ビリビリ
大型コラボ配信。画面には豪華な顔ぶれが並び、視聴者数はあっという間に十万を超えていた。進行役の明るい声と共に、配信は罰ゲームタイムへと突入する。
「さあ~、スゴロクの運命は誰に微笑むのか! スタートぉ!」
スゴロクボードの駒が止まった先、それは――罰ゲームマス。
そしてそこにいたのは、初参加の朝倉だった。
「……あ、俺か」
朝倉は少しだけ目を丸くしたあと、静かに「へえ」と呟いて笑った。まるで、珍しいお菓子を見つけた子供のように、素直な興味を滲ませながら。
「えー! 初参加でいきなり電流とか可哀想~」
「どんな洗礼だよ……」
他の配信者たちがざわめく中、朝倉はパッドを付けられながら、至って落ち着いていた。というより、どこか楽しそうですらある。
隣に座る樹は、モニター越しにちらりと朝倉を見て、「無理すんなよ」とだけ声をかけた。
「ん。大丈夫。……ちょっとワケあってな、痛みには耐性があって」
朝倉は何でもないような顔でそう言った。
深くは語らない。けれど、その言葉の端に、どこか柔らかい影があった。普段の配信では見せない、少しだけ静かな顔。
しかし次の瞬間には、再びいつものクールな調子を取り戻していた。
「ま、経験としては面白そうだし。やってみたい」
「いやいやいや……罰ゲームって基本“嫌”がるものだよ!?」
「テンションが朝倉くんだけ違うんだけど……」
配信者たちがツッコミを入れる中、進行のカウントが始まる。
「いくよー! 3、2、1――ビリッ!」
ピリリリリッ――!!
その瞬間、他の配信者たちは顔をしかめたり、思わず自分の手をすくめたりしていた。視聴者コメントも「うわぁぁ」「大丈夫!?」とざわついていた。
だが、当の本人――朝倉は。
「……おお、なるほど。これが電流か。確かに、芯から来る感じ。表面は大丈夫だけど、骨の奥にジワッとくる」
ごく冷静に、感想を述べていた。
「なんか、悪くないな。面白い……えっ、もう一回やっていい?」
「やめとけ!」
樹が思わず笑いながら止めた。
「マジで楽しんでるやつ初めて見たわ。お前、バグってんのか?」
朝倉は苦笑しながら肩をすくめた。
「だから言ったろ。ちょっとだけ、痛みには慣れてんの。昔から、いろいろあって」
言葉はさらっとしているのに、ふと空気がひと呼吸ぶん静かになる。
けれど、朝倉はすぐに口角を上げた。
「まあ、今はもう平気だし。こうやって皆でワイワイできてるの、楽しいしな。電流すらお祭り気分で味わえるのは、わりと幸せだと思う」
「……強いなぁ、朝倉くん」
「いや、感性どうなってんだよ……」
「好きになっちゃうだろ、そういうとこ……」
コメント欄も、もはや笑いと戸惑いと惚れの入り混じったカオス状態。
進行役がうっすら笑いながらマイク越しに言った。
「……あの、これ罰ゲームなんですけど……」
「え? ごめん、忘れてた。罰ゲームだったか、これ」
ほんの少しだけ照れたように、朝倉が言う。その横で、樹は肩を揺らして笑いながらつぶやいた。
「……お前がいちばん罰ゲームしてねぇわ」
その後、朝倉の「電流平気」エピソードは伝説の一つとなり、彼のイメージには“ちょっとズレた感覚を持つ最強高校生”というタグが追加されたのだった。