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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
148/152

教官朝倉

『MISSION:レディ〜最下層からの下剋上バトル!』


配信タイトルが発表された時点で、視聴者はすでに察していた。

これは、あの3人が集まっていい企画ではない。


出演者は3名。

・寝癖爆発のゲーム配信者・ソラ

・ジャンク飯紹介系VTuber・トモミ

・口調が完全にお兄ちゃん系歌い手・カンナ


つまり「女子力って何? 肘で米といじゃダメ?」という世界から来た3人だ。


だが今回は違った。

画面に踊るテロップが、それを物語っていた。


「優勝者には、朝倉が選んだ“世界にひとつだけのご褒美”プレゼント!」


視聴者がざわめき、出演者のテンションが変わる。


「え? 朝倉って、あの朝倉さん!?」

「いやいや…え? あの…モデルで…超有名な…?」


混乱する彼女たちの前に、スタジオの扉が音を立てて開いた。


コツ、コツ、とヒールの音が響く。

シンプルな黒のスラックスに、白のシャツ。髪は艶やかな黒を低くまとめ、瞳は真っ直ぐに前を射抜いていた。


静かに、完璧な美しさが歩いてくる。

教官、朝倉の登場だった。


「……こんにちは。今日から君たちには、3つの試練に挑んでもらう。“自分を磨き抜いた者”だけが、報われる場所まで辿り着ける。大丈夫、自分に向き合う覚悟があるなら。」


声は低く、穏やかで、でもどこか背筋を正される響きだった。



---




【MISSION 1:スキンケア・美の基礎を学べ】


朝倉の前に並べられたのは、種類も質感もまるで違うスキンケア用品の数々。

それを前にして、3人は困惑していた。


「これ、何から使うの……?化粧水と乳液って別モンなの?」

「え、てかこの化粧水さ…水じゃん。意味ある?」


朝倉は何も言わず、静かに一人ずつの顔に触れた。

目を細めて肌質を確かめ、手にクリームを取る。


「トモミ、油分が強すぎる。これは朝の洗顔をしてない証拠。……ちゃんと、寝たあとも顔を洗って。夜は砂漠、朝は油田。それが肌。」


「ひえっ、怒られてる……けど言い方が…やさしい……」


「ソラ。君は逆に乾燥しすぎてる。化粧水だけじゃ、守れてない。バリアを貼らなきゃ。」


「……バリア……」

「(ゲーム用語で言ってくれるのありがてぇ)」


ひとつ、ひとつ。

朝倉は笑わず、でも責めずに教える。

知識がなかったことを責める代わりに、「今から知ればいい」と言葉で示す。


「美しさは、“自分に何を与えてきたか”の積み重ね。サボれば、それが出る。続ければ、いつか報われる。」



---




【MISSION 2:ファッション・スタイリングで“自分”を魅せろ】


次なるステージは、朝倉が用意した“カスタムスタイリングブース”。


そこには色とりどりの服と小物、靴やバッグが並んでいた。


「ルールは簡単。自分の魅力が引き出せる服を、5分で選ぶこと。」


「え!?服とか、わかんない!全身黒にしときゃいいってわけじゃないの?」

「ヒール? 走れない靴はく意味あるの?」

「パンツって、これ、どっちが前?」


阿鼻叫喚の中、朝倉は静かに言った。


「服は、君たちが“どうありたいか”を先に決めてから選ぶもの。“選ばされる”んじゃない。“選ぶ”の。」


最初こそ混乱していた3人も、時間と共に変化していく。

「らしくない」服に袖を通した瞬間に、新しい自分がちらりと顔を出す。


鏡の前で、照れたように笑う姿に、コメ欄もざわついていた。


「おい…ちょっと…トモミ美人じゃね?」

「ソラが姉貴から姫に進化してるんだが」

「カンナの男前ドレス……良すぎて泣く」


それを見て、朝倉は小さく微笑んだ。

「ほら、最初から素質はあったってこと。」



---




【MISSION 3:一番美しい“振る舞い”を見せろ】


ラストミッションは、ティーパーティを想定した所作審査。

立ち居振る舞い、言葉選び、姿勢、全てを見られる。


「“レディ”って言葉は、所作の美しさだけじゃなくて、“心の在り方”に宿るもの。

どんなに見た目を整えても、人を蔑ろにする人間はレディじゃない。」


そう語った朝倉は、ひとりずつに紅茶を注ぎながら言った。

「最後に、ひとつだけ質問をする。…君が、今日“レディ”として学んだ中で、一番大事だと思ったことは?」


3人は、それぞれの言葉で答えた。


「自分に手間をかけてあげることが、ちゃんと大事なんだって思いました。」

「人に見られるとかより、鏡の前の自分に恥ずかしくないようにしたいです。」

「……今まで、女子力とか言って笑ってたけど、逃げてただけでした。少しずつ、変わりたい。」


朝倉は頷いた。目元だけが、柔らかく緩んだ。



---




【優勝発表・ご褒美の時間】


視聴者投票で選ばれたのは――ソラだった。

最初は寝癖すら直さなかった彼女が、今日は視線を真っすぐに返してくる。


朝倉は一歩前に出て、手にした小さな白い箱を差し出した。


「ご褒美は、君だけの“香り”。君の雰囲気と相性を見て、特別に調合したオードトワレ。」


驚くソラに、朝倉は静かに言った。


「“綺麗になること”は、自分に魔法をかけること。

……その魔法、君が信じて続ければ、どこまででも行けるよ。」


スタジオに、拍手が起きた。

3人はそれぞれの成長を抱えて、少しだけ自信を持った顔でカメラに向き直る。


画面には、こう書かれていた。


「MISSION:レディ──完了。」


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