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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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カードゲーム

日曜の午後、ある配信が始まった。タイトルは《おうち遊び配信!今日はゲストもくるよ!》。

いつも明るい声で配信をするリリィが、今日はちょっとそわそわしていた。

画面には、彼女の自宅のリビング。そこへ、ピンポーンというインターホンの音とともに画面が切り替わる。


「……き、来た。ごめんね、うちの子がちょっと人見知りだから、大丈夫かなぁ……」


現れたのは、黒のレザーでまとめられたロックな雰囲気の朝倉と、ラフで落ち着いた空気をまとった樹。

朝倉は真紅のリップに鋲つきのアクセサリー、シャープなラインの目元メイクまで決めていて、

普段のふわっとした雰囲気とは少し違っていた。


《朝倉さん、今日ギタリストみたいでカッコいい》

《樹くんの隣に並ぶと圧がすごいけど美しい……》

《え、今日ホラー企画だっけ??》


コメント欄もざわつくなか、リリィの小学生の息子・陽向ひなたがカメラの端に顔を出す。

……が、すぐさま母の後ろに隠れた。


「ママ……今日の人……ちょっと……こわい」


「……ごめん、朝倉くん。服装、あれ、今日は気分だったんだよね?」


「ああ。ロックな気分だっただけ。怖がらせるつもりはなかったんだけどな……」


朝倉は、怖がらせたことを少し申し訳なさそうに笑いながら、リビングの端に腰を下ろした。

彼の動きは静かで丁寧で、決して威圧感を与えるものではないのに、それでも第一印象のインパクトは強かったらしい。


樹が隣に座りながら、陽向の目線に合わせてしゃがむ。


「なぁ、陽向くん。朝倉ってさ、外見はちょっとロックだけど中身めっちゃやさしいぞ。

あと、めちゃくちゃ甘党。たぶん、君の持ってるクッキー全部食べたがるタイプ」


「……ほんとに?」


「ほんと。……ほら、食べる?」


そう言って朝倉が、リリィが用意したクッキーの皿からひとつつまみ、ぱくりと口に入れた。

一瞬無表情だったが、次の瞬間ふにゃっと頬が緩んだ。


「うん。うまい。……バター多めのやつ、好き」


「……あ、それ、ぼくも好き」


陽向の声が少し近づいた。


そこからは早かった。

まるで何かのスイッチが入ったように、陽向は奥の部屋から自分のカードデッキを持って戻ってきた。


「ねぇねぇ! クリスタルサモナーって知ってる? これ、火属性のレアカードなんだ!」


「お、いいね。初めて聞いたけど、教えてくれる?」


陽向の目がぱっと輝く。


「うん! 火属性は水に弱くて、草には強いんだ! 召喚するにはマナが必要で、毎ターン1ずつたまるの!

“火竜の爪”ってやつは3マナで出せる攻撃力800のレアカード! 俺のエースなんだ!」


朝倉は真剣な顔でカードを手に取り、丁寧に読み込んでから微笑んだ。


「じゃあ……俺、マナ1。ターンエンド」


「それだけ!?(笑)」


ゲームが始まると、朝倉は陽向に完全に遊び相手としてロックオンされてしまった。

最初は怖がっていたはずの陽向が、今や彼の膝に自分のカードを置いて「見て見て!」と無邪気に笑っている。


リリィはキッチンからその様子を見て、思わず吹き出した。


「……あれ、なんで? さっきまであんなに怖がってたのに……」


「朝倉って、最初だけなんだよ。中身はわりと……いや、かなり母性系」


樹が笑いながらコップを受け取る。


《陽向くん、さっきまであんなビビってたのに草》

《朝倉の“お兄さん”力、発動したな》

《母性というより“黒豹に懐く子猫”感ある》

《カードゲーム教えてるの尊すぎるんだが……》


コメント欄もゆるやかに盛り上がっていく。

陽向が「ママ! 次は樹お兄さんと朝倉お兄さんと3人でやりたい!」と言い出し、

朝倉が静かにカードを切りながら「ルール覚えたし、そろそろ勝てるかもしれない」とニヤリと笑う。


「ねえ陽向、さっきは怖がってごめんな」


「ううん……怖くないよ。もう全然」


「そうか。じゃあ……次、俺が勝ったら、その“火竜の爪”もらおうか?」


「やだー!! 絶対負けないからな!!」


陽向が笑いながら身を乗り出すと、朝倉は軽く肩をすくめて小さく笑った。

樹はそんな2人を眺めながら、こっそりカメラに手を振る。


「……これ、完全に“陽向の朝倉兄ちゃん”誕生したな」


《一家に一人ほしい朝倉兄ちゃん》

《カードゲームで完全に攻略されてるの草》

《陽向くんの中の朝倉ランキング急上昇中》


――こうして、ただの“配信のついでに寄った日曜日”は、

ほんのちょっと温かくて、優しい記憶として残っていくのだった。


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