ばれ、恐れられている。

 中でも九階層の『トロルキング』は、大きな体躯を持ったパワー型の魔物。

 特徴的なのは、紋様入りの丸盾と武骨な斧。

 この階で出てくるのは反則と言われているような、強敵だ。

 そして巨体でも動きは速いため、逃げるのはかなり難しい。


「や、やるしか……ねえよなオイ!」

「あ、ああっ!」


 その登場に運悪く鉢合わせてしまったのは、動画配信をしながらダンジョンを回っている、二人組の探索者。

 せめて敵を負傷させて逃げられないかと、意を決して立ち向かう。


「いくぞ! 【豪炎弾】!」


 先手の魔法が、見事に炸裂。


「いける! 【パワースラッシュ】!」


 その相棒はあがる炎と黒煙を気にせず特攻し、すかさず両手剣による全力の一撃を叩き込む。


「やった!」


 見事な連携を叩き込み、歓喜する魔法スキルの男。

 しかし、煙が消えると――。


「「ッ!?」」


 振り下ろした両手剣は、トロルキングの手にしっかりとつかまれていた。


「こんなに硬いなんて……こんなの、倒せるわけねえよッ!」


 つかみ取った両手剣を、トロルキングが放り出す。

 そして次の瞬間、もう片方の手に握られた斧が閃いた。


「来るぞ! 【大木断】だああああ――っ!!」


 攻守が入れ変わる。

 斧で放つ全力の振り払いは、大樹すら斬り飛ばす驚異の一撃だ。


「「うっわあああああ――――っ!!」」


 響き渡る金属音。

 とっさに出した金属盾で直撃こそ免れたが、地面をバウンドする形で弾き飛ばされる。

 もつれる形で転がった二人は、そのまま岩壁に強く叩きつけられた。

 斧を受けた盾は無残に折れ曲がり、意識も朦朧。


「どうすんだよこれ……オイ」


 通常、最低でも五人以上でパーティを組んで戦うべき相手。

 万に一つの勝ち目もない。

 レベルの違いを、身体が自然と感じ取る。


『大丈夫か! しっかりしろ!』


 そして彼らの配信を見ていた視聴者たちは、大慌ての状態だった。


『早く逃げろ! 早くっ!』

『ダメだ……これはもう助からない……』


 状況は絶望的。

 彼らにできることはもう、悲惨な終わりから目を背けることだけだ。



   ◆



「いた! トロルキングだ!」


 目当ての魔物を見つけた俺は、加速する。

 すると敵がこちらに気づき、構えを取った。

 そして武器の斧を、力のままに振り下ろしてくる。

 俺はこれを、右へのフットワーク一つで回避した。


「来る! 【大木断】!」


 斧から生まれる輝きの直後、その剛腕から繰り出されるのは、強烈な払いの一撃。

 しかし俺は先んじて真上に跳躍することで、これも回避。

 そこに、生まれる隙。


「いきますっ!」


 後方から聞こえた声は、同行者である鳴海六花のもの。

 肩までの黒髪に紅色のショートマントを揺らす彼女は、ファンタジー世界の冒険者みたいな格好をしている。


「解放! 『トライフレア』!」


 放たれた三つの炎砲弾は、互いを追い越し合いながら飛び結合、トロルキングに直撃した。


「オイ……なんだよあの火力」


 通常であれば、一発ずつしか放てない魔法を三発同時。

 それは六花が右手のグローブに仕込んだ、『魔宝石』によるものだ。

 内包する魔法を自由に発動させられる魔宝石を二つ同時に使い、さらに自分でも放てば火力は三倍。

 トロルキングの左肩が消し飛び、その身体が燃え上がる。

 見事一発で、大きく体勢を崩すことに成功した。


「つ、強すぎんだろオイ…ッ!?」

「響介さんっ! お願いします!」

「了解!」


 相変わらず丁寧な六花の声に応える形で、俺は強く踏み込む。


「とどめは――――こいつだ」


 二年前に目覚めた【ソードアビリティ】

 その正体は、魔物の持つ武器などが宿すスキルを、自在に使えるというもの。

 他に所持者を見ない、唯一のスキルだ。

 そして手にしているのは、反則スキル持ちの武器【オーガリーダーの剣】

 付属するスキルは【強撃】

 そもそも複数の探索者を一体で迎え撃つボス級が持つ技は、元々の火力がかなり高い。

 ただ振りと反動が少し大きい分、体勢を崩した相手への使用が基本となるこの技。

『ため時間』次第で威力が変わるんだけど、この『ため時間』が……狂ってる。

 オーガリーダー本人は単体行動ゆえに、探索者の攻撃を常に受けてしまう。

 よって、この『ため』をフルで使うことができない。

 でも、もしもこの『ため』を最大まで続けて、仲間に崩しを入れてもらった状態で放てば――。


「いくぞォォォォ!! 【強撃】だああああああ――っ!!」


 階層主級の魔物すら、一撃で斬り飛ばす必殺技となる!


「…………は?」

「オ、オイ……っ! トロルキングが一撃で……っ!?」

「う、うう嘘だろ!? あの硬い巨体を盾ごと一発で両断なんて、聞いたことねえよ!」

「ダンジョン始まって以来の、奇跡じゃないか? オイ!?」


 倒れ伏すトロルキング。

 斃した魔物はそのままにしておくと、少しずつダンジョンに飲まれて消えていく。

 その中でも彼らが持つ『アイテムや武器』は、持ち主が斃れた瞬間に崩れ出してしまう。


「どうだ!? どうなんだ!?」

「どうでしょうか……!」


 だが稀に、崩壊せずそのまま残ることがある。

 わずかに崩れただけなら、素材に。

 まったく崩れずに完成品が残った場合は、ドロップに。


「頼む! 残ってくれ!」


 俺が望むのは、もちろんドロップだ。

 両手を組んで、捧げる祈り。

 期待の視線で、成り行きを見守る。

 すると【トロルキングの斧】は、崩れることなくその場に残った。


「残った……残ったぁぁぁぁぁぁ――っ!!」

「魔宝石も残りましたよ! この戦いで二つ使いましたけど、この大きさなら一個で十分お釣りが来ますよっ!」


 俺は六花と歓喜のハイタッチをすると、大ぶりな斧を掲げる。


「【トロルキングの斧】……ゲットォォォォォォォォ――――ッ!!」


 叫んで、そのまま現場を後にする。


「……オ、オイ! 【トロルキングの魔石】を忘れてるぞ!?」

「「魔石?」」


 聞こえてきた声に、二人して振り返る。

 そこには座り込んだままでいる、二人組の探索者。

 チラチラ聞こえてた音は、この二人の声だったのか。

 見れば言われた通り、【トロルキングの魔石】が落ちていた。


「……換金かぁ。早く斧を使ってみたいのに」

「ダメですよ。帰って換金までが探索です。『ベース』の維持費もありますし。換金は……しないと」


 たしなめるように言う真面目な六花も、早く帰って魔宝石磨きをしたいんだろう。

 魔石の換金をちょっと面倒に思っている感じが、隠し切れてない。


「……そんなら、オレがやろうか?」

「「おねがいしますっ!」」


 二人組の探索者のそんな提案に、即座に声が重なった。

 するとその直後。

 俺たちの前に、突然現れた一人の老紳士。


「うおおっ!? 今度は何だよオイっ!?」

「終わったようじゃな」

「紫水さん! 早く、早く帰ろう!」

「フォッフォ。そう慌てるでない――――【瞬間移動】」



   ◆



「「き、消えた……」」


 絶体絶命の危機を、ありえない圧倒的火力でねじ伏せた二人。

 呆然とする、配信探索者。


『これ、最速打倒記録だろ……ッ!』


 その視聴者たちは、大混乱の渦中にあった。

 魔法系スキルを得意とする、視聴者たちは言う。


『魔宝石を使って火力を三倍にするなんて、初めて見たぞ!』

『そもそも同じ攻撃魔法の魔宝石を二つ同時に使うなんて、もったいなさすぎる!』

『二つそろえるとなると手間がかかり過ぎるもんな! それを崩しのためだけに使うなんてありえないよ!』


 一方、近距離攻撃を得意とする視聴者たちは言う。


『何言ってんだ! 盾ごとトロルキングを斬り捨てた方だろ、問題は!』

『攻略組でも、ボスを一刀両断なんて見たことないぞ!』

『火力が……明らかに狂ってる』


 さらに、二人の言動に目をつけた者たちは言う。


『【トロルキングの魔石】を放置して、帰ろうとしてたぞ!?』

『なんか斧の方に大喜びしてたよな。マーケット価格は魔石の方が上なのに』

『あんなにあっさり換金を任せて、普通持ち逃げされることを心配するだろ』


 各人見どころが違うため、混乱は広がる一方だ。

 まるで収拾がつかない、視聴者たちの声。


『ていうか、あれは誰だ?』

『そうだよ! そもそも誰なんだ!?』

『……俺、見たことあるかも。確か何人か仲間がいるはず』


 こうしてついに、響介はその存在を知られることになった。

 美しい少女と共に現れて、ケタ違いの火力を披露し、高価な魔石を忘れて帰ろうとした謎の男。

 最速のボス狩りによる栄誉にも、まるで興味なし。

【トロルキングの斧】に目を輝かせて喜び、視聴者たちを大混乱に陥れた脅威の人物として。


 ここから佐藤響介の、奇跡の日々が始まった。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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