野球部の試合での再会
その日、透は野球部の春季大会の試合を応援しに、隣町の高校のグラウンドへと足を運んでいた。スタンドの最前列で静かに声援を送る透の姿は、黒髪を一つに束ねた長身で人目を引く存在だった。
──すると、ふと視線の先に見覚えのある姿があった。
「……優菜?」
声をかけると、帽子を被りスコアボードを手にしたマネージャー姿の少女が振り返った。
「えっ、透!? え、うそ、なんでここに!?」
「応援。友達の学校の試合だから。……久しぶり」
そう言って、透は一歩近づく。
「ギュッ、してもいい?」
「うん、もちろん!」
自然なやりとりのあと、透は優菜をぎゅっと抱きしめ、額に軽くキスを落とした。久々の再会を喜び合う2人。──だが、近くで見ていた野球部の選手たちは騒然とした。
「え、今の……キス!? え、優菜マネって……彼氏いたんじゃ……」
「やばくね? 今の、完全に浮気現場……!」
そんなざわついた空気の中、グラウンドの向こうから走ってきた1人の男子生徒──涼太が現れた。
「おーい! 優菜、透ー!」
その声に透と優菜が顔を上げる。
「涼太。来てたんだな」
「ああ、応援と、お前に会えたらラッキーかなって思ってた!」
……そして、次の瞬間。
透は涼太に向き直り、少しだけ首を傾けながら言った。
「涼太も、久しぶり。ギュッ、していい?」
「もちろん!」
抱きしめられながら、涼太は当たり前のように透の頬にキスをもらう。
──そんな光景を見た周囲の野球部員たちは、今度こそ絶句した。
「えっ……彼氏……? 彼女……? え? ん? 修羅場じゃないの……?」
「なにあの爽やかさ……。爽やかすぎてむしろ混乱する……」
優菜は笑って言った。
「大丈夫だよ。私と涼太をくっつけてくれたの、透なんだよ」
「うん。2人が仲良くて、何より」
透はそう言って、ふわりと微笑んだ。いつもの、言葉少なで真っ直ぐな優しい笑顔。
そして、どこか整いすぎていて浮世離れした雰囲気に、また周囲が息を呑んだ。
──透は透のままで、愛を伝える。
相手が誰であっても、変わらず。
そして、それを信頼して笑う仲間がいてくれる。
そんな関係性が、そこにあった。