くっつきたい気持ち
日が沈みかけた時間。俺は、いつものように公園のベンチで樹を待っていた。
宿題も終わらせて、ちゃんと聞かれたら「終わった」って言えるようにして。
いつもの散歩帰りだろう、樹が向こうから歩いてくるのが見えて、俺は立ち上がった。
「樹。」
「おう、透。今日も待ってたのか」
「うん。……ちょっと、話したいことがあるんだ。」
「ん?」
ベンチに並んで座って、俺は言った。
「……ほんとは、ハグだけじゃなくて、みんなのきほっぺたとか、おでことか、キスしたいんだ。……好きだから。いっぱい、ハグもしたいし、くっついていたい」
言った瞬間、胸がちくりとした。
こんなこと言ったら、変な子って思われるかもしれない。
「でも……きっと、嫌がられるから、しないんだ。……好きだけど、そうしたら困らせちゃうかもしれないし。だから、ぎゅーだけ」
目の前の樹の横顔を盗み見た。
樹は驚いたように目を瞬いてから、静かにため息をついた。
「……透、よく我慢してるな」
「うん。……えらい?」
「すげぇ、偉いよ。……だって、お前、自分の気持ちより相手のこと考えてるんだろ? それって、簡単にできることじゃねぇよ」
そう言って、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
その手があったかくて、言葉以上に優しくて――
「……っ!」
たまらなくなって、思いきり樹にしがみついた。
いつもの“ぎゅー”より、もっと強く、もっと深く。
「……すき。だいすきだ。……樹、ありがと」
「お、おう……」
いつも通りちょっと困ったような、でも優しい声。
その反応が、少しだけ涙が出そうになるくらい嬉しかった。
好きって言いたい。触れたい。くっつきたい。
それが「重い」って思われること、俺はもうわかってる。
でも――その重さを、受け止めようとしてくれる樹が、俺はやっぱりすごく、すごく好きだった。