ホラーゲーム配信
夜の配信。
タイトルは《絶叫!罰ゲームホラゲー実況》。
コメント欄には期待と煽りの嵐が並ぶ中、樹は苦い顔でマイクに向き直った。
「……マジで言ってんのかよ、これ。ていうか何が罰ゲームだよ……」
暗い廃病院の画面を前に、樹の顔が露骨に引きつる。
不気味なBGMがイヤホン越しに鼓膜を揺らすたび、肩がピクリと跳ねた。
【やれやれー!】
【さっさと進め!】
【ビビってんの?かわいい】
【前の謎の美形呼べば?】
【確かにあの人の安心感すごかった】
「……」
あまりにも怖くて、ついに一時停止。
「ちょっと待っててくれ。……あいつ呼んでくるわ」
樹はそう言い残して、部屋を出ていった。
画面の向こう側で数分の沈黙。
チャット欄は盛り上がりながらも、どこかそわそわしていた。
そして。
「ただいま。連れてきた」
再び画面に戻ってきた樹の横に、長身の青年が並んだ。
長く黒い髪を一つに束ね、落ち着いた雰囲気を纏ったその姿。
以前、配信にチラッと映った“謎の美形”だった。
コメント欄がざわめく。
【うおお!?本当に来た!】
【また来た!誰だよ!?】
【美形すぎて情報が入ってこない】
【え?ホラゲーに耐えるためのイケメン召喚??】
「……あー、こいつに横で見守っててもらいながらプレイします。怖すぎてな。な?自己紹介しとけ」
樹が促すと、青年は少しだけ眉を下げて静かに頷いた。
「……樹の幼馴染の――"朝倉"だ。今日は、見守り役」
落ち着いた声に、さらにコメントが爆発する。
【朝倉!?仮名感すごいけど!?】
【語彙が渋い】
【こっちのがホラーより怖い(美しさで)】
【見守り役って何!?】
【何者なんだこの人】
透――“朝倉”は特にリアクションをするでもなく、樹の横に座ったまま黙ってモニターを見つめている。
ときどき、樹がビビって声をあげると、視線をそっと向けるだけ。
「うっわ!……って、おまっ、何も言わねぇのかよ!」
「……静かにしろ。音が聞こえない」
「怖えぇっての!」
そのやりとりに、コメント欄は爆笑の嵐となった。
【なんだこの落差】
【朝倉さんの冷静さが逆におもろい】
【この2人もっと出してくれ】
【ホラーどころじゃなくなった】
配信は、ホラゲーそっちのけで“朝倉”の存在に注目が集まる形となった。
樹は途中でぼそりと呟いた。
「……この雰囲気、怖さ和らぐどころか別の意味で緊張するな……」
“朝倉”はふわりと笑う。
「……それなら、後ろから見ていてやろうか?」
「怖さ増してんじゃねぇかよ……」
リスナーがホラー以外の意味で盛り上がる、奇妙で温かい配信の夜だった。