告白(樹視点)
夕暮れの公園。
西日が伸ばす影の中で、俺たちは並んでベンチに座っていた。
透は今日、誕生日だった。
4歳。……とはいえ、アイツはどうにも幼児離れしてる。
口数は少ないけど、妙に冷静で、たまに大人でも言わないようなことをさらっと言う。
「……樹」
その声で、俺は隣を見る。透が、真っ直ぐこっちを見ていた。
その目に、いつもの落ち着きと――それ以上の、覚悟みたいなものが見えた。
「俺、お前のこと……恋愛的に、好きだ」
一瞬、思考が止まった。
透が、俺を――そういう意味で?
「言うつもりなかった。けど、もう黙ってるのが無理だった」
まだ言葉の意味を咀嚼している俺をよそに、透は静かに続けた。
「俺、男だし……男が男を好きになるのは、ヘンなんだろ?。だから、嫌ならハグもやめる。……ゴメンな?困らせてしまった。」
笑ってるような顔だった。でも、その目は泣きそうで――でも泣いてなくて、
だけど、俺はもうその顔を見ていられなかった。
気づいたら、抱きしめてた。
「……は?」
戸惑う透の声が耳に近い。
「……整理は、まだついてない。けど、お前の気持ちを聞けて、よかったと思ってる」
自分でも、どうしてそう言えたのかわからない。
ただ、咄嗟に「拒絶したくない」って思ったんだ。
「気持ち悪くはない。ハグはしていい」
その言葉に、透が目を丸くした。
「ほんと?」
「ほんと。……でも、な。お前、まだ小さいから。だから、ちゃんと向き合うのは、高校卒業してからにしよう。な?」
言いながら、俺自身も気持ちがぐちゃぐちゃだった。
でも、不思議と拒否する気にはならなかった。
「……言いたかっただけなんだ。好きって。秘密にしてるのが嫌だった」
透がそんなことを言いながら、抱きしめ返してくる。
「……ああ、いいよ」
その返事が、俺にできる精一杯の答えだった。
今すぐ答えなんて出せるわけがない。
でも、透の気持ちを踏みにじることだけはしたくなかった。
俺はただ、あの小さな背中をそっと抱きしめ返した。
日が沈みかける公園で、世界はやけに静かだった。