15.理論上最強コンビネーション
『……う、嘘だろ? 三体もいて、こんな一瞬で?』
『どうかしてる……』
『三対一でこの動きって、もう攻略組より……』
『い、いや、さすがに獅条アスカは越えてないだろ……だろ?』
配信を見ていた視聴者たちは皆、呆然としていた。
言葉が激減したのは、もちろん誰もが見とれていたからだ。
レッドドラゴン三体同時出現という、未曽有の危機を生み出したエラー。
しかしそこにやって来た『武器を換えて戦う男』は、三体の猛攻をかわして反撃。
一瞬で二体を打倒した。
「でも、なんで手加減する必要があるんだ?」
驚くべきことは、その『武器を換えて戦う男』が、なぜか残した一体を温存するかのようにしていたという事実。
レッドドラゴン三体に手加減するなんていう意味不明な事態に、誰もが困惑していた。
「さあ準備は万端だ! いくぞ! ルル!」
『武器を換えて戦う男』が叫ぶ。
その疑問の答えは、すぐに明らかになる。
◆
三体目のレッドドラゴンが、吐き出す三連続の炎弾。
俺はその三つ目を大きくかわしたところで、すでに投擲の姿勢に入っていた。
そして手にした魔宝石を、ドラゴンの頭上高くに放り投げる。
「今だ! ルル――っ!!」
俺が叫び声をあげた、次の瞬間。
紫水さんとルルの二人が突然、最後のレッドドラゴンの頭上から落ちてきた。
「「「っ!?」」」
意味不明の事態に、周りの探索者たちが息を飲む。
ルルを先頭に、その右肩を紫水さんがつかむ形での登場。
もちろんこれは【瞬間移動】の応用で、『指定の魔宝石に飛ぶ』という使い方によるものだ。
手を離した、紫水さん。
するとルルはそのまま、頭を下にする姿勢で特攻。
その小さな右手に、宿る光。
ルルがその手を伸ばし、レッドドラゴンの首元に触れた瞬間。
「――――【解体】っ」
まばゆい輝きと共に、発動するスキル。
それは鉱物の混じった岩塊だろうが、機械だろうが、武器や鎧だろうが、バラバラにしてしまう。
そんな脅威の一撃はもちろん、魔物にも適用される。
「「「う……え?」」」
聞こえた驚愕の声。
崩れ落ちていくレッドドラゴンは、各関節を綺麗に斬り落とされた形。
バラバラになっても、出血すらほとんどないほど完璧に解体されている。
そして何より、肝心の『骨』に傷がつくようなこともない。
俺の攻撃では骨ごと斬り飛ばしちゃったり、折れてしまう可能性が高いけど、【解体】なら綺麗なものだ。
「いや、まだ三度しか見たことないけど……これ、マジで反則だな」
単体では間違いなく、ベースで一番戦えないルル。
でも、このコンビネーションさえ決まれば……無敵だ。
「あぎゃっ」
そしてルルは、着地も上手にできない。
落下してきたところを、俺がキャッチする。
「……ありがとう」
一瞬だけ目を見て、ルルはすぐに恥ずかしそうに視線を外す。
「それじゃいくよ【収納】!」
その隙に駆け込んで来た陸さんは、解体されたドラゴンの回収を開始。
まるで最初からいなかったかのように、三体目のレッドドラゴンを【収納】内に収めてしまった。
これで骨格標本造りの素材として、完璧な形で持ち帰ることができる。
「フォッフォ。見事な手際じゃったのう」
華麗な着地を見せた紫水さんは、ゆっくりとうなずいた。
「あ、あの……」
無事にレッドドラゴンを回収できて、一息。
そこに、このホールにいたパーティが声をかけてきた。
「あ、ありがとうございます……」
「助かりました……」
するといくつかのパーティが集まってきて、さらに感謝の言葉を続ける。
「あ、あなたたちが来なかったら、どうなっていたか」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ、大したことでもないし。みんな無事でよかった」
「は、はい」
「ダンジョンを抜けるまでが探索だから、気をつけて帰ってくれ」
「あ、ありがとう……ございます」
きょとんとしている探索者パーティに、軽く答える。
ピンチだったみたいだし、間に合ってよかった。
「響介……」
「はいはい、早く帰って作業に入りたいんだろ?」
人が増えると、途端に居心地悪そうにするルル。
早くもフードをかぶって、防御体勢だ。
集まってる視線は、美少女がとんでもないスキルを繰り出したからで、咎めたり蔑むものではないんだけど。
それに紫水さんの【瞬間移動】は、次の使用までもう少し待ち時間があるし、早く帰っても仕方がないんだけどなぁ……。
「行くか」
それでも人の少ない場所に出るだけで、気分が違うだろう。
俺たちは探索者パーティに見送られて、レッドドラゴンのホールを後にする。
「響介」
「ん?」
四人で元来た道をしばらく進むと、ルルが声をかけてきた。
フードを外して、その翠の目で俺を見上げると――。
「おかげでいい素材が手に入った……ありがとう」
よほどうれしかったのか、見たこともないような笑みを浮かべる。
「また何か素材が必要になった時は……お願い」
「ああ、まかせてくれ。ルルの作るものは毎回楽しみにしてるからな」
「……ん。こんなこと、響介にしか頼めないから」
そう言って、照れたように視線を外す。
それでも早くも頭の中では、すでに完成図が浮かんでいるのか。
進む足はいつもより、軽快だった。
◆
『ピンチだった側の絶望と希望に対して、温度が全然違うのちょっと笑っちゃうな』
響介たちの会話を見ていた視聴者たちは、変わらず唖然としていた。
『落とし物を拾ってあげたくらいのノリだったよな……』
『彼らには、レッドドラゴンすらその程度の敵なんじゃないか?』
『いやー、でも一撃分解はヤバすぎだろ。それは間違いない』
『確かに、あんなの反則だよな』
『でも……』
『そうだよな。そもそも三対一から完璧なお膳立てをしたヤツのヤバさだよな』
『そっちも気になるよなぁ』
『普段戦わない奴らはあの派手な分解スキルに目が行くだろうし、実際すごい。でもレッドドラゴン三匹なんていう攻略組でもビビるだろう状態で、たった一人普通にしてた方も相当ヤバい。ヤバすぎる』
目の前で行われた戦いに対して、始まる熱い議論。
どうやら今回も、長い時間に渡っての語り合いになりそうだ。
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