表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
142/143

赤いチョーカー

夜の部屋には、静かな息づかいと、柔らかな照明の影だけが漂っていた。


窓の外では春の夜風がカーテンを揺らし、微かな音を連れてくる。そのなかで、樹はベッドの端に座って、手元にある小さな包みを見つめていた。折り紙ほどのサイズ。つや消しの黒い箱に、真紅のリボンがひと巻きだけ結ばれている。


「……朝倉、こっち来て。プレゼント」


その言葉に、ロングヘアをふわりと揺らして、朝倉がソファから立ち上がる。ラフなパーカーのフードを外しながら、ゆっくり歩み寄ってくる。


「プレゼント? 俺、誕生日でも記念日でもないぞ」


「そうだけど、お前って記念日関係なく、何かあげたくなるときあるだろ。そういうやつ」


不思議そうに眉を寄せながらも、朝倉は素直に箱を受け取る。手の中で軽くて、少しだけ温かい。リボンを解き、ふたを開けた瞬間、目に入ったのは――


真紅のチョーカーだった。


しっとりとした上質なレザー。内側は朝倉の肌に馴染むように加工され、金具はマットゴールドで統一されている。中央には、ちいさく彼の名前と「K.T.」の刻印。


「……これ、オーダー?」


「うん。サイズも、素材も、全部。お前がつけるための一本」


朝倉は一瞬、言葉を失ったように見えた。それから、ゆっくりと唇をほころばせる。


「……すごいな、お前。これ、俺が欲しいって言ったことあったっけ?」


「いや、でも……似合うの、わかってたから」


その答えに、朝倉は一度ふっと笑って、そっとチョーカーを取り出す。


「つけてくれ」


「いいのか?」


「うん。お前がくれたもんは、お前につけてほしい。……俺が、お前のもんだって実感したい」


――その声には、甘さと、少しの熱が混じっていた。


樹は立ち上がり、背後にまわってそっとチョーカーを首元に巻く。カチリと音がして、しっかりと留まった瞬間、朝倉の体がぴくりとわずかに震えた。


鏡越しにその姿を見ると、長い髪と紅いチョーカーが美しく溶け合い、思わず息を呑む。


「……似合ってるよ。かわいい」


「ふふ……ありがとう。……ああ、俺、お前のだって感じがする」


朝倉はそう言って、ゆっくりと樹の胸に顔を預ける。


それは静かで、深くて、確かで――

誰にも見せない夜の、ふたりだけの約束のようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ