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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
149/152

戦争の火種(notシリアス)

画面の左下にカラフルなテロップが踊る。

《お菓子パーティー開催!甘党全員集合!》

配信者たちのテンションは、最初からMAXだった。


「やーっほー!今日は“甘党代表”が集まったぞーっ!」

「お菓子食べるだけの回です!ダイエット中の人は見ない方がいいぞ!」

「いや見ろ!そして耐えろ!」


顔ぶれは賑やかそのもの。

女子配信者3人――お調子者のアカネ、丁寧系で天然なユウナ、帰国子女でクールなマリナ。


そして、その端で落ち着いた声が入る。


「……どうも。今日は呼んでくれてありがとう。朝倉です。あと、うちの……彼も。」


「……樹です。よろしくお願いします。」


静かに頭を下げたのは、朝倉の恋人である東堂樹。

彼は普段ゲーム配信や雑談をメインにしているが、今回は“見守り役”という名目で特別参加となった。


> 「まさかの朝倉くんゲスト!?」

「樹さんと一緒に!?熱い!!」

「待って、この組み合わせ最強すぎん?」

「お菓子<朝樹で頭がいっぱい」




「……ま、今回は主役は俺たちじゃないから。おとなしく見てるよ」

樹は苦笑しながら、隣に座った朝倉にちらりと目をやる。


朝倉は無表情気味にうなずいたあと、テーブルの端に置かれた包みを静かに撫でた。


「(でも、まぁ……“最後に出す”って言ってあるしな)」



---


まずはアカネの出番。彼女は堂々と袋入りの駄菓子詰め合わせを出す。


「どーん!!“10円で世界を救え”シリーズです!最強!!」


> 「もはや修学旅行のテンション」

「予算低めなのに満足感MAXのやつ」

「全部甘いのに全部違う味するのすごい」




次に登場したのはユウナ。

おぼつかない手つきでタッパーを開けると、豆乳プリンと手作りクッキーが姿を見せた。


「形はアレだけど……味は大丈夫なはず、たぶん……」


> 「不安になる前置き」

「でも可愛いからOK!」

「甘くなくても許される顔面」




三番手、マリナはシンプルに高級感で殴ってきた。

ガラスの容器に入った金箔付きマカロンとトリュフチョコ。


「“うちはこういうのしか食べない”っていう家で育ちました。」


> 「つよい(物理)」

「甘さが…貴族…」

「ひと粒で100円超えそう」




三者三様の“お菓子披露”に、コメント欄も拍手と驚きに満ちていた。


だが、そこで朝倉が立ち上がる。

彼の手には、黒い包み。まるで貴重な書物のような存在感。


「……俺のも、出していい?」


3人がうなずくと、朝倉はゆっくり包みを解いた。

そして、口元に微笑を浮かべてこう言った。


「――戦争の火種を、持ってきた。」


「……はい???」


その瞬間、空気が凍った。

女子3人、口を揃えて絶句する中、唯一真顔になったのは――樹だった。


「ちょっと待て、それどういう意味?中身見てもいいか?」


「……ふふ、落ち着いて。爆発物じゃないよ。」


そう言って箱の蓋を開けると、そこには――ふっくらとした円形の和菓子。

生地はしっとり、香ばしい焼き目。そして中にはあんこ。


「……これ、俺は“今川焼”って呼んでる。」


3人の顔が一斉に変わる。


「えっ、それ大判焼きじゃん!」

「えー!?回転焼きでしょ!?」

「うちは“御座候”だったな……」


> 「はじまった」

「文化圏バトル開戦」

「樹さんが真顔で“ほんとに戦争だった”って呟いてるw」

「これだから和菓子は怖い」




樹はテーブルに手をついて深くため息をついた。


「“戦争の火種”って、そういう……いや、いやでも、わかる……」

「俺、今川焼って呼んでたけど、呼び名にこだわったことなかったわ……」


マリナがムキになって言う。


「いやいや!“大判焼き”って紙袋にすら書いてあったからね!?それが公式でしょ!?」


アカネも参戦。


「うちの地元、回転焼きって看板出してる屋台が祭りでずーっとあるんだよ!?文化だよ!?」


ユウナはあわあわしながら言う。


「御座候って言って通じなかったこと、今思い出して泣きそう……」


> 「まさかの持ち寄り配信で文化圏戦争」

「朝倉の一言が引き金だった」

「樹さん、止める側のはずなのに“なるほどな…”って納得してるの草」




その喧騒の中、朝倉は一つ取り上げて樹の皿にそっと置いた。


「……名前なんか、どうでもいいよ。

“好きな人が、美味しいって思ってくれたら”――それでいい。」


その言葉に、樹はふっと笑って首を傾げる。


「甘やかすなよ。お前が戦争ふっかけた張本人なんだからな?」


「ふふ。ちゃんと平和に戻したじゃないか。」


朝倉が微笑むと、3人の女子配信者たちも、ようやくそれぞれに和解しはじめる。


「……確かに、美味いから、どっちでもいいかも」

「この生地ふわふわすぎない?店のより美味いんだけど」

「……あれ、これ何味?あんこに柚子?」


> 「結局味で黙る」

「文化は争っても、うまさは共通」

「やっぱ朝倉料理できるの最強か」




そして、配信終盤。

樹がぽつりと呟いた。


「……いや、でも俺、今まで“今川焼”だって信じてたんだけど……もう揺らいできたわ。」


朝倉はすぐ隣で、甘く囁いた。


「……じゃあ、樹のために、これからは“君焼き”って呼ぼうか。」


「やめろそれはそれで気まずい。」


大爆笑と悲鳴とともに、配信はクライマックスを迎えた。



---


“お菓子一つで、戦争も起きるし、世界も救える。”

最後にそんなテロップが流れ、画面は静かにフェードアウトしていった。


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