14.レッドドラゴン
「出たぞ! レッドドラゴンだ!」
「気を抜くなよ」
「了解!」
十階層のホールに現れた二足の大型ドラゴンは、真紅の鱗を身にまとう階層の主。
その迫力だけで震えあがるだろう相手に挑むのは、五人のパーティだ。
上級者五人がかりでなら、問題なく競り勝つことができるだろう。
「迫力が段違いだな」
「でもこのパーティなら大丈夫だ。しっかり観戦させてもらおうぜ」
普段十階層付近にいるパーティも、レッドドラゴン戦の参考にもなるということで集合。
さらにこの上級者パーティが、今回の戦いを配信するとあって、集まる期待の視線の中で戦いが始まる。
「……どういう、ことだ?」
しかし、起きた異変に上級者剣士が唖然とする。
「嘘……だろ?」
視線の先にいたのは、『もう一体』のレッドドラゴン。
すぐに、ざわめきが広がる。
『え? どういうこと?』
『レッドドラゴンが、二体いるように見えるんだけど』
『これ、ダンジョンの生成エラーだろ!』
配信視聴者に、広がる動揺。
魔物の持つ武器に違いがあったり、サイズが違ったりすることは稀にある。
だが今回は、まさかの複数同時。
『双子のドラゴン……ヤバくないか?』
『ヤバいよ。一体を相手にするのと二体同時に戦うのとでは、別物くらい難易度が変わる』
『この階のいる探索者が、皆殺しにされてもおかしくないぞ!』
視聴者たちが、これから起こるであろう大惨事に息を飲み、恐怖する。
しかし不幸は、これだけで終わらなかった。
「……お、おい、あれを見ろ」
「なんだよ、これ以上何があるって……」
その光景に、探索者パーティは愕然とする。
「嘘だろ。嘘だって言ってくれよ……っ!」
「生き残るには、逃げるしかない。でも逃げたら……少なくともこの階に来てしまった探索者たちは……皆犠牲になる」
「今回のエラーは、いくらなんでも酷すぎる。そうだろ? レッドドラゴンが――――三体だなんて」
すでに三体のレッドドラゴンは、配信パーティを補足。
戦いは避けられない状況だ。
『……これ、終わったわ』
『絶望的な状況だな……』
こうして誰もが最悪の事態を予想したところで、レッドドラゴンたちが動き出した。
「来るぞ!」
「まずは二体同時だ!」
「下がれ! 今すぐ下がれぇぇぇぇ――――っ!」
一体目の喰らいつきを、剣士は必死のバックステップでかわす。
「うわあああああ――――っ!!」
すると二体目は飛び掛かりからの前腕振り払いで、剣士を弾き飛ばした。
さらに長い尾による回転撃で、上級者パーティの陣形を一撃で崩壊させる。
「逃げろ! 逃げろォォォォ――――ッ!!」
観戦に来ていたパーティは、ホール外へ出るための通路に大慌てで殺到。
そこへ三体目が放つのは、一発の火炎弾。
「「「うわああああああ――――っ!!」」」
慌てふためく探索者たちの前に、着弾して炸裂。
爆炎と突風によって、まとめて吹き飛ばされて岩壁に激突する。
一瞬で、戦いの流れが決定づけられてしまった。
『――――終わりだ、これ』
配信を見ていた誰かのつぶやきが、この戦いの状況を的確に言い表していた。
◆
「やっぱ早いなぁ」
「フォッフォ。このくらい容易いもんじゃ」
余裕を見せる紫水さん。
ダンジョンにやって来た俺たちは、さっそく十階まで四人でひとっ飛び。
普通に進んだのでは、最短ルートでもここまで早く来ることはできない。
こんな反則じみた真似ができるのは、ひとえに紫水さんの【瞬間移動】のおかげだ。
「ルルちゃん、もっと気楽にしていいんじゃないかな」
陸さんもそう言うが、やはり自分のためというのがあるのか、ルルは緊張気味だ。
今回は骨格標本を作るため、レッドドラゴン目当ての探索を行う。
相手は、言わずと知れた強敵だ。
「そうだ、甘いものはどう?」
「っ!」
俺がドロップマラソンで集中力が切れそうな時に使う、菓子を取り出す。
するとルルは、チョコレートをうれしそうに頬張った。
相変わらずの甘党ぶりだ。
「ドラゴンのタンは、火が通りにくいんだよねぇ」
一方陸さんは、食材としてのドラゴンを語り出す。
「なるほど。やっぱり火を噴く以上、口の中は耐熱仕様もなってるのか」
「ちなみに味は、鶏肉っぽいんだよ」
「そうなんだ」
そんな雑学にうなずきながら、レッドドラゴンが現れやすいホールを目指していると――。
「逃げろ! 早く逃げろ! あのパーティはすぐに崩れる!」
慌ただしく駆けてくる、パーティが二つ。
俺たちを見て、叫び声をあげる。
「お前たちもすぐに上の階に逃げろ! エラーでレッドドラゴンが三体同時だ!」
「え、三体いるの?」
「ああ! だから早く逃げた方が――」
「まあ三体ならいいか」
「はあ!? いやいや、全然よくねえだろ……っ!!」
「レッドドラゴンが三体だぞ! 探索者全体で対策が必要なレベルの危機だ!」
「とりあえず、俺が先行するよ」
「了解。響介くんに任せるよ」
「お、おいっ!」
どちらにしろ、大変な状況にあるようだ。
陸さんたちに見送られて、俺は先を急ぐ。
するとすぐに、異変が聞こえてきた。
見えたのは、倒れたまま動けずにいる複数のパーティ。
そして、三体のレッドドラゴン。
「それじゃあまずは、余計な二体を片付けちゃいますか」
俺はそのままホールに入り込み、レッドドラゴンの前に躍り出る。
気付いた一体目が、すぐさま放つ炎弾。
走る軌道を直線から弧に変えて、回避しながら接近。
すると続けざまに、尾の叩きつけを仕掛けてきた。
これを横へのステップでかわすと、今度は入れ代わるようにして、二体目のドラゴンが飛び掛かってきた。
「よっ」
ジャンプでかわして、背中を踏みつけて再跳躍。
着地したところで、三体目が再び炎弾で攻撃。
左右にジグザクの軌道で走ることで、三連発を全てかわして突き進む。
「……な、なんだあれ、全然当たらねえ」
「どうなってるんだ……?」
「さあ、まずはお前だ!」
そのまま三体目の目前まで踏み込んだ俺は跳び、『ためる』を開放。
「いくぞーっ!! 【強撃】だああああああ――――っ!!」
まずは一体!
肩から腹部へと、両断する一撃で打倒。
「い、一撃で……!?」
振り返り、二体目に狙いをつける。
「【チェンジ】!」
ここで武器を、【リザードマンの剣】に交換。
「【ソードソニック】!」
放つのは、斬撃の連射だ。
「そらそらそらそらそら――――っ!」
飛来する空刃はドラゴンの身体を次々に切り裂き、大きく体勢を崩させた。
「【チェンジ】」
即座に踏み込み、次撃の準備を完了。
手にした【トロルキングの斧】を、全力で振り払う。
「【大木断】!」
「「「なっ!?」」」
脚部を斬り飛ばすと、派手な横回転を見せて地に伏せた。
トドメにもう一発【強撃】を入れれば、もう動けない。
「よし、無傷のレッドドラゴンを一体だけ残せたぞ。下手に攻撃しちゃって、骨を痛めたら意味がないからな」
俺は残った一体を見据えて、息をつく。
「……思い出した。最初の攻撃、トロルキングを一撃で両断したやつだ」
「俺も知ってるぞ。オーガを転がして倒すなんて、見たこともない戦い方をしてたやつだ……っ!」
「い、いや待て。今の話聞いてる感じじゃ、最後の一体を残すために加減して戦ってたってことになるぞ……?」
「一体、なんのために……?」
俺は魔宝石を取り出して、三体目に向かい合う。
「さあ出番だぞ――――ルル!」
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