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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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俺と私

画面には、静かな室内。

樹と朝倉、並んで座ってる。照明は控えめで、ゆるくジャズが流れてる。


「……一人称って、さ」

朝倉がふと、話を切り出す。


「ん?」

「日本語って、面白いよなって。俺、私、僕、うち、わし、とか……それだけでキャラ出るっていうか」

「……あー、わかる。初めて話す人が『私』か『俺』かで、ちょっと距離感違うよな」

「うん。でさ、結構、悩んでたんだよな、それ。俺」


樹が目線を向ける。

「一人称、今の“俺”じゃなくてもよかったってこと?」


朝倉は少し笑って、うなずく。

「俺って言ってるけどさ……本当は“私”の方がしっくりくる」


コメント欄に一瞬、「えっ」という空気が流れる。


《え?》

《朝倉くん“私”の方がしっくりくるの?》

《ちょっと意外……》

《でも言われてみれば似合う気もする》


「なんか、口にしてても、“俺”ってちょっと違和感あるっていうか。(……まあ、前世、女だったからな、ってのもあるけど)」


「最初は、私って言ってたんだよ。幼稚園のころまでかな。でも、小学校入ると、男で“私”って言うと、変って言われる」


「……ああ、まあ、あるかもな。まだそういう文化、残ってるもんな」


「子どもって、そういうの、まっすぐ言うからさ。からかわれるのも、嫌だったし。“俺”にしたんだ。強そうに聞こえるし、楽だったから」


「……それが、染みついちゃった?」


「うん。もう、“俺”が普通になって、私に戻すタイミング、完全に失った」


コメント欄:


《うわ、あるある……》

《男子で“私”って言うの難しいよね》

《戻すタイミングなくすの、わかる……》

《朝倉くんの“俺”も好きだけど“私”も聴いてみたい》

《しっくりくる一人称があるのに言えないのつらいな……》


「“私”って、やっぱり落ち着くんだよな。頭の中では、ずっとそっちで考えてる。口にするのは“俺”だけど」


樹が小さく笑った。


「お前さ、ほんと、声のトーンも柔らかいし、雰囲気も“私”のほうが合ってるかもな」


「……言ってみようか?」


「お、試してみる?」


「……私、ね。……私」


ぽつりと発したその一言は、思ってたよりも自然だった。

朝倉も自分で「あ、やっぱりこっちのほうがしっくりくるかも」と微笑む。


「なぁ、俺が『私』って呼び始めたら、変かな。配信でも、普段でも」


樹は軽く首を傾げる。


「変とは思わんけどな。ただ、キャラが柔らかく見えるとは思う。配信って、ある程度イメージで見られるし」


「そうなんだよな。たぶん、みんなの中では“朝倉=俺”で定着してるだろうし。いきなり“私”になると、違和感あるよな」


コメント欄:


《急に“私”になったらドキッとするかも》

《けど、それもまたギャップでいい》

《朝倉くんが言いたいように言えばいいよ》

《前世のことまで含めて考えてるの、なんかじーんとくるな……》


朝倉は、マグカップを手にして、そっと口をつける。


「……戻すタイミングって、ほんと難しいよな」


「無理に戻す必要もないけど、言いたい言葉があるなら、使えばいいんじゃないか? 配信でもリアルでも」


「……うん、ありがとな。……樹」


コメント欄:


《なんか、めっちゃいい話だった……》

《一人称ってただの言葉なのに、重いんだよね……》

《朝倉くんの“私”、また聞きたいな》

《樹さんの言葉、ほんと支えだな……》

《静かな夜のこういう話、めっちゃ沁みる》


夜の配信はそのまま、少しセンチメンタルなまま続いていく。

画面の中で、朝倉はふと、柔らかく笑った。


「……じゃあ今日は、私で、終わるよ」


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