コラボ配信で寝落ち
その夜、透は自室のパソコンの前でじっと画面を見つめていた。
樹が、ある中堅配信者と雑談系のコラボをしていたのだ。リラックスした雰囲気の中、ゲームもそこそこに、ふたりでゆるく会話を重ねていた。
だが、配信開始から1時間ほど経ったころ――
「……あれ? 樹くん……?」
画面の中で、樹の姿がピクリとも動かなくなった。頭が少し下がり、マイク越しに小さな寝息が聞こえ始める。
【寝た!?】
【まさかの睡眠配信】
【かわいいけど起きてー!】
【誰か起こしてこいw】
配信者は焦りながらも苦笑していた。
「えーっと、これ……どうしよう。ていうか、配信切れるのって、樹くんだけ?」
その言葉に、透は一瞬だけ躊躇った。
(……仕方ないな)
そして立ち上がり、部屋を飛び出した。
マンションまでは早歩き、いや、ほぼ全力疾走だった。
エレベーターの中でもスマホで配信を見ながら、樹がそのまま寝続けているのを確認しつつ――ようやく、扉の前にたどり着いた。
ピンポンはせず、合鍵でそっと中に入る。
リビングには、PCの前でぐったりした樹。そして、配信画面が映るモニター。
透は一度深呼吸してカメラの前へ。
「……すまない、うちの樹が寝落ちたみたいだ」
映った瞬間、コメント欄が爆発した。
【きたああああああ!!】
【伝説の朝倉再登場】
【息切れしてる!?】
【やっぱり合鍵持ってんのかよw】
額にはうっすら汗、息は少し荒く、それでも冷静な声でマイクに向かう透。
「この配信ソフト、どの操作で終了させればいいだろうか……? すまない、手間をかける」
配信者は爆笑しながら操作を説明し、それに従って透は無事に配信を終了させた。
最後に、画面越しに一礼。
「うちの樹が……すまなかった」
【“うちの樹”www】
【彼女か】
【同棲確定演出すぎる】
【美形で謝られても爆笑しちゃう】
【むしろ感謝しかない】
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そして後日。
樹のチャンネルで行われた謝罪兼お詫び配信。本人は開口一番、
「ほんっとに、すまんかった……寝る予定はなかったんだよ、マジで……」
と深く頭を下げる。
ゲストに呼ばれたコラボ相手も、笑いながら語った。
「いや、正直あの登場は神回だったよ。こっちもリスナーも、最後には拍手だったしね」
さらに話題は、後日こっそり届いた「ちょっといいお菓子」の話に。
「え?あれ、送ったの透くんだろ?」
「……まぁ。本人にも謝ってくれって言われたしな。ちゃんと詫びは通すタイプなんだよ、俺も」
「本当に、律儀で面倒見いい彼女さんで……いや、違った幼馴染さんで!」
ふたりとも、また爆笑。
コメント欄は温かくざわつきながらも、
【あの配信は伝説】
【朝倉くん株爆上がり】
【神回またやってくれ】
の文字で埋め尽くされた。
そんな賑やかな空気の中、配信は無事終了。
そして、透はその夜、樹の家で「次から配信前に予定は教えろ」と念を押し、帰っていった――いつもよりちょっとだけ、強めのハグを添えて。