昼休みの時間
昼休み。小さな教室に、にぎやかな子どもたちの声が響いている。
「○○ちゃん、今日も一緒にごはんたべよ〜」
「うん!」
そんな中で、透は自分のお弁当を広げると、隣の席の友達――優菜ちゃんに目を向けた。
「優菜、ぎゅーしていい?」
「……えっ、また?」
優菜がびっくりしつつも、すこし照れくさそうにうなずくと、透は無表情のまま、ふわりと小さな腕をまわす。
ぎゅっと抱きしめるのはほんの一瞬。でも、それだけで嬉しい気持ちがちゃんと伝わる気がして、透は満足そうに席に戻った。
「透くん、ほんとすぐぎゅーするよね〜」
「えへへ、でもちょっと嬉しいかも〜」
別の子たちも、どこか興味津々のようすでこっちを見ている。
透は優菜を離すと、今度は隣の席の男子――亮太に向き直った。
「亮太、お弁当交換しよ。あと……今日もがんばってたから、ハグしていい?」
「い、いや……いいけど……なんで俺のがんばり知ってんだよ……」
「見てたから」
即答された亮太は、耳まで赤くなりながら黙って腕を開いた。
透はその胸に小さくハグをして、すぐ離れた。淡々としているのに、どこか温かさが残るそのやり取りに、周囲はすっかり慣れっこになっている。
「……てか、透、性別とか関係ないんだなー」
「うん」
きっぱりと透はうなずく。
「好きな人は、好き。種類は色々あるけど……気持ちを伝えるのに、男とか女とか関係ない。俺は口下手だから、ハグがわかりやすくてちょうどいい」
「うわー、かっけぇ……」
「将来、絶対モテるやつだよな……」
「今でもだろ……」
周囲の生徒がそんなことを囁き合う中、透は自分の席に戻って、静かに弁当を開けた。
笑ってもないし、特に照れもしていない。けれど、ほんの少しだけ目元が柔らかかった。
ハグはただの習慣じゃない。
言葉よりも、深く届く感情の表現。
そして、それを受け取った相手がどんな顔をするのか――透はそれを見て、そっと満足するのだった。
それを見ていた先生は、ちょっとびっくりしながらも、静かに微笑んで見守っていた。
ませてる。でも、真剣で、まっすぐ。
そんな透のやり方は、少しずつ周りに馴染んでいく。