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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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樹はイイオトコ

「……着てみて」


朝倉が差し出してきたのは、ダークネイビーの艶感あるスーツ。シルエットもサイズも俺ぴったり。

……っていうかこれ、オーダーじゃない?朝倉、お前また勝手に仕立てただろ。


「……俺、別にこういうの似合わないって」


「樹が似合わないわけないだろ? いいから脱げ。あとシャワー浴びてこい」


「な、なんでシャワー……?」


「俺が髪セットする」


言い切られてしまった。

朝倉の目は真剣。いや、真剣すぎて怖いくらい。もしかして、何かの撮影か?ってくらいの本気度。


言われるがままシャワーを浴びて戻ると、朝倉はすでにスーツ一式をハンガーから外して待っていた。

自分も、やけにドレッシーな服装。黒地にゴールドの刺繍が入ったジャケット、アクセサリーがきらきらしてる。

リップはいつもの真紅よりも深め、そして前髪を流したヘアスタイル。どっからどう見ても、夜の街で一番人気のホストかその幹部。


「……お前、なんの店にいた?」


「任せろ。夜の街のお姉様方に、“イイオトコの仕立て方”をちゃんと学んできたからな」


「なんで学ぶ必要あったの」


「お前が、俺の“隣に立つ”にはイイオトコであるべきだから」


さらっと、恐ろしいことを言う。

目が本気。スーツを着せられ、ネクタイを巻かれ、髪をドライヤーと整髪料で整えられ――


「……あ、ちょっとこっち向いて」


「こう?」


「……ん。睫毛が長い。上げると色気出るな」


ホットビューラーでまつ毛まで調整されたとき、俺は完全に諦めた。

朝倉のこのモードに入ったら、もう逆らえない。


数十分後。姿見の前に立たされた俺が、思わず声を漏らす。


「……マジで、俺?」


そこには、見たことない自分がいた。

髪は軽く流され、表情もすっきりして見える。スーツのラインが体をシャープに見せてて――確かに、悪くない。


「……やればできるんだよ、樹は」


朝倉が隣に来て、腕を絡めてくる。

香水の香りが近い。ひんやりした指が手の甲に触れる。


「どう? 俺の連れてる男、悪くないだろ?」


「……お前、自分の彼氏のこと“連れてる”とか言うな」


「お姉様方に教わった。“オトコは連れて歩け”って。ほら、“愛人っぽい雰囲気を出す”と、男が映えるんだって」


「俺は本命彼氏だが?」


「ふふ、知ってるよ」


そのまま朝倉は俺の腕を引いて、鏡の前でツーショットになるように立った。


黒いスーツの男と、金刺繍の美少年。

色気も貫禄も、どっちもある。まるで映画のワンシーンみたいだ。


「……自分がこういうの、似合うと思わなかった」


「似合うよ。俺が保証する。お前、目が綺麗だし、輪郭もいいし……首も、ちゃんと細い」


「首……?」


「スーツは、首筋が色っぽいかどうかで決まるって。……俺は前から、お前の首、好きだったけどな」


平然と、そんなことを言ってくる。

顔は変わらないのに、声だけは妙に優しくて甘くて、たちが悪い。


俺が少し黙ると、朝倉がすっと横目で見てきた。


「赤くなった?」


「なってねぇ」


「なってる」


「……お前、ほんと……」


「なに?」


「……似合ってるよ、お前も」


一瞬、朝倉の目がまるくなった。

そして、少しだけ唇の端が動いた。笑ってるんだ、たぶん。あいつなりに。


「じゃあ今日は俺がエスコートしてやる。大丈夫、俺、歩き方も学んできた」


「どこで?」


「新宿のクラブのママに」


「お前どこまで修行してんだよ」


「推しのためだから」


さらっと、まるで当然のように。

俺の恋人が、今こうして俺の隣で、俺のために最高の見栄えを作ってくれてる。


……これ以上の幸せ、あるか?


たまには、こういう日があってもいいか――と、鏡に映る“イイオトコ”な自分をもう一度眺めて、俺は小さく息を吐いた。


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