ゆーれー
今日はワイワイ系のまったり配信。
タイトルは《おやつ持ち寄りパーティー!みんなの推しスイーツ教えて!》。
参加してるのは、朝倉・樹・リリィ・陽向(小学生)・雑談系のメイ・ゲーマーのツバサ。机いっぱいのおやつが並び、コメント欄も最初からテンション高め。
「バウムクーヘン、厚さ3センチで切ってるの誰だよ」
「朝倉。ケーキは厚い方がうまいって知ってるから」
「正解だな、それは」
わいわいと盛り上がるなか、チャイムが鳴った。
「あ、レイジさんだ。ちょっと行ってくる!」
リリィが玄関に行き、少しして戻ってきた。
その後ろから入ってきたのは、黒いパーカーにマスクの男、レイジ。先週、肝試し配信で有名な廃旅館に行ったばかり。
「どーも~、遅れてすみませ~ん! あ、スイートポテト持ってきました~。あと肝試しで幽霊に手振ってきたレイジで~す!」
その瞬間だった。
パキッと、空気の温度が変わる。
朝倉が、ぴたりと動きを止めた。
手に持っていたティースプーンがコトンと落ちる。
無言でレイジをじっと見つめた後、絞り出すように呟く。
「……うっわ」
レイジ「え? え、なに?」
朝倉「お前……ホラースポット、行ったろ」
「……まぁ、うん。配信でね?」
「うっわ……うわうわ……マジか……はは……いやちょっと待って、これは……」
朝倉は、顔色ひとつ変えずにじっとレイジの背中の“ちょっとズレたあたり”を見つめながら、ボソボソと呟き続ける。
「……擦れてる。音してる……ぞ……布ずるって音……あー、これはちょっと、うん、やっばいな……」
周囲が凍りつく。
リリィ「えっ!? え、朝倉くん、見えてんの……?」
ツバサ「ちょ、おい、やめてくれよ!?」
メイ「ひっっっっっっ!! 朝倉くん、それ、冗談だよね!?」
樹「……朝倉」
「……」
「……また“黙るとき”の顔してるな。おい、マジのやつか」
コメント欄も当然ながら騒然。
《え!? なに!? え!?》
《擦れてる音って何!?》
《怖い怖い怖い怖い》
《レイジさん配信で連れて帰ってきたやつやん……》
《朝倉が黙ってるときはやばいときって知ってる》
《樹の“またか”みたいなトーン好き》
レイジは乾いた笑いを浮かべつつも、半歩だけ後ずさる。
「……マジでなに? なんか、変なん? 俺、なんか憑いてんの?」
朝倉は一言も答えないまま立ち上がる。
すっとレイジの背後に回り込んだ朝倉、低く呟いた。
「――いくぞ」
「……は?」
バンッッ!!!!!!!
朝倉の掌が、ものすごい音を立ててレイジの背中を叩いた。
レイジ「ふぐっ!」と前にのめって、咳き込む。
メイ「きゃあああああああ!!」
ツバサ「な、なにが起きた!? 今のなに!?」
リリィ「うわ、塊飛んでった!! 空気が揺れたっていうか!」
コメント欄:
《バンッッッ!!wwwww》
《うっそwww叩いたwww》
《めちゃくちゃ効いてて草》
《叩いて落とすタイプの除霊!?》
《除霊系男子、朝倉》
樹「……朝倉」
「まだ残ってる」
次の瞬間、朝倉は無言で、虚空に向かって――
シュッ! シュッ! シュッッ!!
無人の空間に向かって、鋭く、三回の蹴りを放った。
ツバサ「うっわ、見えない相手と戦ってるやつだ……!」
リリィ「見えないなにかを追い出してるんだよこれ……!」
メイ「……あれだよね、アクション映画じゃないよね!?」
コメント欄:
《虚空キック!?!?!?》
《見えない敵に三連撃》
《ホラー回かと思ったら格ゲー始まってた》
《バンからのシュッシュッがもうダメw》
《朝倉、バチバチに決まってて草》
最後に朝倉は、ふうっと息を吐いてキッチンへ向かった。
冷蔵庫と棚を探りながら、冷静な声で呟く。
「……酒、あった。あと塩も」
みんな「「「塩!? 酒!? ってお前、まさか――」」」
そのまま、朝倉は塩を盛り、酒を少し撒く。
「念のため、空気ごと浄化しとく」
淡々と塩を角に置き、テーブル周りに軽く酒を散らす(もちろん最小限、掃除考慮済み)。
その光景に、全員がただただ唖然。
レイジ「……俺、なんか、ほんとに……憑いてたの?」
朝倉「うん。割と強め。たぶん、廃旅館にいた誰か」
「……マジかよ……いや、ごめん、ほんと……」
樹「気づいてなかったのか?」
レイジ「いや、ちょっと肩重いな~とは……」
リリィ「それ、完全に憑いてたじゃん!!!」
コメント欄:
《除霊完了おめでとうございます》
《うちの配信者がすみませんでしたw》
《レイジさん、次回の肝試しは命懸け》
《朝倉兄ちゃん、万能すぎんか》
《今日のおやつ会:除霊と浄化とスイートポテト》
数分後、空気がすっかり軽くなり、再びスイーツタイムに戻った面々。
でも、誰ひとり、朝倉の近くに「塩」を置きたがらなかったのは言うまでもない。