お仕置き
数日間、樹はとある新作のオープンワールドゲームにドハマりしていた。配信は毎日、昼過ぎから深夜まで。気づけば10時間以上の長時間プレイが当たり前になっていた。
画面の中の彼は元気そうに見える。けれど、声は日に日にかすれ、目の下のクマが濃くなっていく。
「まだいける、あとちょっとでこのダンジョン攻略できるから……」
そんな言葉を繰り返し、食事も睡眠もまともに取っていなかった。
――その頃、透は山の寺で滝行や座禅などの修行に出ていた。スマホは当然没収。彼にとって修行は難しくもなんともなかった。ただひとつ、樹と連絡が取れないことだけが心にぽっかり穴を空けていた。
「…少し、寂しいな」
無表情で滝に打たれながら、ぽつりとそうつぶやく姿は、鬼気迫るものがあった。
修行が終わり、ようやくスマホが戻ってきた透。山を下りる途中、SNSを開く。そこには見慣れた樹のタグと配信のスクショ、そして不安げな声が並んでいた。
【朝倉くん早く帰ってきて…】
【ご飯食べてないみたい】
【明らかにやつれてる】
【寝落ちしそうな顔してんじゃん…】
透は即座に樹のマンションへ、無言で向かった。
その日も、樹は配信をしていた。ゲームに集中していて、部屋のドアが開いたことにも気づいていない。コメント欄がざわつき始めたその瞬間、突然画面に映り込む黒シャツの男の影。
「……」
「……ん?あ、あれ?」
「悪い子、誰だ?」
「ひっ…」
「悪い子には……お仕置きが必要だよな?なあ、そんなに寝ずにゲームして……死にたいのか?」
その声は甘く優しい。だがその瞳には一切の揺らぎも許さぬ強烈な怒りが宿っていた。
【!?!?!?】
【やばいやばい】
【こわいこわいこわいこわい】
【朝倉くんガチギレじゃん】
【でも…ありがとう…】
【止めてくれてありがとう…】
【え?縄……え、縄!?】
「と、とりあえず、配信、切らせて……くれ!!」
その声が最後。画面がブラックアウトし、配信は切れた。
―――
配信が終わった部屋で、透はまるで儀式のように、持参したロープで樹の両腕を縛っていた。それはただの縛りではない。均等な力で血が止まらないよう計算された、美しくも奇妙な結び目だった。
「……お前、これどこで覚えたんだよ……」
「動画サイトだ。見たら面白そうだったから練習した」
「趣味でやるなよ!ていうか、外して!」
「ダメだ。お仕置き中だからな」
キッチンに向かい、透は手早く軽食を作る。出来たてを一口分ずつ、樹の口に「あーん」と差し出す。その間中、目が笑っていない。
「なんでこんなになるまで……。お前の体は、俺の大事なものなんだぞ?」
「……すいませんでした……」
食事の後、透は樹の手を引いて風呂場へ。服を脱がせ、まるで子どもを扱うように全身を洗い、髪を泡立て、丁寧に洗い流す。ヒゲやムダ毛、爪もきっちり整えられ、パックを貼られ、化粧水を叩き込まれる。
「少しは、反省したか?」
「……はい……ごめんなさい……」
疲れと安心が一気に押し寄せたのか、パックを貼ったまま樹はその場で寝落ちした。
髪を丁寧に乾かしたあと、透は彼を軽々とお姫様抱っこし、寝室のベッドへ運ぶ。
「……ほんとに、お前ってやつは。俺がいないと、すぐ無理する」
小さくため息を吐いた透は、樹の隣に滑り込み、そっと彼の額に唇を落とす。
「心配させるなよ。……バカ」




