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13.ルル・エル・クラフトは加工師

「……ん?」


 マーケットの見回りをしていると、見覚えのあるローブ姿を見つけた。

 フードをかぶったまま、一つの露店の前を行ったり来たり。

 ウロウロし続けて、やがてこれ見よがしに立ち止まる。

 しかし、気づいてもらえない。

 店主はやや厳つい感じだから、できれば気付いてもらいたいんだろうなぁ。

 でも雑誌を読んでるから、全然気づかれない。

 結果「どうしよう」みたいな感じで、店の斜め前に立ち続けている。


「ちょっと、見せてもらってもいいですか?」


 俺がたずねると、店主は「あいよ」と短く答えてまた雑誌に目を戻した。


「響介……」

「ずっと見てたよ」

「もっと早く声をかけてくれてもよかったのに……」

「いや、自分で声かけられたらそれが一番かなと思って」

「でも、ありがとう。助かった」


 そう言って商品を手に取るこの子は、ルル・エル・クラフト。

 ベースメンバーの一人だ。


「ほら、フードを取って」

「っ!?」


 耳付きのフードを取ると、とびっきりの美少女が出てくる。

 長いフワフワの白髪に、翠色の目。

 彼女は18歳の、ベース最年少メンバーだ。

 その無表情な顔つきに、今は焦りが見られる。


「顔隠してたら、怪しいやつに見えるだろ」

「し、しないとしないで、変なヤツを咎める目を向けられる……っ」


 そう言ってまた、フードをかぶる。

 確かに視線は集まる。

 でもそれは「白髪翠眼の美少女が出てきた」という意味の視線なんだけどなぁ。


「何より。これをかぶっていれば、目が合わなくてもおかしくないし、許される……っ!」

「その結果が買い物の苦戦なんだよ、ルル」

「まいど」


 無事にダンジョン植物産のコーティング剤が手に入れたルルは、満足気な顔でうなずいた。

 そして俺の背後に隠れるような位置に立ち、帰途につく。


「次は何を作るんだ?」

「今回は、骨格標本を作りたい」

「おお……っ! またすごい物を作る気なんだなぁ」

「昔、博物館に行って、恐竜の骨格標本に感銘を受けた。その時からの夢の一つ」

「なるほど」


 ルルは普段、ベースの部屋でひたすら加工をやっている。


「相変わらず、散らかってるなぁ」


 あれこれ置きっぱなしになってる、ルルの部屋。

 大量の作品と材料、またたくさんの道具が適当に置かれたこの部屋は、とにかく雑多な状態だ。

 俺は持ってきたコーティング剤を、まだ空いてるスペースに置く。


「ありがとう」


 ようやくフードを取った、ルルが息をつく。

 部屋は汚いけど、置かれている作品の数々はどれも見事だ。

 有名美術家の真似と言っていた、ダンジョンキノコのランプがすごく綺麗。

 新作は、大気中の魔力を栄養にして生きるダンジョン植物製のリースか。

 これだけ色とりどりの葉を使った枯れないリースは、世界中でもここにしか存在しない。

 隣りの魔宝石を彫って作ったライオン像なんかも、本当に見事だ。


「これは、ダンジョン製の金属を使った兜か?」

「そう」


 日本式の兜を、これまた魔物の毛皮で作ったぬいぐるみにかぶせている。

 本当に、圧倒的な器用さだ。

 そして、センスがいい。


「これで次は骨格標本かぁ。意外な方向性だな」

「大型生物の骨格標本はワクワクする。まずはそのまま、次に色を変えたり、魔法石で飾ったりもしてみたい」


 ルルは、そうやって語った後。


「……へ、変じゃない?」


 うかがうような目で、そう言った。


「いや、全然。でもデコレーション骨格は新しいかもな」

「ダンジョンで取れるものだけを使って作る。多分頭部だけとかでもカッコいいものになると思う」


 ルルは、目を輝かせて展望を話し出す。


「作品作りなんだったら、変かどうかは気にしなくていいんじゃない?」

「こういう話をして、好感触だったのは響介くらい……」


 ルルは、自分がどう見えるかを結構気にする。

 正直ここに集まってる連中は、皆少し違うこだわりのある人ばっかりだから、変だとは全然思わないんだけど。

 ちなみに他のベースメンバーには、ルルの趣味については俺が先んじて説明しておいた。


「魔物の骨格標本が作りたいって、変だと思う。ずっと加工ばっかりしてるのも……変」

「でも六花に上げた魔法石細工は、部屋に飾られてるぞ」

「そ、それは良かった」

「執拗な頬ずりで、ちょっと小さくなってたけど」

「っ!?」

「で、骨格標本って何で作るつもりなんだ?」

「……レッドドラゴン」

「うわ、面白そうっ!」


 ドラゴンはずっと架空の生物として有名だったけど、ダンジョンの登場によって初めて本物が発見された。

 想像に違わぬ迫力を持ったあの魔物は、その獰猛さと強さもあって探索者を圧倒したんだ。

 これはまさに恐竜の骨格標本のような、ロマンを感じさせる一品になるに違いない。


「変じゃない?」

「ああ」

「おかしくない?」

「ああ」

「これまでの流れを見る限り、そろそろ次のレッドドラゴンが現れる頃」

「なるほど。あの階層は結構タイミングが明確だからな」

「ええと、それでなんだけど」

「なに?」

「…………て、手伝って欲しい」

「いいぞ」


 俺は二つ返事で応える。

 するとルルは、安堵の息をついた。

 骨格標本を作るとなれば、あの大物を上手に打倒する必要が出てくる。

 ルルのスキルや魔力係数を考えると、誰かが手助けする必要があるだろう。


「いつかは作品をまとめて、美術館みたいにするんだろ?」

「そ、それは目標ってだけで、そんなの私なんかじゃムリだから……!」


 俺が言うと、ルルはブンブンと首を振る。

 でも実際ダンジョンにあるものは、全てこれまで世界になかった物だ。

 武器も魔宝石も、魔物も骨格標本も。

 博物館の要素もある美術館を作りたいっていうのは、正直すごく面白いと思う。

 何より、ルルの作品はどれも本当に良い。


「レッドドラゴンが出るのは、二日後の十五時頃。十階層の奥地」

「そういうことなら、持ち帰りがあるから【収納】が使える陸さん含めて三人。できれば【瞬間移動】も欲しいところだな」


 四人がかりでの対応。

 これは久しぶりに見られるか?

 理論上の、ベース最強コンビネーション。


「よし、陸さんと紫水さんに同行を頼んでくる。ルルも準備よろしくな」

「わかった」


 こうして俺たちは、レッドドラゴンの骨格標本を作るという世界初の目標に向けて、動き出すのだった。

 ルルは立ち上がり、買い付けてきたばかりのコーティング剤を確認する。

 そして何やら、作業を始めようとして――。


「あっ」


 足元に転がっていた設計図を踏んで、転倒。

 付近に重ねられていた素材が、バラバラとこぼれる。そして。


「大丈夫か……ぶふーっ!!」

「……? あっ!?」

「ルル、そんな格好のまま外に出てたんか!」


 ルルはローブの下に、下着しかつけていなかった。

 水色の上下に、真っ白な肌。

 ルルは大慌てで、ローブを引っ張って隠す。


「わ、忘れてた……っ! 最初は飲み物を取りに共用スペースに出るだけのつもりだったから……!」


 どうやら部屋では下着姿のままでいて、飲み物を取りに出る際にローブを羽織って共用スペースへ。

 そのまま思いつきで、マーケットに出てきてしまったようだ。


「なぁルル。ドラゴンの骨格標本を作るのと、ローブの下に下着だけでマーケットを徘徊するのだったら、後者の方が『変』なんじゃないか?」

「――――ッ!!」


 俺が思わずそう言うと、ルルは白い肌を真っ赤にしたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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